【♯40】キッドとルシファー、どう足掻いても好敵手の関係。
―――B1層のグルメ商店街・『針山亭』にて。
キッドの奢りで四人+一人前のテーブル上の和食料理を平らげ、御満足のトリガーズ達。
そして黒ずくめの男、彼が『黒い稲妻』のルシファーとも知らずに、彼は最低限の量で食事を済ましたようで。腹も身体も落ち着いた様子を見て、キッドが一言。
「兄ちゃんも腹が膨れたようで良かったよ。美味かったかい」
「………あぁ、何とか飢えは凌げた。心より感謝する。何か礼をしなければ……」
とルシファーも遠慮はしてたものの、キッド達にご馳走になった身。何か食事代の代わりの対価を払おうと、アクションを起こそうとするのですが。
「要らない心配は良いの! 互いに助け合うのが地底の最低限のマナーなんだから」
「お前が元気でやってけりゃ、俺っち達は十分さ」
ハリアーさんもアリスさんも、非常に心の懐が広いお方。互いに過酷な環境下の中で生き抜いている者を助けるのは当たり前。下の立場を痛い程知る者ほど優しさを持つとは言ったものです。
「あたし、貴方の事気に入っちゃった! また今度B1層に遊びに来てよ。あたしが存分におもてなししてあげるわ!」
「天音、この人も忙しいんだから。誘惑は五年早いわよ!」
「誘惑なんてしないわよ、失礼ね! 悩殺よ」
「もっと早い」
更には無鉄砲にも、ルシファーに御酌をしてきた天音とそれにブレーキを掛けてきた琴音の響波姉妹。彼女らはルシファーとの初戦を観てない事もあってか、知らないなりに好意を持っていたようです。
「そーゆー事。誰もお前に金払えなんて言わねぇだろ? 御厚意は大事に受け取るだけで良い」
「………かたじけない」
と、ようやくルシファーも折れたようで。会計を済ます前に、キッドは少しばかり好奇心に押されてルシファーに質問してきた。
「……それでアンタ、結局何でB6層からここまで這い上がってきたんだ? 誰かを探してるとか……」
「そうだ。俺はA.I.M.Sで戦ってきた中でも、最も手応えを感じた者達に、決闘を申し込みに来た」
「………!」
これを聞いて、キッドの眉間がぴくっと反応した。この地底空間の中で最大規模のFPSオンラインであるA.I.M.Sを挑むものは、そう多いものではない。
そしてルシファーの証言からして、彼もまたA.I.M.Sの参加者である事と、口調からして相当な自信がある事をキッドから悟られていた。
「……じゃ、アンタも地上から出る為に……?」
「それもある。だが俺が追い求めるのは唯一つ。―――――太陽の光だけだ」
それは、A.I.M.S最大の報酬である108つの『シャインピース』を追い求める事とは若干ズレていた。
単刀直入に申すならば、ルシファーが追い求めているのは本物の“太陽”の輝き。地底深くに放り込まれた人々は、強がってはいるものの、人間本来の本能には逆らえないもの。
「俺は、物心が付いた時から地底300メートル先のB5層に位置する場所に追放されていた。それが何故かは記憶にはない。暗がりの中で、一筋の光をも掴むことの出来ない地で俺は何年間も彷徨い続けた。
――――俺は、人の凍てついた心を癒やすという太陽の光を知りたい。その為にも俺はA.I.M.Sに挑み、『シャインピース』を手に入れて、実力で這い上がるしかないのだ」
「…………アンタも、相当キツイ人生送ってたんだなぁ。何というか、A.I.M.Sをやる奴に良く感じる殺気ってのも感じない代わりに、渇望ってものがヒシヒシと感じるぜ俺には」
キッドの心を読む勘に関しては、心理カウンセラー並みに鋭い。なのに未だに彼の正体に気付いてはいない。敏感なのか鈍感なのか……
「もう一つ、俺がA.I.M.Sに挑む理由がある。
―――この俺が、この地獄から独りで這い上がる唯一無二の男になる為に、俺は近いうちにその行く手を阻むあるチームを討つ!!」
鬼気迫るルシファーの決意にも似た強気口から、彼とキッド達の関係を決定づける運命の刻が迫る………!
