【♯31】地底に白と紅の薔薇が咲くとき。
――響波姉妹の恩師、地底空間の孤児院で15年間御世話になった院長先生の存在を貪り喰らった【プレデター】を討伐したエレメント◇トリガーズ。
惜しくもそのランクマッチでチャンピオンにはなれなかったが、しっかりとプレデター撃破の形跡をしっかりと残した。
……しかし、現実は“非情”なものである。
【プレデター】に捕食された人間のデータプログラムは、撃破しても戻らない。
人類の記憶や形跡・生い立ち等をデータとして集積し、コンピュータで管理されている近未来の時代とはいえ、プレデターによるデータ捕食による修復・復元技術までは備わってはいない。
例外としては、過去に捕食されたキッドがPASの力によって奇跡的に記憶が戻ったくらいだ。
だが院長先生の喰らわれた記憶・形跡データは、主に彼が経営していた孤児院のものに限られていた。
つまりは、院長先生が地底に創設しようと考えたその直前の記憶状態になっていて、更に奥の記憶までは干渉されてなかったという。
そこでライブ配信を見た地底空間の人々、この孤児院で育ってきた若者達、そして“旧都”に住む人々達の手によって再建の意を固める事となった。
未だこの孤児院には、数十名の親御を知らない子供達の未来が掛かっている。純粋な生命を決して無駄にしてはいけないのだ。
残りは天音と琴音。ランクマッチを終えて直様、地底の精神病院で入院している院長先生の元へ向かい、彼の存在データを喰らったプレデターの仇を取った事を報告する。
当然、院長先生はこの事を全く理解していない。
天音と琴音を長い間育ててくれたこと、孤児院にて同じ境遇に遭った子供達との触れ合いを与えた事も全く覚えていない、筈だった。
病床に着く院長先生が、彼女らに魅せた笑顔一つ。
何度も見舞いに来てくれる二人への御礼なのか、それとも孤児院を救ってくれた事への感謝か。
それは定かでは無いが、孤児院で何度も彼女達に魅せた笑みは今昔共に変わらなかった。
次第に響波姉妹の二人の眼には涙の跡が滴り落ちる。
忽ち見舞う二人の膝が崩れ落ち、嗚咽から本格的な泣きに変わる。終いには『ごめんなさい……』と後悔の念に駆られていった。
仇は討てても、大事な人を守れる力の無い。非力な正義はどんな悪にも劣るものなのか。
この喜びきれない複雑な感情が、響波姉妹を大きく変える事になるのだった。
〘◇Now Lording◇〙
「…………落ち着いたか?」
再びキッド宅に戻った彼女達。そこへ優しく肩を叩き、慰めるキッド達に響波姉妹はこくりと首を降ろす。まだ彼女達の頬には涙の跡が残っていた。
「悔しいよな、大事な人を喰った奴を倒しても記憶が元に戻らないなんて。俺っちも久々に頭に来たぜ」
「ごめんなさい、あたし何て声掛ければ良いか……」
「殺生な話やでホンマに……」
ハリアーも、アリスもツッチーも響波姉妹に同情するばかり。そんな事で彼女らの慰めになるかは分からない。ただそうするしか彼らに出来ることが見つからなかった。
そんな中で天音が、思い切って塞いだ口を開き、キッドに話し掛けた。
「………ねぇ、キッドさん。あたしあんまり深く考えた事が無かったけれど、あのプレデターを倒すことも、地底空間の事を知ってほしい為にライブ配信する事も、本当は物凄く勇気が要ることだったんだね……」
「何でそう思った?」
「だって……だって、キッドさん一回記憶を失われたんでしょう? それでもまた戦場に出て、強い人と闘って、またプレデターに撃破されそうになって……怖くなかったの?」
天音の本気で心配をするような眼差しに対し、キッドも飄々としながらも真っ直ぐな眼で彼女を見つめ、こう言った。
「滅茶苦茶怖かった。またハリアー達を忘れる事になったらどうしようってマジで思った。―――でも、その危機を救ったのは紛れもなく、天音ちゃんと琴音ちゃんだよ。俺は心の底から感謝してる」
「……!」
一度はノックダウンされ、あと一歩遅かったら撃破、再びデータを喰われる覚悟を決めていたキッド。
そこで自ら名乗り出て、無線で回避指示を送った響波姉妹。あの一声が、キッドを戦線復帰させプレデター討伐のシナリオへと向けさせた切っ掛けを作ったと言っても過言ではないだろう。
「いや、あの時はあたしキッドさんを助けたくて夢中で……」
「―――“衝動的な勇気”ってさ、お節介に見えるかも知れないけど、冗談抜きで人を救う力があると思うぜ。俺はその勇気に賭けたくなっちまった」
するとキッド、先程まで自分が着けていたA.I.M.S用の転送ヘッドギアを天音と琴音に手渡した。
「えっ……?」
「これは?」
「大事な人を守るために戦う気があるなら、先ずはエイムの質を鍛える事。それがエレメント◇トリガーズの一番弟子になる条件だ。射撃訓練場貸すから、俺達にその素質を魅せてくれ!」
二人にヘッドギアを渡したその意味は、『エレメント◇トリガーズのサブメンバーとしての加入認定』であった。
察しの良い姉妹は直ぐにその意味を知った途端、曇った顔から一転、太陽の如し笑顔に返り咲いた。
「天音ちゃん、琴音ちゃん。これから宜しく頼むな!」
「「――――はい、頑張りますッッッ!!!!」」
かくして、エレメント◇トリガーズに本格戦線を目指す二人のゲーム戦士見習いが加わった。
響波天音と、響波琴音。双子の姉妹がこれからどんな形でトリガーズをサポートしてい
――――――パァンッッ!!
『やぁん、手ぇ痛ーい!!』
『ちょっ、天音! 銃そっちに向けないで!』
『キッドさんこんなマグナムで撃ってるのヤバくない!?』
『じゃ私はアリス様のスナイパーライフルを……』
『琴音、向き逆、逆!!』
『ムキーッ! 全然的当たんない!!』
『あら、手裏剣みたいなのが……』
『それグレネード! あたしに投げないで!!』
『……遅かったみたい』
『頭刺さってるぅぅぅぅ抜いてえええええ!!!』
「キッド、アイツらの実戦登板予定は?」
「…………当分、未定だな」
―――響波姉妹の活躍は遠きに有りて、暖かく見守るしかないトリガーズでありました。
「ねぇキッド、ちょっと良い?」
「んぁ?」
締めに入る前にもう一段落。何やらアリスがキッドに伝えたい事があるらしく、自宅の玄関まで彼を連れて行った。
「ランクマッチ入る前に、貴方の家の玄関からこんなもの見つけたんだけど……キッドが植えたの?」
アリスが指差したのは、何と地底空間では環境下において有り得ないであろう、白と紅の薔薇が咲いていた。
「………俺、ガーデニングに興味無いの知ってるよな」
「知ってるわよ。貴方の性格上そんな洒落たことしないの分かって聞いてるの」
ならば誰がキッドの自宅に薔薇が咲いているのか。唯一心当たりがあるとすれば……
「―――――変わった娘らだな。響波姉妹とやら……!」
これがキッドへの感謝の印か、洒落たサプライズプレゼントなのか。彼は深く知ることをしなかった。
―――しかし、孤児院育ち以外素性を知らない響波姉妹の関係が、今後のエレメント◇トリガーズの活躍に大きな変化を齎すことを、彼らは知る由も無かった……!!
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エレメント◇トリガーズ、次回も宜しく!!




