【♯68】戦前線に突っ込むスナイパーなんて聞いたことありません。
――引き続き、A.I.M.Sレポートを報告しよう。
時刻は午後7時。動画配信サイトにて、トリガーズが予告したA.I.M.Sゲーム配信の時刻となった。
数分のローディング画面を経て、転換されたライブ画面からキッドの例の挨拶が呼びかけられるのだが。
「ちわっす〜〜♡」
〘ちわっすー!〙〘ちわ……あれ!?〙〘!?〙〘アリスちゃんだーー!〙〘キッドは!?〙〘かわいい〙〘かわいい〙〘乗っ取られたw〙
何と、普段動画を仕切っているキッドではなく、同じメンバーのアリスからの挨拶で困惑と歓喜のコメントが混ざり合って飛んできた。
「あれあれ〜? ちょっと元気が足りないなー! もう一度いくよー、ちわっす〜〜♡♡」
〘ちわっすー!!〙〘ちわっすー!!!〙〘ちわっすーーー!!〙〘ちわっすーー!!〙〘ちわっすーー!!!〙〘ちわっすー! アリスちゃん愛してる〙〘ちわっすーー!!〙〘ちわっすーー!!〙〘ちわっすーーー!!!!〙
(何で俺の時より威勢が良いんだよ)
等と画面の陰で不貞腐れてるキッド。何しろ今回はアリスが、この動画配信とゲームの主権を強引に握られた為、彼は無闇に手出しが出来なかった。
「今日はスクランブルモードにあたしとキッドで挑むんですけど、皆も知っての通り、あの憎きレイダーズのせいでプレイヤー達が意識を取り戻せずにいる。その中にはあたしのモデル事務所の後輩達も含まれてるの」
〘うわお〙〘それでアリスちゃんやる気満々に〙〘キッド、アリスちゃんを守ってやんなさい〙〘地底のトップモデルにエールを! ¥3.000〙
「あっ、◯◯さんスパチャありがとうございまーす! そんな訳で、今日は二人編成でレイダーズフルボッコにしてやりますんで、応援宜しくお願いします! ほらキッド、行くよ!」
「へいへい。そんな訳でお願いしまーす」
アリスの熱意には、キッドも下手に出るしかない。本気にさせた彼女を止めることはリーダーでも容易ではない。早速にロビーからスクランブルモードへと旅立つ扉へ向かい、戦闘出動準備を整える。
ギャラリー側では例の如く、公式チアの天ちゃん琴ちゃんによる応援スタンバイも完了。心做しか事ちゃんの方が熱を入れているのは気のせいか。
何はともあれ、スクランブルモード・デュオ編成、出陣!!
◇――――――――――――――――――――◇
スクランブルエリア
【スターダスト・エッジ】
出動要請承認! 突入せよ!!
◇――――――――――――――――――――◇
〘◇Now Lording◇〙
――スクランブルモードに登場した新たなエリア、【スターダスト・エッジ】は三日月型の半島である。
闘いに必要な戦物資を詰め込んだ倉庫や、エネルギー貯蔵庫が設置されている。謂わばA.I.M.Sに挑むプレイヤー達の戦力強化を図る為の占領土地だ。それ故にこの半島には一般市民が殆ど居らず、A.I.M.Sに貢献するために派遣された工作員等が人口の8割を占めていた。
そんな戦力貯蔵庫の半島を、ヘビーメタル・レイダーズが狙わない筈が無い。
例によって、レイダーズの尖兵であるアンドロイド軍団がプレイヤー達の強化を阻もうと強襲。そこで転送されるはスクランブルモードから馳せ参じたゲーム戦士達。エレメント◇トリガーズからは、キッドとアリスが巨大な武器倉庫を拠点にして颯爽登場だ!
「前回と違って一般人が居ない分、俺達不自由なく動けそうだな」
「何言ってるの! この倉庫とか狙われたらアイツらが有利になるし、プレイヤー達のエネルギーも人質に取るとも限らないわよ。いつも以上に集中しなきゃ!」
「おっと、そりゃ失礼。後輩の命掛かってるけど結構冷静だな、アリス」
「本気だからこそ、クールでいなくちゃ。キッドみたいにセンス振りかざして暴れらんないし。あたしだって思いっ切りぶっ放したい気持ちで一杯なの!」
(…………あれ、これアリス結構キレてる??)
