怒ることかね
「お前、責任とれよな」
バーンが不満そうに言う。
ハルは剣の破片をほうきで集めて、麻袋に詰めていた。
可燃ゴミか不燃ゴミかなんてことを考えながら。
「……責任なんて。全員が無事に生きているだけで十分でしょう」
「っていうかよ、お前あいつ捕まえてたらスマホ手に入ってただろ」
「それも考えたんですけど、なんだかまだ今じゃない気がしたんです」
「ふーん。まあ、あたしはどっちでもいいんだけどな。ただファリスがな……」
ファリスは「動くな」とバーンから言われベッドに寝かされて、真っ直ぐに天井を睨みつけていた。
「――私は弱い!」
ファリスは本当に悔しそうに言う。
ハルからしてみればそんなことはない。
ただ今回は偶然のようにも思える。
向こうは目的がはっきりしていたが、襲われたファリスには選ばなくてはならない行動がいくつもあった。
心理的には初めから不利だったのだ。
そう思い、否定しようとすると、バーンがからからと笑って言う。
「よくわかってんじゃねえか。ハルはあいつを止めたぞ」
「バーンさん?」
「つまりお前はこの場で一番弱かったってことだ」
「あの?」
バーンが言葉を紡げば紡ぐほどに、ファリスの視線が鋭く刺さる。
「こいつより強くないと、お前はザコのままだぞ」
「くっ! おい! 怪我が治ったら私と戦え!」
「勝てねえよ。お前は相手が自分より強いかどうかも見極められないんだからな」
「そんなこと――」
「その怪我がその証拠だろ」
そう言われ、ファリスは口をつぐんで、また真っ直ぐと天井を見つめた。
「勉強になっただろ。ただ突っ込むだけが全てじゃないってな。最後に相手を逃がしたところまで合わせて、お前が敵ってる部分はねえ」
「バーンさん、もうそれくらいで……」
「ああ、もう言うことはねえよ。でもこいつ馬鹿だからな。お前が命の恩人だってこともわかってないだろうさ」
「はい?」
ハルは首を傾げる。
「そうだろ。お前がいなかったらこいつはまんまと跡をつけられてここで殺されてた。あたしが確認しただけでもあの魔女狩りはお前を警戒して夜明けまで入ってこなかった。お前にそのつもりがあったかは知らんが、根比べに負けて入ってきたんだぜ?」
「ずっと見てたなら助けてくれても良かったんじゃ……」
「無理だ。あいつらが魔女の魔法を封じる術を持っているのは間違いなかったからな。それに助けに来てあたしが死んだらそれこそお前らが苦しむことになっていたぞ」
「それはそうですけど……」
「過ぎたことからは学べることだけ学べ。後悔からは何も得られないぞ」
ハルもそう言われてはもう何も言えなかった。
ファリスは怪我が治るまでここから動けない。
町の人間に知られると騒ぎになりかねないため、回復の魔法をかけてやることもできない。
バーンは「全治一か月だな」と適当に告げていた。
ハルはひとまず、帰ることにした。
今ここでできることはない。
カイとの約束が守られていれば、しばらくは安全だろう。
帰り道、歩きながらこれからのことを考えていた。
自分にできることは何だろう、と。
魔女狩りの人たちが死ぬのも、魔女が死ぬのも、ハルは嫌だった。
この争いを終わらせるには、魔女の脅威を去らせるしかない。
魔女の脅威は、すなわち、無差別に人間を殺している砂の魔女のことをさしているのだろう。
だったら、その砂の魔女さえどうにかすれば、魔女内での自治を認めてもらえるかもしれない。
「マグノリアさん、私がひとりで砂の魔女さんをどうにかするって言ったら、怒りますか?」
胸のコサージュに向かって言う。
今周囲に人の気配はない。
しばらくすると、花が枯れて、マグノリアの頭部である鹿の頭蓋へ変わって、かたかたと喋り始めた。
「怒ることかね」
「いえ、足並みをそろえようとしていたようなので、勝手なことをしては悪いかと」
「お前はそれが正しいと思うのだろう?」
「私ひとりでやった方が簡単ってことじゃないですよ? でも、やりやすいとは思いました」
「できると思うならやってみるといいさね。まずは何をするつもりかね?」
「まずは、砂の魔女のことを調べようと思います。なので私は、魔法学校に忍び込みます」
魔法学校と言うと、マグノリアは少し間をあけて言った。
「助けは期待できないよ」
「元よりそのつもりです。秘密を洩らさないよう、自害用の毒を服用して望むつもりです」
「どうしてそこまで命を張りたがる」
「なぜでしょう。私にとって、出会った皆が大切だからですかね?」
ハルがちょっとふざけたように言うと、マグノリアが鼻で笑う。
「いや、お前はただ自分の命を他人よりも軽く見積もっているだけだ。いいかい? 必ず生きて帰れ。自害など許さん」
「無茶ですよ。相手は魔法のプロですよ?」
「お前もプロの冒険者だろう。儂はお前を止めることはしない。ただ、花の魔女の盾として無様なことだけはするな」
「肝に銘じておきます」
果たして死なずに戻れるのだろうか。
カイのような人がたくさんいると想像すると、その約束がとてつもなく不可能に思える。
「――それで、どういう策なんだい?」
「まだ何も。帰りながらいい案が浮かぶことを祈ります」
「お前も、バーンのところの盾と変わらないくらい馬鹿だよ」
「人間、みんなそんなに変わりませんよ。自分に何ができるかを知っているか。それだけです」
ハルの本音というより、これも友人のツミキに習ったことだ。
自分の手札も見ずに賭けはするなときつく言われている。
これから考えるのは、この手札で成り立つ役を探すこと。
それと、それが成立する可能性を計算すること。
あまり得意ではないが、そうも言っていられない。
(――ツミキだったらこういう時どうするのかな)
口には出さなかったが、そう思わざるを得なかった。




