【♯15】5年ぶりの故郷は、大変な事になっていました。
―TIPS―
【地底空間・アンダーグラウンド①】
ゲームでの大敗、または最低限の生活が不可等、地上での生活が出来ないと認定された者が追放される地下の空間。
ゲームが主流となった2☓☓☓年の近未来において、実力が全ての至上主義になった事により設けられた『敗者の地』と言われている。
地底空間が出来てから五十数年の年月が経った現在、この地底空間が出身地として、何の疑問も抱かずに育てられた者も少なくない。
――キッドが生配信を行ったり、A.I.M.Sへと赴く転送先は、地底空間『アンダーグラウンドエリア』のとある地底湖の辺り。
湖の周りには石灰の白色な尖った鍾乳洞。その下は一変してクリアーなブルーで覆われた世界。
この鍾乳洞によって清き湖となり、地上の者には全く知られないであろう地底湖の秘境が、アンダーグラウンドの者によって開拓されていた。それを証拠に湖の近くには一軒の家。
傾斜地に建てられた家は右上に傾いた屋根になっており、外装はモダンナチュラルで鐘乳石にリンクした白。横幅に富んだ形状は家と言うよりは別荘に近い。
そんな家の玄関から、飛び出した赤・緑・青・土色のパーソナルカラー。
キッド達四人、エレメント◇トリガーズが約5年ぶりに故郷の地底に帰ってきていた。
「ねぇキッド、一体何処へ連れて行く気なの?」
「散歩で青春振り返るにしても、ちょいと穏やかちゃうやんか。何を思い詰めとんねん」
長いこと地上で活動し、中々地底へ帰れなかったキッドを除いた三人。
そんな彼らに何を思ったか、キッドは強引に地底の何処かへ連れていこうとする。アリスとツッチーが困惑する中で、ハリアーは彼の行動を見抜いた。
「……“旧都”へ連れて行くつもりか?」
「当たり。彼処で色んな人に助けられて地上へ行けた恩があるからな。あれから風景がかなり変わってたぜ」
“旧都”とは、キッド達平凡な人々が住まう地上に一番近い階層『B1層』の中で一番栄えていた発展途上の街エリアである。
風情としては中世ヨーロッパの街並みをイメージとし、辺りには赤煉瓦で建てられた高貴な建物がごった返す栄えた街……といっても。
薄暗がりで時折湿っぽい地底では、『霧のロンドン』に近いイメージか。
「地底の様子見たって、暗いだけで特に変わった変化なんて無いだろう?」
「ハリアー、地上で充実してた分だけ故郷の変化なんてのは、その場の人の話を聞かないと分かんないもんだ」
キッドが最初に再会したハリアーは、通話で繋がってそのままA.I.M.Sのアバター姿で出会った為、直で出会ったのはアリスとツッチーとで同時。
それに彼らには地上での仕事がある為、地底と地上とで行ったり来たりの繰り返し。故に地底空間の事情を知らないでいた。
「その割にゃ人工太陽は昔そっくりやけどな」
「本物と比べたら月とスッポンよ。お日様があんなに暖かったなんて地上に出るまで知らなかったわ」
アリスとツッチーが指差すのは、シーリングライトを千倍の大きさに仕立てて地下の天井に設置された照明。
地底の暗がりを照らすのは、近未来の技術で紫外線から熱量まで本物そっくりに構成された巨大照明『人工太陽』。
だが人の身体は素直なのか、人の心を養う力を持つ本来の陽の光に敵うわけもなく、ただ昼夜の区分けと作物の栽培に役立てるくらいのメリットしかない。
「でも本物の太陽を一生拝めない奴もいるんだぜ。地底の皆が俺たちに託した意味は忘れてないよな?」
「…………そんなの、分かってるわよ」
釘を刺すキッドに、アリスも一瞬だけ深刻な顔になる。
何しろ地底空間に住む者が、地上で活動していくには数多くの条件をパスし、政府から許可された時に初めて地底から太陽を拝める地上へと立てるのだ。
