【♯35】トリガーズに、二人のチアガールが生まれました。
――午後一時半。
地底にて昼食を終えたキッドと響波姉妹は、商店街にて観光客用に建てられた御土産屋へと向かう事に。
「誰かに贈り物でもするんですか? 御中元とか」
「御中元って夏に贈るんでしょ、もうすぐ秋だよ?」
「御中元っつか、菓子折りだな。お世話になってる人から差し入れ」
と言いながらキッドは高級そうな箱に詰められた菓子箱を二箱も購入していった。
「キッドさんの知り合いなの?」
「俺じゃなくてアリス。モデルの事務所にこれから直接ご挨拶しにいくの」
「アリス様のモデル事務所ですって!? 是非ともご挨拶に行かせてください! 所長さんに私の顔を覚えてもらって、アリス様の綺麗な衣装やら見せて貰って……えへ、えへへへ☆」
「琴音、落ち着きなさいよ! ハウス!」
アリスを尊敬している琴音の妄想は天音によって静止。キッドはそのまま、アリスが所属しているという地底空間の旧都に設置された事務所へと向かう。―――事務所の名は『マーメイド』。
〘◇Now Lording◇〙
「――――所長さーん、お疲れ様でーす」
小さな事務所のドアを叩いて開けば、キッドの軽々しい返事。それに反応するは物腰の柔らかそうな30代の女性。彼女こそこの事務所の所長、雨宮文子(31)だ。
「あらキッド君じゃないの! わざわざ挨拶に来てくれたの?」
「アリスが大変お世話になってるんで、トリガーズのキャプテンから差し入れでーす。未来のトップモデルの為に!」
どうしてキッドと雨宮所長が、何故親しい面識があるのかと申しますと。
実はこの『マーメイド』という事務所、地底空間随一のファッションモデルをスカウト・育成する為の個人事務所。この中でアリスが地上に進出可能な二十歳からモデルになる為に、この事務所経由で地上に登っては、雑誌モデルテビューの為に地道に頑張っているのです。
「しょ、所長さん! アリス様は今日来てますか!?」
「あら、貴方達は?」
「アリスさんの大ファンの琴音です。あたしは天音と言います。トリガーズで見習いやっています」
興奮気味の琴音の代わりに天音が礼儀正しくご挨拶。完全にアリスにお熱な琴音は、初めて見るモデル事務所の雰囲気に感動の域に達していた。
そんな中で、キッドは軽く所長の雨宮さんとお話。
「どうですか? アリスの調子は」
「貴方とまた出会えてから、彼女はとっても頑張ってるわ。まだ雑誌の専属には程遠いけど、この地底でのレッテルなんか軽く超えて、彼女を絶対に有名なトップモデルにさせてみせるわ」
アリスは所長にとって期待のホープ、ダイヤモンドの原石のように重宝されていた。
黄金に輝く金髪に形の整ったスタイル、『アリス』の名の通りにあざとい面を持つ彼女のアイデンティティに合わせて、独特のファッションを描く事が出来る天性が彼女にはあった。
そんな所長の話を聞いていた響波姉妹。これまでツッチーやハリアーの仕事の一部を拝見してきた彼女らは、続いてアリスの貢献ぶりも、事務所に飾られた写真やファッションショー参加の形跡を見て心が動こうとしていた。
「あたし達にも、何か出来る事があるのかな……?」
「アリス様もあんなに頑張ってるのに……!」
今自分達に置かれている非力さ、未熟さにやりきれない気持ちが抑えられない二人。そんな彼女らを後押しする、頼もしいキャプテン、そして天音所長の一声。
「何とかしてあげたいって気持ちがあるなら、先ず悩む前に行動に移してみたらどうだ? そうすりゃ自ずと答えが出てくるぜ」
「二人ともまだ若いんですもの。何でもチャレンジしてみて、貴方達がキッド君達や、地底の皆の為になれる事を精一杯やってみなさい。情熱を絶やさない人には必ず未来が明るく見えるものよ」
「「……………………!」」
何と心強いエールでしょうか。焦りが焦りを呼んで、燻っていた彼女達のエナジーに光明が見えつつあった。
トリガーズの四人とはまた違って、響波姉妹にしか出来ない事をとことんやってみようと……!
「じゃ所長さん、お忙しい所押し掛けてすみませんでした。アリスに宜しく伝えておいてください」
「いいえ、こちらこそありがとう。お菓子も有り難くご馳走になるわ。また来て頂戴ね!」
と、大人の対応で頭を下げて退社するキッドに応じる雨宮所長。響波姉妹も連れてペコリと頭を下げながら、事務所を後にする三人。
すると姉妹の二人、もう既に腹は決まっていたのかキッドにお願いを申し上げたい様子で彼の真正面に立ち、真摯な表情で彼を見つめる。
「……どうした?」
「キッドさん、早速で申し訳無いけど……」
「A.I.M.Sの配信をやる時に、天音と一緒にやってみたい事があります!」
「「私達、トリガーズの力になりたいんです!!」」
迫る二人の熱烈な圧。それにはキッドも押されるどころか、その意気込みに答えるかの如く、にこやかな笑顔で返す。
「勿論だとも、天ちゃんと琴ちゃんに出来る事を精一杯やってみなさい!!」
〘◇Now Lording◇〙
――――午後八時前。
キッドは軽く晩御飯を済ませ、早速A.I.M.Sのゲリラ配信を開始する為に準備中。
今回はカジュアルマッチを中心に行うようで、メンバーは意外にもハリアーたった一人。アリスとツッチーは仕事に追われて参加不可と見て、キッドは久々に二人編成の『デュオ』で挑むことにした。
「へぇ〜、あの娘らが俺っちの写真観て感動してたのか。少しは美術が分かるんだな」
「そう言ってやんな、天ちゃんもあれ観てハリアーの見方変えたんだと」
「別に嫌われても構わねぇけどな。……で、今話題のお嬢ちゃん達は?」
「――――二人揃って配信デビュー。トリガーズ専属のチアガールをやるんだってさ!」
「…………はぁ??」
ハリアーが呆気に取られてる間にも、響波姉妹はロビールームの別室にて、彼女ら自身が作成したチア用バック情景を背に、応援の準備を整えていた。
アバター衣装もミニスカ・ノースリーブのチア衣装にチェンジして天音は赤、琴音は白の服と紅白カラー。そして数時間で覚えた振り付けやらもリハーサル中。
これまでの動画配信で、実況と共に応援を設けたケースは殆ど無い。この初の試みに、ライブ配信に応援旋風を巻き起こせるか!? ――本日のゲームレポート、報告完了!!
〘◇To be continued...◇〙
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エレメント◇トリガーズ、次回も宜しく!!




