【♯33】FPSに必要な要素、センスとエイムともう一つ……?
――午前九時。騒がしい朝から食事を済ませたキッドと響波姉妹の三人は、A.I.M.S専用ヘッドギアを装着してゲームへと転送される。
メインロビーを経て、彼らが目的とする場所は『射撃訓練場』。
今回は動画配信の時間ではなく、単純に響波姉妹のA.I.M.Sの実力を確かめる為に、キッドが講師となって一肌脱ぐようだ。
「さて、と。天ちゃんと琴ちゃんには一週間程、トレーニングで色んな武器とか動き方を見せてもらったけど、個人的にはどんな武器が使いやすかった?」
荒れ果てた荒野の崖や岩陰に設置されている的、そして人の形をしたダミーロボットが、戦場に赴く前のプレイヤーに『撃ってこい』と煽りを入れていくような妙な感覚誘われる中。
響波姉妹の天音と琴音はアバターキャラにシンプルな防弾服を着て、今まで練習で一番手応えのあった武器を格納棚から見つけて、キッドに魅せた。
「私はこれです。何かやってるうちに銃を持つよりも、弓の方がしっくり来ると思いまして」
三編み銀色リボンの琴音がキッドに差し出したのは、銃ではなく弓の武器。武器名は『アクションアロー:シューティングスター』。
マークスマンライフルの類いとして扱われ、アモ(弾丸)の代わりに矢を撃つ事が最大の特徴。一本ヒットすれば70ダメージという高威力だが、リコイルが無い分扱いに難が多い。
「意外だな。これアリスも使うの難しいって言ってたけど、琴ちゃんは自信あるんだ」
「トリガーズの皆様の事も当たり前ですけど、特にアリス様の役に立ちたくて。マークスマン系でいけると思ったのが、これなのです」
試しに琴音がアローを約80メートル先の高台の崖に設置された的へ目掛けて構える。アローにはスコープもなく、肉眼だけで狙うのは至難の技だが……
―――バシュッ、ビィィィン!!
〔70〕〔110〕
2発撃って両方命中。しかも2発目は的のド真ん中、クリティカルヒットして100超えのダメージを与えた。まさに人間ロビンフッドと言えようこのエイム力!
「へぇ、良いじゃない! これならアリスも驚くだろうぜ」
「わぁ素敵! アリス様にも見せたかったですぅ!」
トリガーズのメンバーの中で、最もアリスに首ったけな琴音。同じ中・遠距離ライフルの使い手である彼女に近づけた事で益々好感への妄想が湧き上がるばかり。
「……で、天ちゃんは?」
「ギクッ! え、えーと、あたしは……」
いつものお転婆ぶりは何処へやら、琴音とは対象的にしどろもどろになる天音。
「キッドさん、天音ってば殆どの銃が上手く扱えてないんです。ピストルも一発撃ってキャーキャー言ってますもの」
「琴音、バラさないで!!」
これには流石のキッドも苦笑い。思えばそれで良くトリガーズの弟子に入ろうと思ったもんだと逆に感心させられる。
「で、でもでも! グレネードだったら結構上手く扱えるのよ! ほら数十メートル先のダミーロボット目掛けてフォーク投げられるようになったし!」
「敵と野球してるんじゃないんだぞ。それにグレネードだけで敵はノックダウンは難しいから、やっぱ銃使わないと」
「は~い……」
苦し紛れな実力をキッドに見透かされて、しょぼくれる天音。
これでは到底実戦投与は遠退くと思った二人だったが、キッドの表情から見るに、若干安心した様子であった。
「なんか、何となくホッとしたよ。天ちゃんと琴ちゃんがバリバリの戦闘狂になったらどうしよ思ってたけど、程々が一番だよやっぱり」
「それって、どういう……?」
「その言い方! まるであたし達を当分ゲームに出さない気でいるみたいじゃん!」
戸惑う琴音に、反論する天音。相対する性格理論にもキッドは冷静に二人に説明する。
「もう二人とも頭じゃ分かってるかもだけど、俺はまだまだ天ちゃんと琴ちゃんを実戦で出すつもりは無いよ。カジュアルマッチでさえプレデターがウヨつく状況で危険な目に合わせたくは無いし、A.I.M.Sで必要な要素が二人には全然足りてない。それは分かるよな?」
キャプテンにそう言われては、強気な天音でも黙り込む始末。彼女も自分の力量には痛いほど理解はしていた。
「そりゃあ、私達にはキッドさん達みたいなゲームセンスも、エイムも足りてませんけれど……」
「もっともっと努力すれば、きっと――――」
「あともう一つ、致命的に足りてない要素があるぞ」
「「…………え??」」
するとキッド、岩コブに座っていた所で急に立ち上がり、格納棚の武器から十八番のマグナムリボルバー『ファイアバード』を取って、射撃体制に入る。
「敵の奇襲、猛威から身を護る為に必要なセンス。銃を撃って確実にヒットさせる為に必要なエイム。どれもA.I.M.Sに勝つためには最重要だ。―――だけどな、その両方を結び付ける原動力、感情も必要になる時がある。それが…………」
――――――ド、ド、ド、ド、ド、ドンッッッ!!!!
マグナムのシリンダーに詰まった六発、0.8秒の間に全て撃ち放ち、それを全てダミーロボットの頭部にヒット。ヘッドショット転じてオーバーキルとなり、頭の部分が衝撃によって吹っ飛ぶ始末。
「狙った敵を、完膚なきまでにぶっ殺してやるっていう、殺意だよ……!!」
「「……………………」」
刹那にして、彼女の前に見せたキッドの鬼気迫る形相。ライブ配信では見せなかった彼の表情から、彼がどのような気持ちで戦場に赴いているのか、繋がったようだ。
「俺だけじゃない、A.I.M.Sに挑んでる奴らってのは血気盛んで、日常の憂さを晴らしたくて、憎いあんちくしょうをぶっ飛ばしたくて、必死に戦ってるんだ。―――物騒な要素だが結局は、闘志に勝る奴が生き残る。FPSってのはそういうもんだって俺は思う」
生半可な思いで戦場に向かっても無駄死になるだけ。これはゲームでも、現実世界の何処かで国の為に戦う兵士にも言えること。
キッド達が覚悟を決めて、地底空間を守ろうとした意味を実感させられた響波姉妹。
「……それじゃ、あたし達がいたら足手まといになっちゃうのかな」
「そんなこと……無いとは言えませんけど」
先程の衝撃に参った様子の二人。そこでもすかさずキッドがフォローに入る。
「ちょっと待った。誰も二人を邪魔だとか一言も言ってないぞ。何も戦場で戦う事だけが役に立つ事じゃないんだ。探せば天ちゃんと琴ちゃんにしか出来ないことが見つかる筈だ」
「そんなの何処にあるのよ?」
と強情ぶって天音がキッドに説明を求めるならば。
「他の仲間も地底空間の皆の為に必死に働いてる。――――今からちょっと職場体験してみるか? そこからヒントが見つかるかも知れないぞ」
キッドと響波姉妹が織りなす濃密な一日。まだ朝だというのにまたまた展開する舞台の転換。果たして次に彼らが向かうのは何方か? ――本日の戦況報告、これにて完了!!
〘◇To be continued...◇〙
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エレメント◇トリガーズ、次回も宜しく!!




