【♯12】刮目せよ、俺たち四人のエレメントパワー!
――仮想空間の太陽を背に受けて、四大精霊の恩恵・加護を持つ四勇士が立つ!!
人々の人生を喰らい尽くし、力こそが正義と曲解するチートプログラム【プレデター】に魂を売ったプレイヤーを成敗する為に、遂にその不条理を撃ち落とす決意を固めたキッド・ハリアー・アリス・ツッチー。
――――ピリリリリ!
そして、このゲームを動かす“運営”にもその意思は伝わったのだろうか。
【プレデター】によって潰されたゲームへの復讐にと、運営から新たなミッションの通達が送られた!
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【A.I.M.S ミッション②】
・これより『マークスマーケット』周辺を残し
ファイアウォールの大幅縮小を開始する。
・尚そこではチートプログラム【プレデター】
を使用したプレイヤー『ja4mamd』が出没中。
今回限りの特例として、そのプレイヤーを撃破した者にがゲームの勝者とし、別途報酬で10,000Mを贈与する。
直ちにウォール内に集結し、ゲームに決着を付けよ!
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「ヒュー! 神対応ナイスー!」
「運営も流石にバカじゃないって事だ」
「でも、そう簡単に倒せる相手じゃないわ」
「それでもワテらは、これ以上奴の犠牲を増やさんようにするだけや」
キッド達四人に攻略の光明が見えた事で、期待と不安が入り混じったリアクション。
当の【プレデター】に乗っ取られた『ja4mamd』というアバターは、視界にキッド達が映らない為に襲い掛からず、市場の建物内を彷徨く。落ち着きのない獣と同等と化していた。
〘がんばれー〙〘ぶっ放せーー!!〙〘キッド達四人に、幸あれ! ¥15,000〙〘アリスちゃん、愛してるぜッ〙〘理不尽なんかぶちのめせ!!〙〘負けんなー〙〘地底の救世主に乾杯! ¥2,000〙〘くたばれチーター〙
今か今かと、チーターの討伐の瞬間を待ち構えるのは我々読者だけではない。キッドのライブ配信で既に5万人の視聴者が、心を一つに彼らへの応援メッセージやら、スーパーチャットが飛び交うお祭り騒ぎだ。
〘くたばれチーター〙〘くたばれチーター♪〙〘くたばれチーター♪〙〘くたばれチーター♪〙〘はぁ〜〜♫〙
「おい、何か野球のラッキーセブンみたいになってるけど」
チャット欄のチーターへの怨念がこもったわっしょい騒ぎにキッドは失笑。だがそういった意味でも戦場とチャットの想いは一つになっていた。
「………来るぜ」
そして戦場では、一気にフィールドを縮小させる高熱の壁地帯『ファイアウォール』が市場の周囲まで一気に押し寄せている。
それを必死で逃れようとするプレイヤー部隊も続々と市場に向かう足音が、キッド達にも聞こえてきた。
「あ、『ファントム』も来てるよ!」
同じくウォール外から移動する残りのロボット兵『ファントム』の群れも、一斉に市場の周りに集結し、戦闘態勢に入っている。
だが不思議な事に、接近し明らかに視線に入っている筈のキッド達は、『ファントム』の標的には入っていなかった。
「もしかして、【プレデター】一点にターゲットを絞っているのか」
「場の空気は読めるらしいな。随分お利口ちゃんだこと!」
AIもプレイヤーも視聴者も、最早このランクマッチに携わる存在全員の想いは一つ!
――不条理なる標的、血に飢えた捕食者を撃破せよ!!
「ほんじゃ、皆一斉に―――FIRE!!!」
キッドの掛け声と共に、爆音と射撃のハイテンポビートで展開される人と械とのファイアワークス!
天井から、市場内からエイムに神々を味方につけて【プレデター】討伐に命を賭けるプレイヤー達。
目に付けた者は全て敵のFPSが一転して、共通する許すまじ敵に集中砲火。その怒りは一発一発だけでは済まない。死体撃ちでも収まらない。
キッド達だけではなく、日々の辛さに憂さを晴らす為に戦う者の聖地を汚す輩に強烈なクロスファイアが展開されていた。
………だが、それで倒せるなら犠牲者など出ない筈だ。
「……駄目だ。一斉砲火も全然効いてねぇ」
通常のプレイヤーのHPが200とする。だがこの【プレデター】のHPは、改造が施されておりその数値はカンストの『999』!