「あるチーム、ねぇ……ソイツらがどんな名前か知ってんのか?」
「――――――【エレメント◇トリガーズ】」
「「「「―――――ッッッ!!!!?」」」」
キッドを含めた四人全員が、息を殺す程に凍り付いた。
何しろ彼等もまた『シャインピース』を追い求める者として阻まれる強敵、もとい好敵手となるお方と一緒に飯を食っていたのだから。
(…………マジかよ、コイツが探していた【黒い稲妻】だったのかぁ〜〜ッッ)
5人前の御馳走を、知らなかったとはいえ好敵手であるルシファーの分まで払う事になる複雑な心情に、心の中では頭を抱えこんでいるキッド。
更にハリアーもアリス、何も知らない響波姉妹はこの真実に戸惑いながらも、表では平然を装う。
「……なぁ、ちょっと俺の代わりに会計済ませておいてくれ。直ぐに付いてくからさ」
キッドはハリアーから自分の財布を渡し、飯代の支払いを彼に任せるよう促す。キッド以外のメンバーに危害を与えさせない為だ。
「分かったよ、お前がそう言うなら。ほら淑女諸君、さっさとお帰りの時間だぞ〜」
「天ちゃんも琴ちゃんも早く早く!」
「え、ちょっと! まだあの人のライン交換してないのに〜!!」
「止しなさいよ、深夜までチャットする気でしょ!」
等と慌ただしくもイソイソと店を離れる女性陣、そしてハリアーはキャッシュ主義のキッドの財布から二万程引っ張り出して会計を済ませ、そそくさと去っていった。
そして――――残されたお客は、キッドとルシファー。
「…………お前が、キッドだったのか」
「そーゆールシファーこそ。俺たちのチーム名を言った時だけ妙に核心づいた口で言いやがって。何時から気づいた?」
「お前等チームを“消せ”と指令した者が、俺にヒントを与えてくれた。『同胞意識が非常に強く、ユーモアに現を抜かしてお節介を焼くのがキッドの欠点』だとな」
「誰だよそれ提供したの。プライバシー侵害で訴えるぞ」
仮にも、地上・地底問わず人気を誇るゲーム実況者を名乗っているキッド。それが事もあろうに最大のライバルであるルシファーに正体を知られてしまうとは。
何よりもキッドの細部も筒抜けにさせ、ルシファーに抹殺指令を下した者もいる。急展開から続々に生まれる謎の数々。今はとにかく、主人公の首の皮だけは繋げていたい……!
「じゃ――――今ここで、俺を殺るか?」
「………いや、止めておく。知らなかったとはいえ、俺に飯を奢り延命させた恩がある。日を改めて、A.I.M.Sのルームマッチで一対一のゲームで決着を付ける。俺が作成したルームでの決闘なら、漁夫で水を刺される事も無いだろう」
「ほぅ、ガンマンらしいクールなお計らい。感謝ッ」
そしてルシファーは、会計用のメモ帳にルームマッチでパスワードに使う英数字の記号を書き写し、その紙をキッドに渡し、黒い背中で語りつつ店を後にする。
「――――俺が生きた中で、一番楽しかった空間だった。もう味わう事も無いだろう」
とは、ルシファーの捨て台詞。
そしてキッドの手には、手渡されたメモ用紙。
パスワードになる英数字には、【Hypocrite《偽善者》】と書かれていた……!
「…………………気取んな、気障野郎」
〘◇To be continued...◇〙
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A.I.M.Sで登場させたい実物の名銃も、感想欄で募集します!
エレメント◇トリガーズ、次回も宜しく!!