キッドの思惑と、コメント欄も“もしや”な雰囲気を醸し出しながら、アリスの本心の中に相当な鬱憤がある事を示唆していた。
だってそうでしょう、地底空間出身のモデル志望は何かと差別の対象になりやすく、仕事もそれほど貰える立場ではない。だからこそアリスの後輩達はA.I.M.Sや色んなゲームでお金を稼ぎ、不運にもレイダーズの餌食となった。
幾多に及ぶ理不尽を耐え忍ぶ事は、アリス達はおろかキッドにも言える事だが、限度がある。その我慢の限界はこのゲームで晴らす事になるのでしょうか……?
「……あ! キッド、彼処」
アリスは視線の先に見つけたものを、VRを利用したマーキングポイントでキッドに知らせた。赤いマークは敵の印だ。
「ありゃレイダーズの機械兵だ! アイツら既に武器格納庫を占領してやがったのか」
キッドとアリスが位置する巨大倉庫の上から北東の方向。推定120m先の武器格納庫の入り口にて、数体のレイダーズ機械兵が見張りに立っている。恐らく格納庫を管理する工作兵や、異変に気付き駆け付けたプレイヤー達らは返り討ちにされたのだろう。
「ねぇキッド? アイツらやっつければ、かなり戦力が上がるんじゃない? 武器格納されてるんだから」
提案するアリス。しかしキッドは苦い顔で、
「簡単に言ってくれんなよ。ログ観てたら彼処でやられたプレイヤー結構多いって出てるし。その前に俺等の武器見てから言ってくれ!」
この会話を掻い摘んで言うなら、“無謀だ!”の一言に尽きる。というのも二人の所持武器は全て長距離型のスナイパーしかないのだ。
オープンワールドでランダムにドロップされる武器、場所によってはかなり偏った武器しか落ちてない事もザラにある。今のキッドとアリスがまさにそれだ。
スナイパーライフルは即ち長物。アリスが装備しているのはロングバレルが特徴的な【ロングシューター】と【A&K M24】。
そしてキッドはマークスマンライフルの【H&K M110A1】と、取ってつけたかのようにマグナム銃の【ファイアーバード】。
(俺、マグナムに取り憑かれてるのか?)
それは愛着ゆえのエンカウントだったりして。
「とにかく今は突っ込むのはやめとこうぜ。長物あるんだから遠距離射撃で不意討つくらいなら―――――――え、オイッッ!!?」
〘!?〙〘え〙〘あら〙〘アリスさーん!?〙
この刹那、キッドは驚愕。遅れてコメント欄も驚きの連鎖で埋め尽くす。
何故ならアリスが独断で、スナイパー片手に敵陣へと突っ込んでいったのだから!!
「バカ! 長距離武器持って近づく奴があるか!!」
キッドの静止も聞かず、機械兵のフェイントを突きつつ突撃するアリス。その表情からは、怒り心頭のあまり鬼神の如く敵に向かおうとする特攻精神に似たものを感じた。……てか“クール”さは何処へいった!?
「そこを、どけーーーーーッッッ!!!!」
アリスの怒号と共に撃ち放たれるスナイパーライフルの強烈な狙撃音。零距離でロングバレルを頭部に突き付けられた機械兵は、その反動とオーバーキル級のダメージをもって頭ごと吹っ飛ばされる。仕組まれた電子頭脳回路も粉々だ。
前回知り合った同じ長距離武器使いの実況者“ナカター”に対する意地か、自動表示される標的カーソルに定めて、腰撃ちで次々と機械兵をヘッドショット・ノックダウン。キッド顔負けのエイム力に本人も視聴者も唖然。
「……何がクールにだよ。水使いが沸騰してんじゃねーか!」
単独行で格納庫へ突っ込むアリスに見兼ねて、キッドも跡を追う。
水の精霊・ウンディーネの魂を宿すアリス。今にも熱湯を出してしまいそうな程に脅威的なエイムで突き進む。“ガンガンいこうぜ”は危険な香り、二人に待ち構える魔の手がその行く手を阻む!
――本日のA.I.M.Sレポート、報告は次回に続きます!
〘◇To be continued...◇〙
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