しかも回復アイテムも使わずの自動回復仕様となっていた。
「ホントズッコいな、あの野郎……!」
「自動回復の速度も早すぎるわ! これじゃ……」
アリスは遠方からスナイパーライフルで2倍ダメージのヘッドショットを【プレデター】に喰らわせる。
数値は『120』の大ダメージも、数秒のうちにシールドも体力も全回復してしまった。
だが理不尽なのは回復力だけではない。これほどの治癒に過剰なエネルギーを求めたがっているのか、とうとう【プレデター】の方からの攻撃が始動された。
「―――ゥゥグルルルルルゥァァァァアアアアアア!!!!!」
獲物を喰らうのは牙ではなく、脅威の連射力を誇るLMG『フレンジーF500』。皮肉にもツッチーと同じ平凡な武器を全方位の敵に乱射。
その威力は何と、一発20ダメージの連射攻撃の10倍。一発で『200』ダメージという即死級の魔改造がされていた!
包囲網を作っていた数十の部隊が、一瞬のうちに消滅。中には『ファントム』も粉微塵の残骸と化して【プレデター】に捕食された。
「………地獄や」
「キッド……!」
運営からのミッションで戦闘を促しても、太刀打ち出来ない理不尽なチーターを前にキッド、いよいよ最後の切り札を出す時が来た―――!
「………PASだ」
「―――――!!」
「俺達の精霊の力をスキルにさせた最後の切り札、“PAS”を全員で使って絶対に仕留めるしかない!!」
――――【PAS】、通称『Player Ability Soul』。
プレイヤーの中には、己の心をアイデンティティに様々な形を創り、それをゲームのスキルとして凄まじい力を発揮する異能力が存在する。
そのPASを使う者は、ゲームをこよなく愛し、その意志を貫き通した者にのみ覚醒されるという。
その能力の持ち主には、キッド・ハリアー・アリス・ツッチーの四人も入っていた。
彼らの背後から出現し、輝かしい色で迸る波動は、四大精霊のPASによって発動されたものである。
予め断っておくが、この現象を決して【プレデター】のようなチートプログラムと一緒にしてはならない。
この時代のゲームでは、“最後の切り札”として定義された最強のプレイヤーに相応しき力なのだ。
“魂に形を持つ者”。我々は俗にそのプレイヤー達に敬意を込めて、【ゲーム戦士】と呼ぶ―――!!
「我が魂に宿り眠る、火の精霊よ……」
「風の精霊よ」
「水の精霊よ」
「土の精霊よ」
「導き給え、我ら自由に生きる者共に、勝利への好機を授け給え……!!」
キッド達四人は詠唱、心の底に宿る四大精霊の加護の元に祈り、限りなき力を与えんと胸に拳を込めて精神統一。
みるみるうちに各々のパーソナルカラーが波動に帯びて、更には波動は忽ち形となりて、最大限の力を発揮しようとしている。
キッドは赤のサラマンダー。
ハリアーは緑のシルフ。
アリスは青のウンディーネ。
ツッチーは土色のノーム。
四つの色が菱形の陣を作り、チートプログラムにも負けないゲーム戦士の力が発揮される!
「「「「PAS、発動ッッ!!!!」」」」
◇――――――――――――――――――――◇
・キッドのPAS『サラマンダー』確認。
・ハリアーのPAS『シルフ』確認。
・アリスのPAS『ウンディーネ』確認。
・ツッチーのPAS『ノーム』確認。
◇――――――――――――――――――――◇
パーソナルカラーは濃い色を放ち、それがキッド達の全身に宿って強者のオーラと化した。
そして彼らの背後には守護する四大精霊の姿。龍に妖精に乙女に小人と、それぞれのアイデンティティが彼らを象徴しているかのようだ。
そして、PASを覚醒させた彼らの先陣を切るのは―――
「いい加減にしろぉぉぉぉ!!!!」
キッドの指先に迸る烈火の炎、殺戮に震える【プレデター】の背後から着火する業火は、憤るキッドの心情そのままを表していた。
――――次回、初陣ランクマッチ・決着!!




