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【♯11】俺たちは、理不尽な力に決して屈しない。

 ――エンペラー・キャニオン市場エリア『マークスマーケット』。

 投下されたロボット兵も交えて、現在生き残っているプレイヤー54名(27部隊)のうち3割がこの市場に集結。


 市場内から天井まで飛び交う弾丸、炸裂するグレネードの爆音。FPSをやる者だけが味わうことの出来る恍惚(エクスタシー)がこの市場に凝縮されている。



 そんな闘争心を駆り立てる戦場に、招かれざる者が出現した時。一瞬にして理不尽、かつ不条理な空間に変えていく。その者こそまさに、不正行為の権化。


 ――最凶のチートプログラム【プレデター】に魂を売ったプレイヤーが、獲物を捕食する為にまたしてもA.I.M.Sの聖地に土足で踏み込んだ。


「……どうする、キッド?」

「…………」


 キッド達四人、いち早く【プレデター】のチーターを発見した彼らだったが、四人相手でも奴を確実に討てる確証は無い。

 ましてや、やっと再会した幼馴染に危険な目は合わせられない。ハリアーの呼びかけにも、チャット欄の応援にも応えられず、葛藤するキッド。

 そんな彼にツッチーが言葉を掛けた。


「撃つのを躊躇っとんのか? それは、ワテらを巻き込みたくないからか?」

「………あぁ」


 実力でチーターを制圧するのとは訳が違う。

 何故なら【プレデター】にやられた者は財産も名誉も、己が蓄えた記憶や経験も全てプログラムに奪われてしまうからだ。


 もし仲間たちが奴に撃破され、今まで培ってきた名誉も記憶も失われてしまえば……そんな事は絶対に嫌だ。無言ながらも、そう言い聞かせるような感情をキッドは抱いていた。


 ……ならば、もう仲間内にも視聴者にも自分の過去をうち明かすしかない。キッドはこの修羅場を乗り切る前に、思い切って皆の前に話した。



「………ツッチーとアリスには言ってなかったけ。3年前に俺がゲームで敗れて、また地底空間に突き落とされた事を」


「えっ……!?」

「んなアホな! キッドはんが地底に落とされる程弱い筈無いやろ!?」


「俺っちも驚いたよ。あの生粋のゲーマーが、こんなに無様に落ちぶれたなんざ、最初聞いた時は悪夢かと思った」


 ハリアーは存じていたが、彼女らにとっては初耳であった。昔からゲームが得意で、特にシューティングに至ってはトップクラスのエイムで優勝を掻っ攫ってたキッドが、何故に敗北者の集う地底空間に追放されたのか。


「だって……、貴方言ってたじゃない! プロゲーマーになってお金稼いで、あたし達にご飯一杯ご馳走してやるって……!」


 そんな粋な約束まで残して、アリス達に5年以上も姿を消していたキッド。

 彼が追放された地底空間の話から、【プレデター】の件で繋がった一つの線。ツッチーが真っ先に気付いた。


「キッドはん、あんさんまさか……!?」



「――――俺も、【プレデター】に殺された落ちぶれゲーマーの一人なんだよ……!!」


 〘!?〙〘!?〙〘まじか〙〘キッドさんも犠牲者!?〙〘!?〙〘!?〙〘重……〙


 仲間内の驚愕は、チャット内の視聴者にもシンクロした。

 当然彼は芝居打って、嘘を付く男では無いことは仲間も視聴者も知っていた。だからこそ、この打ち明けは重く皆の心に伸し掛かった。




 ――――キッド達四人は、実は生まれた時から何らかの理由で地底空間に過ごしていて、同じく追放された人々の助け合いで育てられた事から差別等に何の疑問を抱かずに育てられた。


 地底空間には掟があり、四人が成人して就職する際に、地上で社会貢献できる事が見なされて初めて、青空と太陽の下で生活する事が出来る。

 四人とも職業に勤しみ、地上と地底を自由に行き来出来るようになったのだが……キッドはプロゲーマーの試合で、不覚にも【プレデター】の被害を受けて、再び地底に束縛される日々を3年間も耐え抜いていた。



