【♯76】配信のネタはカメラの枠だけじゃ収まらない。
――――引き続き、A.I.M.Sレポート『フィールドリサーチ』のプレイを報告しよう。
A.I.M.Sの武器や兵器が眠る海浜倉庫『ウェポンズ・ベイ』の『AI−08』倉庫。
極秘情報がこの倉庫に眠ってると睨んだハリアーは、警備ロボの眼を潜り抜けて、探索をしようとしたが、
突如現れた『砂塵のジューン』と自分から名乗った男に尽く邪魔され、今は彼に当て身を食らわれて気絶している。
現在ジューンは倉庫内にて、御目当てとなる情報を虱潰しに探していた。
〘◇Now Lording◇〙
『AI−08』倉庫内に隠されてあるのは武器でも戦車でもなく、A.I.M.Sに関わる極秘データ。
これらを百科事典のような分厚いファイルに纏めて、重要な情報のファイルには何重ものセキュリティを掛けて保管されている。
そんな中で、砂塵のジューンが探しているデータは何か? ……と聞かずとも、彼の無意識な独り言から直ぐに明らかになった。
「えーと、武器の資料……じゃなくて、サバイバーツール? フィールド用のアイテムかよ、違う違う! 何処にあるんだよ、【エレメンタルコネクター】の資料はよ!!」
――――【エレメンタルコネクター】。
A.I.M.Sの武器やアイテムにしては、何処か逸脱しているような名。何れリークされる新しい機能なのか。それは定かではないが……
(…………何だ? 新しいアイテムか、何かか?)
当て身を受けて気絶した筈のハリアーが、既に目を覚ましてジューンの独り言を聞き止めていた。
(当て身の打ち所が若干外れてたから良かったが、一先ずはアイツが仕事を終えてから動いた方が無難だな)
壁に耳があっても、障子に目があっても気にかけない者に用心は不要か。
何にせよ、今はジューンが情報を収集するまでは気絶したフリをするしかないハリアー。
「……コイツか、【エレメンタルコネクター】のデータ資料!」
ようやくジューンが、御目当てのデータファイルを手にした様子。だが他の資料とは異なり、三重ものセキュリティロックが掛かっていた。
「何だよ三重セキュリティって、パスワードにカードキーにダイヤル式かよ!?」
これをどーやってファイルに詰め込んだかは聞かずとして。慣れない手つきで、メモしたパスワードとカードキーを用いて解読するジューン。これが相当手こずっているのか、もたついている彼にハリアーも「早くしろよ……」と苛立っていた。
「開いた!」
ようやくセキュリティを解いたジューン。ファイル内に展開されたPDF形式のデータ。この中に【エレメンタルコネクター】の資料が掲載されている。
これをジューンが、超小型のパソコン経由でデータ転送させ、USBコネクターに保存させていった。
「ぃよーし! ミッション・コンプリート☆」
一仕事を終えて、清々しい顔で業を成し遂げたジューンは快感に浸る。挙句の果てには自分の技量に自惚れてナルシストになるやら、対抗しているトリガーズを超えただの愚かしい独り言も全てハリアーに筒抜けていた。
「家帰ったらお好み焼き、生牡蠣、おやつにもみじ饅頭で晩餐しよーっと!」
(何で広島名産限定? てか終わったなら黙って帰れよ)
等とハリアーのツッコミが回数を稼ぐ事に熟練を上げる中、ジューンの成功浸りに笑いも止まらなくなる。
「これでうちのチームも、トリガーズと二極化した人気を誇るゲーミングチームになるだろうなぁ! そーすりゃ俺様の人気も上がって…………いや。
――人気は、ねぇな。所詮知名度が上がろうが、地底空間の低俗なレッテルは離れねぇもんな……」
この時、掴みどころの無いジューンという男にハリアーは一つだけ、確信を得たものがあった。
同じ”地底空間出身“としての、枷を掲げていたという事。
彼の性格上嘘を言うとは思えない。あの発言は間違いなく、彼自身の本音と思って良いだろう。だからこそ芯から出る不自由の叫びが、ハリアーの心に突き刺さった。…………だがそれよりも突き刺さるのは、
「よーし、情報収集記念に倉庫にスプレーアートで名を残すか☆ 俺様のサインで……」
「オイイイイイ!? スパイが痕跡残す奴があるかーーーー!!!!」
ジューンが非常識この上ない事!!
「「あ」」
限界突破されたツッコミによって、感情を抑えきれなかったか。ハリアーは気絶したふりも忘れて起き上がっていたのを、ジューンは気づいてしまった。
「テメェ、起きてやがったか。当て身した筈なのにタフな奴だ」
「……バカ。雑な当て身と、耳に触る独り言じゃ嫌でも起きるわ。いい加減黙ってるのも癪だから、今度は俺っちからお前に聞いても良いか?」
ここまでジューンに翻弄されては、ハリアーの名が廃る。苛立ちついでに質問を仕掛ける。
「何故お前が俺っち達トリガーズに執着する? それと、【エレメンタルコネクター】ってのはどんなアイテムなんだ?」
「…………!」
その刹那――――無機質で、元素となる材が無い鋼鉄の倉庫の中で、何故かジューンの周囲に砂塵が舞い上がった!
(砂……!? お前もPAS使いか!!)
ハリアーが操るのが風なら、ジューンは砂。舞い上がる砂がとぐろを巻く蛇の如くうねり、その砂は固まって槍の形となり、ハリアーにその矛先を突き付けた!
