推薦してあげるわ
グレゴリは、グラスネスの町の地下に伸びている水道のトンネルをひたすらに歩いていた。
前を歩く、蝋燭を持った黒くて立体感のない影は影の魔女の手下らしく、何も喋らない。
しばらく進んだところで、影は立ち止まり、足元に蝋燭を置くとその影の中に溶けて消えた。
「おい、俺に用事があるんだろう。なぜこんなに回りくどいことをする」
「――それは、細心の注意が必要だからよ」
トンネルの隅から、影の魔女シャドウの形をした人影が、まるで滲み出したかのようにゆっくりと現れた。
「この世界では、ドラゴンはすでに絶滅した動物とされている。万が一にも生きていることが知られてはいけない。竜狩りたちの信頼の失墜に繋がるから」
「そういう話なら俺は帰る。興味がない」
グレゴリが躊躇わずに踵を返そうとするとシャドウが少し焦った様子で引き止めた。
「待って。どうしても、あなたに使ってほしいの」
「無駄だ。俺は魔女の品物は身につけない」
「それは、魔女狩りになるため?」
「そうだ」
「あなたは、どうしてそこまでして魔女狩りになりたいの?」
「魔女が悪しき存在だからだ」
「建前なのは分かっているわ。それ、あの子と行動を一緒にしている時点で破綻している理屈よ」
「そうか」
グレゴリはまゆひとつ動かさずに言う。
知られてもやることは変わらない。
「俺は、この世には死ぬべき存在が本当にいるのか知りたい。存在を許されないものは、本当にあるのか。それを確かめるために、魔女狩りになる」
「魔女が滅ぼすに値するかどうか、見極めるってこと?」
「そこまで傲慢ではない。理由を知りたいだけだ。竜狩りたちが、なぜ最後に涙を流したのか。それを知りたい」
「……なるほど。私もその話には興味があるわ。教えてはくれないのでしょう?」
「当然だ。分かったら消えろ」
グレゴリが以前影の魔女と事を構えなかったのは、ハルがいたからだ。
それに、自分が魔女狩りではなかったから。
竜の欠片を集めて死体を作る彼女に全く敵意がなかったわけではない。
「あなたを魔女狩りに推薦してあげるわ。ガーネットを倒した人間として」
「そんな人脈があるようには思えないが」
「私にはないわ。カルマよ」
「あの盾の男か」
「彼は諜報が得意なの。あなたを推薦して魔法学校に送り込むこともできるわ。そのあとは自分でできるでしょう?」
グレゴリはしばし考え、本当は口にしたくないことだったが、彼女に話すことにした。
「あれは、まだ俺が生まれてすぐの頃だった────」
暗闇の中、小さな蝋燭の灯りを前に、グレゴリはぽつぽつと語り始めた。




