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花の魔術師に誘われて  作者: 樹(いつき)
第五章 Something Great
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大丈夫

始まりは、ひとつの流れ星だった。

流れ星は願いを叶える力を持つと言う。

スピカは、困った人を助けたかった。

弱い人を、助けたかった。


だから、毎日強く願った。

皆の願いを叶える力をください、と。

ある日、夜空を眩い流星群が覆った。

願いが空に届いたと思った。


困った人の願いを聞くと、頭に光が満ちて、スピカが形を思い描くと、それは現実になった。

貧しい人が食糧を求めたら、その人の左腕を果物に変えてあげた。

母親が病気で苦しんでいると聞いたら、心臓を止めて助けてあげた。

そうして繰り返しているうちに、自分が魔女と呼ばれるものであると知った。


感謝が欲しくてやったわけじゃない。

困っている人を見過ごすのが嫌だったからだ。

そのあとのことなんか、知らない。


たとえ嫌われたって、困った人を助けたい。

その一心で、星の魔女スピカは町から町へと渡り歩く生活をしていた。

もう百年か二百年か、月日を数えることも忘れてしまった。


スピカは魔女だから、夜も眠らない。

日中は人を助けて、夜は空に祈る。

その日も、そうして過ごしていた。


突然の爆発だった。

東の空が赤く燃える。

スピカは事故でも起こったのかと思い、逃げる人々に逆らって現場へ歩いていく。

誰か怪我でもしていたら大変だ。

助けてあげなければ。


使命感を胸に、スピカは歩く。

わき道から大通りに出た瞬間、胴体の中心を、銀の矢が貫いた。


すぐに引きぬいて、飛んで来た方を見ると、赤紫色の髪をした女がこちらに矢を番えて立っていた。


「スピカを狙うってことは、あなたが魔女狩り?」


問いかけには答えなかった。

スピカは喋りながら、雑踏の中へと紛れ込む。

弓矢をこの人ごみの中で打てば、無関係な者にも当たってしまう。

さすがにそこまではしないだろうと読んだ結果の行動だった。


腹部の傷が塞がらない。

今回の魔女狩りは勝てる手段を整えてきている。

恐らくは、魔力そのものを遮断する何かを見つけたのだ。


スピカは不意打ちを受けたものの怒ってはいなかった。

むしろ、そこまで辿りつけた努力に対して、称賛を送りたいとすら思っていた。


不意に、右足のふとももに痛みが走る。

他の人間を貫通してきたのではない。

群衆の中の、僅かな隙間を縫って、矢がここまで到達したのだ。


(だったら、最初から遠くから狙えばいいのに)


狩人はなぜ先程姿を現したのか、理由を考える。

昔の魔女狩りだったら、名乗りを上げて決闘を申し込んでくるところだ。


(考えてもわからない。スピカは戦いたくない)


空に浮かんで、さっきの魔女狩りを探す。

遮蔽物がないということは、こちらからも向こうの位置を特定できるということでもある。


「魔女狩りさん、どこにいるの? お話をしましょう?」


呼びかけに応える者はいない。

爆発音が遠くで響く。

音に反応してスピカが振り向くと、矢が顔を掠めた。


「見ぃつけた!」


空を飛んで、弓を持つ魔女狩りの正面へ降り立った。

彼女の顔には表情がなく、口も開かない。

獲物を狙う鷹の目をしていた。


スピカの身体から流れる血は止まらない。

でも、スピカは気にしていなかった。

痛みを感じるのが久しぶりすぎて、どれくらいの傷なのかわからなくなっていたのだ。


「ひとつだけ聞きたいんだけど、どうしてスピカの前に出てきたの? あなたくらいの腕前なら、すごく遠くからスピカを殺すことができたわよね?」

「…………」

「喋りたくないの? どうして? あっ、そうだ。スピカが、あなたの願いごとを何でもひとつ叶えてあげる。たぶん、そういうことよね?」


彼女は優秀な狩人なのかもしれない。

しかし、揺れている。

何か、引っかかるものがあるのだ。


スピカは、相手が願ったことを、そのまま感覚で受け取ることができる。

口が利けない人間と会った時に編み出した方法だ。


「スピカは、別に魔女狩りに狩られることを嫌がっているわけじゃないわ。この先、困っている人たちを助けてあげられなくなるのは残念だけど、できるだけたくさんの人を助けてきたし、それが永遠じゃないことも知っている。たくさんの『横の世界』が見えたから。そのどこにも、永遠は無かった。今日、ここが終わりなら、それでもいいわ。でも人間さんの願いを叶える星の魔女としての、スピカの願いを叶えさせてほしいの。それは、あなたの願いを叶えること。そしたら、スピカは満足して星になることができるのよ」


スピカが話している間、魔女狩りは動かなかった。

スピカは魔法で攻撃をするつもりのないことが、魔力の波を読める彼女たちには理解できる。

だから、戸惑っているのかもしれない。


スピカの言葉に嘘偽りはない。

前回の茶会の時点で魔女が劣勢であることはわかっていた。

いずれこうして成長した魔女狩りたちに狩られるだろうことも予想できていたことだ。


交渉に持ち込んでいるつもりもない。

ただ、目の前にいる魔女狩りが『困っている人』に見えた。

それだけのことなのだ。


「……私は、お前ら魔女を絶滅させるために、魔法学校で身体を改造された。ただ、今となっては、町を巻き込んで、魔女を殺すためなら犠牲も厭わない魔法学校の在り方に疑問を持っている。お前が願いを叶える力を持つ魔女であることは知っていた。だから、私が来た」


彼女は淡々と語る。

口調に感情の波はないが、魔力は微かに揺れている。


「ふむふむ。スピカがスピカであると知ったから来たのね?」

「――私は、魔女狩りになるために目を取り換えられた。それに対応するために、頭の中も取り換えられた。弓を素早く引くために、身体中の骨や筋肉も取り換えられた。衝撃に耐えられるように、内臓も取り換えられた。今の私は、一体何だ? 魔女狩り四位アルファという個体なのか? それとも、私なのか?」

「……とても悩んでいたのね」

「私は、もう私のような人間を生み出してほしくない。星の魔女スピカ。私の魔女殺しの弓矢で受けた傷は、絶対に魔法では治らない。だから、お前が死ぬのは時間の問題だ。魔女狩り四位アルファとしての役目は果たした。このあと、お前がどうしようと私にはどうにもできない」

「全部言わなくてもいいわ。スピカには分かるから。辛かったわよね。大丈夫。全部、元通りになる」


スピカはまるで母が子を抱きしめるように、ゆっくりと優しく彼女を抱きしめた。

赤紫色だった髪色は栗毛色に変わり、顔の形は代わり、体格も幼くなった。

『横の世界』から、身体を作り変えられる前の彼女の姿を取り出した。


それと同時に、彼女の命は果てた。

願いには代償が必要だ。

だが、彼女のもうひとつの願い、もう二度とこんな悲しみを生まないための代償は得られない。

だから、ここから先は、スピカ個人の願い──ワガママだ。


スピカは血を流しながら空を飛んで一直線に向かう。

目的地は魔女狩りの本拠地、魔法学校だ。


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