【♯70】アリスと雪女、弾丸をも凍てつく水氷の宿命。
――新たなゲーム戦士、雪女アバターの正体を知りたい読者の貴方へ。お待たせしました、A.I.M.Sレポートを報告しよう。
【スターダスト・エッジ】の武器倉庫内、レイダーズの機械兵に包囲されたキッドとアリス。
万事休すと思われたその時、絶対零度の冷気が好機に転ず。鉄骨も機械兵の鉄の身体をも凍てつかせ、人口AIの思考回路は停止。
九死に一生を得る。雪女の氷があと一歩遅ければ、二人はレイダーズに生命エネルギーを奪われていた。配信を通じて救う側が被害者になる所だった。そう考えると観戦していた視聴者はトラウマにもなりかねなかっただろう。
―――そんな彼らを救った雪女アバター。プレイヤーネームには『グラシエ』。フランス語で“氷河”を意味する名のアバターキャラの肌は、雪化粧の如く肌白い。梅雨明け後の暑気祓いにはちょうど良すぎるキャラだ。
「お初にお目に掛かるわね。エレメント◇トリガーズのキッドにアリス、だったかしら? 私はグラシエ。通りすがりのゲーム戦士とでも思って頂ければ宜しくてよ」
雪女は常にクール。我々には固定観念が植え付けられて想像は容易だが、礼儀正しい雪女はあまり見かけない。これを観た視聴者は〘ふつくしい……〙やら〘かき氷デートしたい〙やら、一気にグラシエに首ったけになった様子。
そしてキッドは、グラシエに警戒しながらも冷静に彼女の詳細を予測する。
(……この感じ、A.I.M.S側が創生したNPCじゃねぇな。まぁ近未来の三日月諸島に雪女が居るっても無理があるが。マジなゲーム戦士だな)
見た目から和なアバターに近未来のフィールドへブチ込めば違和感は否めない。それに冷気からはゲーム戦士特有のPASの波動が出ていた為、生粋のゲーム戦士であることをキッドは悟った。
だが警戒しているのは彼だけではなかった。
「貴方……何者なの? 何であたし達を助けてくれたの?」
ようやくこのレポートの本題ともいうべき質問をしてくれたアリス。グラシエがキッド達と同じゲーム戦士ならば、何処から来たのか、何故に彼らを助けたのか。個人情報流出しない程度に聞きに来た。
「何で助けたか、ねぇ。それは貴方達がA.I.M.S界きってのゲーム戦士ですし。ゲーム配信の人気者ですもの。レイダーズにやられて欲しく無かったから、お節介を焼いてしまったって所かしら」
〘てことはファンかな〙〘雪女にも気に入られてるとか羨ましい〙〘アイスはバニラ派? 抹茶派?〙
同じくトリガーズファンの視聴者にも、親近感が湧き上がった所で益々気になるのはキッド達の方。
「まぁファンならご助力あざしたー、で終わるところだけどさ。アンタは素人にしてはPASの威力が半端じゃないしさ、このままサイナラで済ますには惜しい気がするんだ。……アンタ、俺等に縁でもあったか?」
「聞きたがり屋さんね。まぁ良いわ、何者かって質問は答えてあげる。
―――私は、貴方と同じ元素の精霊のPASを操る地底空間出身のゲーム戦士よ」
「地底空か……ふぁッ!?」
「あたしと同じ元素のPAS……!?」
これはキッド達にとって二重三重もの衝撃が走った。
何故なら彼らは、火・風・水・土の元素を司る四大精霊のPASを操る唯一無二の戦士だと思っていたが、元素を司る精霊は四大精霊だけではない。
氷にも精霊が宿る。改めてPASの奥深さを知ったのですが、もう一つ衝撃的だったのがその氷使いは地底空間出身であるという事。グラシエの清純な性格からして嘘では無さそうだ。
「それなら話が早いわ。貴方もプレイヤーの救出ミッションに参加しましょう! 早くあたしの後輩の生命エネルギーを――」
「救出ミッション? 一体何のことを仰ってるのかしら」
急な事にグラシエ、先程の礼儀正しさから一転してスンッとなり、笑顔から一転して真顔に戻った。
「え、だって今その為に戦場に……」
「それなら今さっき失敗通告が来てたわよ。メールを御覧になって?」