「そりゃあお前……俺のチームと、お前んとこのチームは――――惹かれ合う運命なんだよ。同じ元素の魂の元にな。ハリアーさんよ」
砂を操るPASを目の前に、ハリアーは無意識に両手を挙げた。何故ならフィールドリサーチのシステム上、武器を持って対抗は出来ない。
しかもハリアーは事前にアルティマスキルを発動していて、PASを発動したとしても、砂相手に対抗する術は殆ど無い。熟練者は自分の力量を見極めて行動、若しくは降参の意を悟るのかもしれない。
「フフフ、俺のPASに恐れ慄いたか? 無理もねぇ。風を操るなら俺のが上だ、砂嵐が出来る。だがお前んとこのアリスってねーちゃんなら……負けてたかもな。水も滴るいい女……」
「女口説く余裕あるなら、さっさと俺っちを始末したらどうだ? 御目当てのトリガーズを仕留められるチャンスだ」
やられる覚悟は出来ていたハリアー。だが、
「始末? オイオイ何ふざけた事言ってやがる。んな事したら、お前ら天下の動画配信チャンネル『ELEMENT◇TRIGGER'S』に喧嘩売ることになるだろ。俺がお前に求めるものは唯一つ。
――――俺の活躍を、動画内で口外してくださいッッッ!!!!!」
「………………は???」
もしここが砂漠ならば、砂に頭が埋まるほどに頭を垂れての土下座を見せられて、ハリアーは困惑通り越してリアクションのコマンドすら打てなかった。
「聞いて驚け、俺の名は『砂塵のジューン』! この俺が如何に地底空間で有能でかっっっっちょえーーーゲーム戦士であるかをさりげなく! トリガーズの動画チャンネルで雑談ライブか何かで華々しく広めて回るのだ!! 尾ひれ付けても構わんぜ、弾丸もすり抜ける砂男とか! あ、俺がしてたミッションの事は黙秘でお願いしまーす。てな訳でグッバイさよならツァイチェンアディオスまた逢う日~まで、HEY☆」
目を瞑りたくなるような砂嵐と共に現れて、出来れば二度と出会したくない砂嵐と共に高笑いしながら倉庫を去っていくジューン。それに対してハリアーは、
「………………………………………」
最早ツッコむ気すら起きない程、草臥儲に疲弊したのだった。……しかし、骨折り損とまでは行かなかった。と云うのも、
(――! アイツ、データ転送に頭行き過ぎてファイルのロックし忘れたんだな)
諜報ミッションなのに跡を濁し過ぎていたジューン。こんなうっかりミスならぬ、しっかりミスを好機に、【エレメンタルコネクター】の詳細がハリアーの眼で明らかになる。
それを目の当たりにした、彼のリアクションは……?
「…………オイ、マジかよ――――!?」
普段半開きなハリアーの目が満月の如く見開き、驚愕とした表情。まるでA.I.M.Sの極秘データにしては、システム上有り得ないと訴えてきそうなとんでもない情報を観てしまったようだ。
〘◇Now Lording◇〙
――10分後。事前にキッドと打ち合わせ、『ウェポンズ・ベイ』の管轄外の安全地帯を待ち合わせ場所に指定し、その二人が合流。
「遅せーぞ、ハリアー!」
既にキッドが、配信用の小型パソコンやカメラを収拾した荷物を手提げて、先に待っていた。
「悪い悪い、ちょっとアホに巻き込まれちまって……」
既にジューンのせいで精神力が疲れ果てていたハリアー。精気も枯れかけ、ゲーミングロイドの監視を潜るのに精一杯だった。
「アホ? レイダーズの奴らか?」
「いや、悪乗りしたガキに絡まれた感じの……」
「お前が疲れてるって事は、そーとー変な奴と会ったんだな。ま、無事で何より」
理由は聞かず、さりげなくハリアーを労うキッド。
「あれキッド、配信は?」
「途中で止めた。あの辺の倉庫にゃ武器も兵器も大したもんが無かったよ。リーク情報得たくらいでそれなりに視聴者盛り上がってたから、興醒めしないうちに配信終えといた」
配信のノウハウを掴んでいるキッドは、止め時のタイミングも理解していた様子。期待ハズレの倉庫で沼るよりも、若干の期待を視聴者に乗せて潔く撤退したようだ。
「そう言うハリアーは? 何かスゲェ情報でも取れた?」
「いや、俺っちは………」
一瞬、ハリアーの脳内には散々彼を翻弄した『砂塵のジューン』の話をしようかと思った。
だが、彼はそれよりも大事な情報を優先し、キッドに報告する。
「――――物凄い情報が取れた。多分戦車や武器の情報なんか比じゃないデータ。配信には……出さない方が良いかもな」
「…………どういう事だ??」
「俺っち達『エレメント◇トリガーズ』に大きく関わる事になるかもしれない超兵器が、A.I.M.Sの何処かに眠っている……!!」
これが、数秒後にキッドに見せることになる【エレメンタルコネクター】のリーク情報の欠片であった。
結局『砂塵のジューン』の口外は一切口にしなかったハリアーだったが、彼からは一つだけ気になる発言が頭の中にへばりついていた。
『俺のチームと、お前んとこのチームは――――惹かれ合う運命なんだよ。同じ元素の魂の元にな』
一体これは何を意味するのだろうか? 四大精霊の元素の魂を持つトリガーズの前に、もう一つのゲーミングチームの因果が、絡み合おうとしているのか?
それはまた、次の報告まで待つことにしましょう。
本日のA.I.M.Sレポート、一先ずは報告終了。
〘◇To be continued...◇〙
小説を読んで『面白かったぁ!』と思った皆様、是非とも下の「ブックマーク追加」や感想・レビュー等を何卒お願い致します!
更には後書きと広告より下の評価ボタンでちょちょいと『★★★★★』の5つ星を付けて、作者やこの物語を盛り上げて下さいませ!
A.I.M.Sで登場させたい実物の名銃も、感想欄で募集します! 次回も宜しく!!




