【♯06】シェルター内戦・それでも負ける気は全然しない。
――TIPS――
【A.I.M.S ランクマッチ基本ルール②】
・全プレイヤーは基礎体力値を100、そして防具となるシールドプロテクターが100の合計200のHPでスタートする。
・道具は防具のシールドパワーを補給するエネルギー電池【シーセル】2つと、体力回復用のハンドガン型栄養注入剤【インジェクションS】2つがゲーム開始時から備わっている。
アイテムを所持するバックパックは、10個までアイテム確保が出来る。
―――ドガガガガガガガガ、バンッ、バンッッ!!
防弾シェルターの建物、三箇所の扉全てが開かれて、四方八方大発砲していくピストル・マシンガン・ショットガンの弾丸豪雨。
「オイオイ、キルポイント欲しさに乱戦パーチーってか!?」
「血の気が多い奴らだ!」
シェルター内にいたキッドとハリアーは、各部隊三組6人の間に阻まれ、被弾を回避する為に棚や格納箱を遮蔽物にして弾を避ける。
しかし3部隊によって一斉発砲されるシェルター内は“クロスファイア”状態。つまり十字砲火する建物内に二人の身を覆う『シールドプロテクター』は割れ、肌身に被弾する。
「痛っ……!」
「これじゃ防ぎきれねぇぞ!」
何しろ何処もかしこも弾丸が行き交う修羅のシェルター。避けようにもノーダメージで助かるほど、ランクマッチの戦場は甘くない。
キッドとハリアー、互いの身を守る透明のシールドで覆われた『シールドプロテクター』のエネルギーは被弾により破壊。激痛までは伴わないが、弾を身体に諸に受けた痛みは電撃が迸ったかのような刹那なもの。
だがもしHPをゼロにされ、ノックダウンとなった時には、立っていられない程の痛撃が与えられるという。
画面側の戦場にコントローラーを握るだけのFPSとは天地の差。実際に我が身で戦場に立ち、戦いの痛みを知る者だけが“命を掛ける”意味を知る。
キッドとハリアーはまさに序盤からその瀬戸際に立っていた。
〘ヤバい〙
〘袋小路ってヤツか〙
〘運悪かったか……?〙
チャット欄の視聴者も心配になり、部隊全滅の危機に焦りの色も隠せない。
だが焦ることなかれ。真の強者は、如何なる危機にも最後まで屈しない……!
「……3秒後、右側のドアから脱出だ」
「よし」
キッド、敵部隊がマシンガンの弾倉切れによるリロードのタイミングを見計らって反撃の狼煙を上げる。その合図は、
「――――喰らえッッ!!」
◇――――――――――――――――――――◇
・ノーマルスキル【スモークエスケープ】発動
◇――――――――――――――――――――◇
――――バンッ! ボシュゥゥゥゥゥゥ
キッドのノーマルスキル、発煙砲による煙幕放射で煙に包まれるシェルター。敵部隊がこれに気を取られている内にキッドとハリアーは端の扉から脱出。
逆にハリアーがシェルターの前後の扉を外側から閉じ込めて、キッドに続いてハリアーもノーマルスキルを繰り出す!
「ホークアイ、起動!」
◇――――――――――――――――――――◇
・ノーマルスキル【ホークアイ・サーチ】発動
◇――――――――――――――――――――◇
――――カシュッ、ピキュュュュュィィィン
ハリアーがスキルを発動したとき、アバターの両目の瞳孔が見開き、カメラのシャッターと探知音波であるソナーの甲高い音が鳴り響く。
すると、スモークによって姿が見えない筈の敵の姿が、オレンジ色で検知されているではないか。
これぞハリアーのスキルの一つ。トラップや敵を検知させる周囲環境探知能力の“ホークアイ”である。
【敵を6人検知・戦闘中】
シェルター内ではキッドとハリアーを標的に外し、他の三部隊で乱戦している様子が、検知情報のウィンドウによって確認された。
「よっしゃ、もっと面白い事してやろ!」
そう言って、キッドが取り出したのは投擲用武器である“グレネード”。簡単に言うなら手榴弾だ。
球型であちこちに着火装置らしき赤の模様が付いている基礎系手榴弾。それをキッドはシェルターの扉を一瞬だけ開いて、彼らが脱出した端側扉と、建物内中央の二箇所に投擲した。
「………グレネードだ!!」
スモークで見えないシェルターでいち早くグレネードの存在に気付いた敵プレイヤーは撤収を促すが、ハリアーとキッドによる脱出妨害によってパニック状態。その程なくして……
――――ドカァァァァァァァン!!