ついさっきまで激戦を繰り広げていて、通告メールを確認してなかった二人。言われるがままにメールを開くと、その内容見て二人の顔は青ざめた。
□――――――――――――――――――□
【プレイヤー救出ミッション:失敗】
・巨大武器倉庫の爆破、並びに
機械兵の総軍損失によりレイダーズは
『スターダスト・エッジ』を撤退してしまった。
この先ミッションの進展は不可能な為、
プレイヤーは用が済み次第帰還せよ。
尚、現時点で活躍した功績を元に報酬を転送する。
次のミッションまで準備を怠るべからず。
□――――――――――――――――――□
なんとキッドとアリスの健闘虚しく、レイダーズの部隊が撤退してしまい、生命エネルギーを取り戻す進展を得られず、失敗と見做されてしまったのだ。
これを目にしたアリスはへなへなと力が抜け落ちて膝をガクリと落とし、キッドも消化不良が否めなかった。
「それじゃ、もうこのマッチは終わり……?」
「そうらしい。後は素材・機材を確保したらさっさと帰れって訳」
「そうなったのも、貴方達が無鉄砲な真似をするからよ。スナイパーライフルを持って武器倉庫に突っ込むなんて正気じゃないわ。それで罠に掛かって、私達の貴重な武器戦力も倉庫諸共失われた。全てはアリス、貴方が頭に血が登ってレイダーズの気を散らせたせいよ!」
「なんですって!? …………いや、違う。貴方の言う通りかも知れないわ」
落ち込んだ隙に、グラシエが突き刺す氷のような冷たい指摘。アリスはそれに反発したが、振り返ってふと自分が熱くなって起こしたミスに気づき、消沈する。
「貴方のPASが熱くなってるのを今更気付いたのね。現実でモデルの後輩が意識不明になっているのに気が焦って、自分の立場を弁えず敵陣に突き進んだ。……違うかしら?」
「何で貴方が後輩の事を……」
「キッド君の配信は拝見してるから一応はね」
それでいても正論を冷たい視線と、氷柱のような鋭い針でアリスを突くグラシエ。
しかしまだこれでもかと、アリスの未熟な心を討つ決定的な叱咤を彼女は配信の前で突き刺す。
「良いこと、アリス? 今このA.I.M.Sで犠牲になっているプレイヤー達は貴方の周りだけじゃない。理不尽は不幸にさせる人を選ばないの。自分だけが不幸を越えようと勝手な真似すると、何も関係のない別の人に不幸が降り掛かる危険もある。
―――理不尽に勝つためには心を強く持つしか無いの。自分勝手は誰も救えないのよ! 私は貴方をゲーム戦士として認めない!!」
冷酷なまで厳しくも、氷城の如く雄々しい誇りを携えた雪女ゲーム戦士・グラシエ。それ故に荒れに荒れた水面の心に踊らされたアリスは、その未熟さに痛感させられた。
そして同時に彼女達の間に、ゲームでの交流だけでは収まらない精霊の魂を持つ者同士の“宿命”が築かれたのだった……!!
――プレイヤー達の帰還転送を促すアナウンスがプレイギアに鳴り響く時。グラシエも有無を言わさず帰還しようとしたその時、言われるままじゃいられないとアリスは彼女に向かって叫んだ。
「…………だったら、認めさせてくれるまで! グラシエ、貴方にまた会う時まであたしは絶対強くなる!! あたしだって地底空間を守るゲーム戦士なんだから!!!」
アリス渾身の叫びにグラシエ、振り向きざまに静かな笑みを浮かべながら、
「―――――――楽しみにしてるわ。ウンディーネのモデルさん」
と優しげな台詞を残し、戦場から転送離脱した。
果てた未来に浮かぶ三日月の諸島、それに佇むは精霊の魂を持つ二人のゲーム戦士。
機械に奪われた友の生命、その手を掴めず燻るこの思い。今に見てろと執念を燃やして次なるマッチへ希望を乗せる。
ライフル、マグナムの残り弾丸。憎き標的狙い撃つまで、懐収めてセーフティロック。
本日のA.I.M.Sレポート、一先ずは報告終了。
〘◇To be continued...◇〙
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