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花の魔術師に誘われて  作者: 樹(いつき)
第四章 光なき夜をゆけ
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良い旅路を


「――火の魔女バーンのいる町、ですか」


レヴィは少し迷う素振りを見せた。

ハルは軽い気持ちで聞いたこともあり、予想外の反応に少し戸惑う。


「何か問題がありますか?」

「いえ、ハルさまなら構わないかと思いますが、最近何かと物騒なものですから。前回も訪問された先が石の魔女の町でしたし、トラブルに巻き込まれるのではないかと心配しております」

「ありがとうございます。でも、今回は本当に、ただ顔合わせに行くだけなので」

「わかりました。私もハルさまの実力は存じております。ですが、この度はお仕事ではないとのことなので、もしものことがあっても、冒険者ギルドでのサポートは出来かねますことをご了承ください」

「わかりました。今度仕事の時にお願いします」

「要請があっても許可を出すのはこちら側ですが、ハルさまの頼みなら、どんなことでも引き受けます」

「えっ、いやそれは、ちょっと考えてください」


ハルがあわあわと言うと、レヴィは黒い革手袋をした手を口元に当てて悪戯っぽく笑う。


「では、椅子にかけて少々お待ちください。今地図を持ってきますので」


ギルド内でゆっくりするのは久しぶりな気がする。

最近は依頼を受けたらすぐに出発していたからだ。


椅子にひとりで座っていると、周囲の視線を嫌でも感じてしまう。

しかしそれは以前の悪目立ちの時と全く違い、憧れのようなものも感じる。

注目を集めるような偉業を達成した覚えはないが、周囲のコソコソ話を聞くに、どうやら異例の速さで仕事をこなしていると皆に知れ渡っていることが原因のようだった。


ほとんど準備なしで依頼を受けているのは褒められたことではないと思うが、それを差し引いてもハルの依頼消化スピードはどうやら異常らしい。


それに、グレゴリとふたりだけのパーティであることも影響しているようだ。

普通、パーティは四人前後で組むものらしいと今更知ったのだ。

ふたりで魔物退治を何度もこなすというのは、それだけで興味を引くには十分異質な要素であるらしかった。


しかし魔物に関する知識は全てグレゴリのものだし、ハルに聞かれても答えられることなどない。

だから、できることなら、そっとしておいてほしい。


(でも遠巻きに観察されるのも、むずむずする……)


ここに馴染めていないのは分かっているし、言いたいことがあるなら言えばいいのにと思う。


しかし、マグノリアの関係者であることは皆忘れてしまったのだろうか。

それとも、そういうものなのだろうか。


未だに魔女と人間の距離感というものがよくわからない。

マグノリアは近くに来ても警戒するような様子はなかったが、ガーネットからは標的にならないように近寄らなかったような感じがした。

有名な魔女なら危険かどうかを皆がよくわかっているのだろうか。


誰かに聞いてそんな話もしてみたいと思ったが、ある事実に気がつく。


(──あれ? もしかして私、友達いない?)


よく考えてみると、魔女の他には、グレゴリとアルヴィン以外、地元の人との交流をしていない。

あのふたりも、一般的な人かと言われると怪しいところがある。


周囲を見てみる。

顔を合わせた人たちが皆、視線を逸らす。


これでは、もう今から人間関係を築くのは不可能だ。

友達どころか、パーティのメンバーを集めるのも無理だろう。


「別の町なら――――」

「お待たせしました」


ぼやいているところに、レヴィが書類を持って現れた。


「こちらブラックロスへの地図になります。それと、周辺の地形の詳細ですね。この辺りは炭鉱になっていて、ハルさまなら近くまで行けば音や匂いで分かるかと思います」

「ありがとうございます。……私のこと獣だと思ってませんか?」

「思っていませんが、近いものは感じています」

「思ってるじゃないですか」

「では、良い旅路を」


レヴィはにこやかに笑みを浮かべて礼をする。

いつもしている黒い手袋がやけに眩しく感じる。


彼女を友達と呼ぶのは少しハードルが高い。

そろそろ何気ない会話に飢えてきているのを感じる。

どうにかして、年齢の近い友達を探せないだろうか。


それはさておき、ハルはすぐにでも出発するつもりだ。

ハルには旅支度というほどのことが必要ない。

普通は歩いて十日くらいらしいが、ハルの体力なら五日か六日もあれば着く。

食糧はクッキーのような乾燥した菓子を買い溜めした。

それ以外の水や寝床や防寒は、魔法を使えば問題ない。


植物の魔法の便利さに感心しつつ、いつものリュックを背負う。

仕事でなければ軽装で済むのは本当に助かる。

二拍三日の旅行をする旅人よりも荷物が少ないのではないだろうか。


町を出て、石畳で整備された道を歩く。

町から町を繋ぐ馬車のための道は、均等な石が敷き詰められている。

手で運んで敷いたと考えると途方もない労力が使われているのだが、これも魔法を使ったのだろうか。


魔法のことを知れば知るほど、あれもこれも魔法で作っているのかと考えるようになった。

マグノリア曰く、四元素の魔法で物を作るのは難しいらしいが、工夫すればできないことはないだろう。

そもそも使ったことのないものを想像することはハルにもできない。


魔女は特別な魔法を得る代わりに四元素の基礎魔法を失う。

火の魔女バーンは、火を冠にしているが、四元素の火とは違うものらしい。


マグノリアも花だけを使うわけではないし、ガーネットも石というよりは宝石の性質をよく使っていた。

そう考えると、魔女の性質を表す単語はかなり広義なもののようだ。


火と言われて他に何が思い浮かぶだろう。

灯りや感情、激しい様子などの抽象的な概念も火で表すことがある。

日本語表現だと特に意味に幅のある言葉だ。


少し会うのが楽しみなってきたところで、ハルは足を早め、一直線にブラックロスを目指した。


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