【♯66】アリスの専属モデル事業所、緊急事態!
――翌日。
「……だいたい予想はしてたんだけどさ。天ちゃん琴ちゃんまで付いてこなくて良かったのに」
「そんなわけにはいきません! アリス様がキッドさんに頼み込むまで困っているのは一大事ですわ! だからこーして菓子折り買って香水プレゼントしてアリス様お好みの水色リボンもご奉仕しようとぜーはーぜーはー」
「深呼吸しなさいよ琴音!! もう、アリスさんの事になるといつも必死なんだから!」
「言っとくけど、困ってるのはアリスじゃなくてアイツの後輩ちゃん! 俺を呼んだって事はおそらくA.I.M.S関連の事だろうぜ」
「そうであっても、私はアリス様からのプレゼントは譲りませんからね!」
「……駄目だこりゃ」
先日、生配信終わりのキッドの携帯にアリスからのSOSが届いた。
それは彼女本人からのヘルプではなく、アリスが所属するモデル事務所『マーメイド』の後輩が、A.I.M.Sに関するトラブルに巻き込まれたんだそうで。
そのことを連れの響波姉妹に話した途端に、琴音が過呼吸を起こす程に躍起になっちゃった。毎度の事ながらキッドと双子姉妹の3人で、地底空間・B1層の旧都エリア。『マーメイド』の事業ビルに向かう。
「あ、キッド! こっちこっち!」
事業所の入り口の扉前で待ち伏せていたのは、依頼本人の“水瀬ありさ”こと通称アリス。長い髪に水色リボンを後ろに結んで、遠方のキッド達3人を見つけて手招きする。
「あら、天ちゃん琴ちゃんも来てくれたのね」
「ハイ、アリス様ッッ! 水色リボン・高級チョコ・香水の愛ある三点セットの差し入れですわ!!」
「ありがと、琴ちゃん。事務所の皆と一緒に使うわね」
「え!? あ、どうぞどうぞ是非とも!」
(………それアリス様のプレゼントなのに〜〜)
(渡すタイミング間違えたわね、琴音)
理想のサービス展開にならず、石化する琴音を宥める天音の茶番姉妹はさておいて。
キッドはアリスに連れられ、早速事業ビルに入る。入り口前の受付では、既に事務長でありアリス達モデルの卵たちを総括する雨宮文子が待ち兼ねていた。
「待ってたわ、火野君! 貴方の力を貸してほしいの」
キッドの本名である火野暁斗の名字を借りて、丁重にもてなす雨宮さん。
「もしかして……俺に助けを求めてるのは雨宮さんなんですか?」
「正確に言うと、救って欲しいのはありささんの後輩モデル達よ。ちょっと私やありささんでは手に負えないトラブルに巻き込まれてしまって」
事務長やアリスにもお手上げなトラブル。そしてプロゲーマーのキッドに頼み込む程の事で、結びつくものは唯一つ。
「……まさか、A.I.M.Sの意識不明事件に関連してるとか?」
「そのまさかよ。私の所属モデルも、A.I.M.Sで意識不明のまま戻って来なくなってしまったの」
元々A.I.M.Sは、電脳世界管理機関『WGC[ワールドゲームコーポレーション]』の元で提供される【ゲームワールドオンライン】。つまり全世界で展開されるメタバース型オンラインゲームの一環である。
その規模と人気の背景には、現実では肯定し難いリアルマネートレーディング(通称:RMT)や、ギャンブルの要素も多く盛り込まれ、実際にゲームに挑んで賞金・報酬だけの生活も可能となった事が大きな要因であるんだとか。
「モデルさんもA.I.M.Sやるんですか?」
「A.I.M.Sだけじゃなくてお金になりそうなゲームだったら何でもよ、天ちゃん。雑誌のオファーが無ければギャラも発生しないし、不安定な職業だから副業でゲームに挑んで稼ぐのもザラなの」
アリスが言うには、モデルさんの撮影一回で2、3万のギャラが発生するという。雨宮さん所属の『マーメイド』はまだ見習いのモデルも多く、偏見が多い地底空間出身という中でオファーを貰えているのは、アリスのみの苦しい状況下でどうにか事業していた。
マーメイド所属のモデル達も、アリスのように地上での活躍を目指して頑張っている。
地底空間出身のトップモデルを育成することが雨宮さんの夢だが、A.I.M.Sにてレイダーズの出現により現実世界の帰還不可になってしまったモデルは4名。これには雨宮事務長も頭を抱えた。
「皆にも生活が掛かってるから、ゲームプレイの禁止は出来ない。なのにこんな事になってしまうなんて……」
「そんな! 自分を責めないで下さい、雨宮さん!」
アリスにとって雨宮さんは、自身のトップモデルの夢を共に背負ってくれる恩師。A.I.M.Sの事件によって専属モデルが復帰できない状況が続けば、マーメイドは事業不可まで追い詰められる。見れば雨宮さんの様子も日に日にそのプレッシャーによって落ち着かなくなっているようだ。
「これじゃ、雨宮さん可哀想だよ……!」
「キッドさん、何とかアリス様と雨宮さんを助けてくれませんか……!?」
天ちゃん琴ちゃんの響波姉妹も、アリスと同じくキッドに助太刀を懇願する。勿論地底空間に住む人々を救う為に戦う彼に否定はあり得ない。
問題はどうやって、アリスの後輩モデル達や、レイダーズによって帰還不能となったプレイヤー達を助けるか。既にキッドは、その方法を掴んでいた。
「―――アリス。今日の夜7時、俺とA.I.M.S配信に同席出来るか?」
「今日は空いてるけど……キッド、皆を助ける方法があるの!?」
「スクランブルモードで大々的に、【プレイヤー救出ミッション】が発令されてる!」
キッドの手には万能スマートフォン『プレイギア』。その画面にはA.I.M.Sのニュースページ。内容は《スクランブルモード緊急イベント・プレイヤー救出ミッション》と速報が綴られていた!
「今日オフなら、今のうちに射撃訓練しとけよ。俺とアリスで助けにいこう!」
「………ありがとう、キッド!!」
潤み目に嬉し笑顔。アリスの感謝を両手に添えて、キッドの救出依頼は承諾された。
今回のA.I.M.Sは、キッドとアリスのデュオマッチ。スクランブルモードにて炎と水のゲーム戦士が立ち上がります! ――本日のゲームレポート、報告完了!!
〘◇To be continued...◇〙
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