 仕事の多忙で出会えなくなった事情などの比ではない。彼は【プレデター】のプログラムハッキングによって、彼自身の人生を潰される寸前まで来ていたのだ。



「それもあって、再出発の意を込めてA.I.M.Sの実況配信してるんだってさ。キッドも辛かったろうぜ、“しぶとく生きる”事を選ぶのは最大の難ゲーなのによ……!」


 ハリアーもニヒルながら、彼の心情を労った。相棒の堕ちた姿を想像しただけでも、彼にとっては腹が煮えくり返る思いであっただろう。



「正直記憶も奪われかけて、【プレデター】を仕掛けてきた相手も、ハリアーもアリスもツッチーの事も本気で忘れる所だった。

 ……本当に怖かったよ。金も存在も、お前らとバカみたいに遊んで楽しかった日々が消えるって事が………ッッ!!」


 キッドは顔を俯き、赤いキャップの下に滴り落ちるは無念の涙。


 それに気付けなかった仲間の三人、中には同じくチーターに復讐の意を燃やす者も居る。だがそれ以上に苦しめられた親友の真実を知らされた皆は、それぞれの闘志を湧き上がらせた。



「……許せない」

「こいつぁ、私欲で動いとる場合ちゃうな。キッドを泣かせた罪は弁償じゃ済まさへんで」


 〘キッド兄貴にエールを! ¥5,000〙〘泣かないでキッドさん! ¥1,000〙〘キッドを救ってくれええええ ¥20,000〙


 アリスは怒りに燃え、ツッチーは手持ちのショットガンのリロードを一発ずつ込めて覚悟を改める。更にはチャット欄でも、カンパの勢いで応援のスーパーチャットが飛び交う。


 ゲームで繋がった絆は多方面から、それぞれの形となってキッドへと贈られていく……!


「……お前、幸せもんだな。地底に堕ちても支える奴らがこんなに居るんだぞ。リスク伴っても、一緒に戦おうって応えてくれてるんだぞ! お前はそれに躊躇う暇があるか!?」


 仕上げは相棒・ハリアーからの鼓舞。

 既にキッドの頬から涙は乾き、キャップの鍔の先の潤み眼から刺す眼光が、燻っていた彼の闘志に着火した……!



「――――あんがとな、マジで吹っ切れた。あとスパチャでエールしてくれた皆も沢山の投資、有難うございます!!」


 人気実況者は、泣いた後もまた礼儀正しい。



 〘◇Now Lording◇〙


 ―――キッド達と、【プレデター】の距離がかなりあった為に彼らへの被害は免れていたが、『マークスマーケット』内の戦地は数分も立たずに地獄と化した。


 殲滅ロボ兵『ファントム』26体の残骸、プレイヤーは8部隊分のデスボックスが散乱する市場に、生きた証を喰らう一人の【プレデター】の影。


 その姿はまたしてもノイズによって乱れたバグで虚ろな姿をした浮浪者。プログラムによって乗っ取られたアバターに規則ある行動は無い。ただ視線に映る敵を撃ち殺すのみ。しかもまだその飢えは満たされていない。


 次の獲物は果たして誰か。【プレデター】も狂った目付きで舌舐めずりする品のない愚者に、自ら討伐の名乗り出る者あり。



「その辺にしとけ、ケダモノ野郎ォォォォッッ」


 その声は市場の天井から、更にその木漏れ陽に刺す一寸先の光。それを背にするは四人のプレイヤー。


 キッドにマグナムリボルバー、ハリアーにアサルトライフル、アリスにマークスマンライフル、そしてツッチーにど派手なショットガン。


 もう一つおまけに彼らの背には、火龍(サラマンダー)風妖精(シルフ)水波乙女(ウンディーネ)土小人(ノーム)の四大精霊の加護が、理不尽許すまじと彼らに味方する!!




「「「「これ以上、皆の自由を奪わせてたまるかァァァァァァ!!!!!」」」」


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