詳しい条件は後々語るとして、キッドを含めた四人が地上に立てたのは、旧都に住む人々の助け合いがあったからなのです。
「――――着いた」
キッドの自宅から徒歩7分、地底空間で最も栄えているエリア“旧都”の到着。
それと同時に四人の心に旧都への懐かしさと、先程語られていた変化による複雑な心境を抱いていた。
「……何かが違う」
「なんちゅーか、下町風情ってのが無くなっとんな」
「うそ、彼処にあった空き地の公園も無くなってる……!?」
本来大切にしていた人々の助け合いや、地底の冷たい空気も皮肉に変わるほどに街の暖かな雰囲気が、彼らの前では別物に変わっていた。
――発展途上の温かい下町が、無機質な都会へと徐々に変わるかのような違和感だ。
「ホント最近の話、B7層にいた鳳凰堂孔雀が地底空間の改革に乗り出し始めてさ。地上の人もここに行けるように、このB1層のニュータウン計画に乗り出したんだと」
「何よそれ……」
寂しいのやら、地上と地底の差別も緩和されてホッとするやら。アリス達の想う本心は寧ろ不安しか残っていなかった。
「……まぁ故郷が変わるのは寂しいけどさ、それの何がA.I.M.Sに立つのが厳しいんだよ」
ハリアーはキッドに彼らに諭された厳しい言葉が頭に残っていた。
「ニュータウンが進んでから、地底空間でもA.I.M.Sに転送できる程の転送技術も進んで、ここでゲームに挑んで地上に出ようとしてる人も増えた。
……でも俺たちが、今のA.I.M.Sの状況をランクマッチやってて、何か勘付かねぇか?」
その神聖なゲームを壊そうとする存在が、何も知らない地底空間からのプレイヤーにも危険が及んでいる事を……!
「――――――【プレデター】か!!」
「残酷な話、地底に追放された人が再び【プレデター】にやられて、悲惨な事になってるのを俺は見ちまったんだよ………!」
泣きっ面に蜂、悲劇は二度も起こる非情な運命。
キッドが三年前に【プレデター】を使用したプレイヤーに不意打ちを喰らわれて、地底空間に逆戻りした時に、後から同じような被害にあって地上から追放された者を彼は何度も見てきた。
そして地底から更に突き落とすように、【プレデター】にやられた地底空間のプレイヤーの末路も知っている。
「ある奴は金は元々無いから、その分記憶を根刮ぎ取られて重度の記憶喪失になったし。ある奴は精神をチーターにズタズタに引き裂かれて地底湖に身投げしたし。それから―――」
「もういい。これ以上聞きたくない」
アリスの青ざめた顔と、震えた声がその残酷な惨状を見ずとも伝わったようだ。
ニュータウンによる改革が行われようとも、その改装された地面の裏には底知れない怨念が眠っている。
敗者が這いつくばりながらも絶えた、無念の跡が。
「まだ地底空間には、俺たちの知らない所にでっかい闇が残ってると俺は思う。お前らが太陽の下で立った地上の下では、それを拝めないで耐え忍んでる人達の辛さがあるんだ。……分かるよな?」
キッドの眼は真剣そのものだった。
自分たちが育てられた地がたとえ地底であろうとも、そこで互いに助け合い、思いやりを持って育ててくれた恩を胸に、キッドはA.I.M.Sで実況プレイをしながら貢献することを選んだ。
【プレデター】で果てた者や、悔し涙を流すものの痛みを請け負うように。
だからこそキッドは、仲間の中途半端な意思が許せなかった。そして……!
「もう一度、皆に確認したい。お前らがA.I.M.Sに挑む理由は何か、こんな地底空間の事情を知った今でもその私欲に走るべきか?
―――お前らの本心を、俺に聞かせてくれ!!」
―――同胞に真実を問う。各々が持つその正義を……!
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エレメント◇トリガーズ、次回も宜しく!!