グレネードの爆破をまともに受ければ、シールドプロテクターも一瞬にして破壊してしまう超威力。殆どの敵部隊が爆破によるダメージを受け、エフェクトとして『100』や『75』とダメージポイントが投擲したキッドに加算される。
「ハリアー、皆シールドも破壊されて“ロー”だぜ。一気に決めちゃいな!」
「よーし!」
キッドが発したFPS用語である『ロー』とは、敵のヘルスが少ない、つまり低いという意味で、
【敵の体力が少ないことを味方に伝えるために使われる言葉】の事である。FPSのゲーム実況を観てる皆は是非覚えましょう!
そんな好機に名乗り出たのはハリアー。両手に装備したSMG『モーメンタリー』というピストルを大型にさせたような短い銃身のサブマシンガンで、敵のノックダウンを狙う!
ドガガガガガガガガッ、バシュンッッ!!
〔エネミー25・88 ノックダウン!〕
モーメンタリーの弾倉25発を、ロー状態の敵相手に二人も戦闘不能にさせたハリアー。
ドシュッ、ドシュッッ!!
続いて反対側からキッドも応戦。ショットガン(散弾銃)の中で唯一のピストル型武器『ディバイダーX6』を手にし、散弾による小型の弾丸を多くヒットさせて近距離で確実にダメージを与える。
ショットガンはマシンガンと違って連射が大きなネックとなっているが、一発に込めたダメージはトップクラス。後方から不意撃つキッドは残りの部隊を纏めて一掃させた!
〔エネミー36 ノックダウン! 52・81 撃破!〕
これでキッドに2キルが入って、撃破されたプレイヤーはロビーに強制送還されて置土産にデスボックスを落とす。……だが戦いは終わっていない。
「オイ、あと一人撃破してないぞ?」
「何!?」
ハリアーが言うには、シェルターに残されて満身創痍のエネミー36が生き残っている所を見るに、二人部隊の残りの一人が逃亡したというのだ。
慌ててシェルターから出て辺りを見回せば、東側の林にて命からがら逃げ出しているプレイヤーが一人。
「あー、アイツか」
するとキッド、追跡もせずに愛銃のマグナムリボルバー『ファイアバード』を構えて、逃亡するプレイヤーに狙いを定める。照準の先に見えるのは奴の頭………!
――――バァンッッ…………!!
〔エネミー39 撃破!〕
「――――ビンゴォォッ☆」
一弾入魂・絶対命中! マグナムリボルバーの強烈な反動にも臆せず遠方80mの敵の頭を撃ち抜いたヘッドショット炸裂!
チャット欄は一同〘おおおおおおおおお!!〙の高速スクロール祭り。しかし余りの魅せプレイに酔いしれたか、ファンと思われる視聴者のチャットから思わぬプレゼントが。
〘初ランクマッチ頑張ってください! ¥2,000〙
なんと、チャットから投げ銭が送られた!
これはライブ配信で見られる“スーパーチャット”と呼ばれる視聴者が配信者に送金出来る合法機能。動画の再生回数の他にこのような形で利益を得ることが出来るのだ。
「◯◯さん、スーパーチャット二千円、有難うございます!」
配信者は感謝を忘れず。丁度戦闘終了による余裕でしっかり挨拶を交わすキッド。これも人気の要因の一つだ。
そして二人は、撃破したプレイヤーのデスボックスから、獲得したアイテムと武器、更には賭け金であるエイムズマネーを根刮ぎ取っていくのだった。
「キッド、皆の見てる前じゃランクマはやり辛いと思ってないか?」
「全然! 寧ろ注目が集まると逆に張り切るタイプなんだよね俺って」
「へっ、目立ちたがり屋め」
等と生配信でも冗談を言い合う二人に、チャット欄では『男同士の友情』とか『もう付き合っちゃえよ』など茶化される始末。戦場の一時の休息か。
――――或いは、新たな戦闘への前兆か。
カチャ………!
キッドとハリアーが籠もるシェルターから110m先の高台に位置した二人のプレイヤーのスナイパーライフルが、彼らを狙う!!