【♯10】皆さん、あれがプレイヤーを貪り食う捕食者です。【チーター注意】
――エンペラー・キャニオンの『ブルーインパルス』地帯の荒野を抜け、北東に向けて歩くこと400m。
暴風によって荒れる砂塵をも潜り抜け、更には敵に見つからないように隠密に、このマッチの激戦区となるであろうマップ中央地区『マークスマーケット』へと向かうキッド達四人。
本来このFPSでは、自分の部隊以外は全員敵であることがセオリー。
しかしゲーム内で奇跡の再会を果たした幼馴染四人組は、ゲーム上では敵同士であっても、目的は一致している為に暫くは協力する事になっている。
「ハリアー、そっち敵来てない?」
「待ってな、【ホークアイ】起動!」
ジャケットに緑のマフラーが特徴的なハリアー。右眼の片眼鏡はハイテクノロジー仕様。
キッドからの指示に従い、彼のノーマルスキル【ホークアイ・サーチ】による敵の居場所を察知する赤外線ソナーによって、半径100mの周囲をスキャンする。
【敵を2人検知】
「……大丈夫。ロリ巨乳女子とゴーグル坊主の兄ちゃんしか居ないぜ」
「そりゃ良かった」
キッドとハリアーの視線で、オレンジ色に検知されているのはアリスとツッチー。ややこしい話だがゲーム内では敵と判断されている。
「ハリアー、あんまワテらをからかうもんちゃうぞ」
「今度言い方直さないと撃っちゃうから!」
「へいへい」
二人からお咎めの言葉を貰って、空返事で冗談半分に舌を出すハリアー。
彼も本心では、久方ぶりに友人と冗談に付き合える事が嬉しかったのだろう。
殺伐としたA.I.M.Sのランクマッチに、暖かな友情を見せられたライブ配信の視聴者も〘仲えぇなぁ〙やら〘仲間にしちゃえよマジで〙と和みムードに入る。
……だが次に進む『マークスマーケット』では、もう平穏な一時には戻れない。
何しろ上空より投下された100体のプレイヤー殲滅ロボット『ファントム』の乱入により、敵部隊だけでなく第三者からの襲撃と、二重に警戒しなければならない。――――と、言ってる側から……
「ヤベッ、ファントムだ!!」
移動するキッド達に反応し、高速スピードで追跡するファントム。既に機械の腕からLMGを構える体制に入り、四人を標的に乱れ撃つ。
ローテンポに打ち続けるLMGの連射は執拗な執念を感じる。その標的は先程別のファントムを狙撃したアリスだ。
「もうっ、しつこい! 【ミラージュベール】!!」
◇――――――――――――――――――――◇
・ノーマルスキル【ミラージュベール】発動
◇――――――――――――――――――――◇
逃走するアリスな姿が、スキルの発動と共に消えた!
エプロンドレスで着飾ったアリスのアバター姿を、バックの景色に合わせて同化させる事で透明状態になる。まさに人間カメレオン……というよりは、水の精霊ウンディーネの水の浸透化から得た能力だ。
「待ってなアリス、今助けるぜ!」
キッドがファントム目掛けてマグナム銃『ファイアバード』を片手で構える。
背を向けたファントムの心臓部に狙いを定めて、火を吹くは会心の一撃!
クリティカルヒット、100ダメージジャスト! サラマンダーキャップのガンマンが、弾丸一発で敵を打ち倒す!!
「はい、いっちょ上がり!」
〘グッジョブ!!〙
〘ないすー!〙
〘アリスちゃんを助けたヒーロー!〙
チャット欄もヒロインの危機を救えたことに大歓喜。
そして大破したファントムの周辺には、エイムズマネーの2000M、レアアイテムと勝者に相応しい報酬が転がり落ちていた。
「アリスー、もう戻っていいぞ」
危機が去った事を伝えに、キッドは彼女を呼びかけるが返事は無い。
「あれ、アリス? 何処い」
「わッッ!!!」
「だーーーーー!!!!」
突如画面いっぱいに姿を現したアリスにびっくらこいたキッド。その直後に魅せた彼女のあざとい笑顔に視聴者からはまたしても〘かわいい〙高速スクロールが。
「アハハハっ☆ やーい、引っ掛かった!」
「お前……そっちも冗談キツイぞ!」
アリスコスプレの衣装で、小悪魔的行為は如何なものか。
チャット欄ではキッドが一杯食わされている事への驚きと、アリスのギャップ萌えに興奮する者達とで二分に争われ、いつの間にやら視聴者数も4万を超えていた。
「あたしからの視聴者サービス。……キッドに何があったか知らないけど、これくらいなら力になれるかな。掩護ありがとね!」
「………こちらこそ」
彼女もキッド同様、チートプログラム【プレデター】の殲滅と【シャインピース】の回収を目的とし、並大抵ではない理由を持って戦っている。
親友という事もあるが、似たような遭遇に共感したのか、ライブ配信の盛り上がりに一躍買ったアリス。
キッドも配信という事もあって素は出せないが、相応の感謝で一言返す。
「オイ二人共、イチャコラしてる暇はねぇぞ。マーケットの方じゃヤバいことになってる」
「武器は構えとき、ホンマの修羅場になっとるわ」
二人の水を差さんと、先に『マークスマーケット』の末端部まで進んだハリアーとツッチーは戦闘態勢に移るよう促す。キッドとアリスはそれに応じて、各々の武器を構える。
トタン板と古い機材で建てられた、スチームパンクのスラム街で賑わう市場を思い出させる『マークスマーケット』。
遠方の岸壁の上でアリスが、スナイパーの8倍スコープで建物の様子を確かめれば、天井から店内まで戦闘三昧。遠くからでも射撃音の重奏劇が繰り広げていた。
プレイヤー同士の激戦に入り混じるように、ファントムの奇襲部隊も天井から入り込んで乱戦している様子も伺える中で……
「―――!! あれはまさか……?」
更にヤバい存在がマーケットに紛れ込んでいる事に、アリスのスコープから発見した。
「アリスどうした?」
「【プレデター】! あの中に侵入してる!!」
「何!?」
アリスの報告から、メンバー全員とチャット欄に衝撃の波紋が広がった。
チーターの出現に明らかに視聴者内でもざわつきが見える中で、キッド達は更にマーケット周囲に近づく。
「キッド、あれじゃないか?」
ハリアーが指差す前方にて、戦闘中のプレイヤーに異変を見つけ出した。
その片方の対戦者のアバターが、またしてもバグっていた。
「―――大当たり。あれが【プレデター】を利用してるプレイヤーの特徴だ。常にノイズに似たバグを引き起こしてる」
キッドはそんなチーターと思われるプレイヤーに手出しせずに見守るだけ。
それに【プレデター】相手に正攻法は効かないことも承知である為、結果的に戦闘するプレイヤーを見殺しにする事になる。そして一瞬のうちにノックダウン。
そして、止めを刺す『フィニッシュアクション』を起こしたチーターの行為が、残虐なものであった。
「ぅ、ぐくっああぁぁぁああああ…………!!」
片腕でノックダウンしたプレイヤーを首元から掴み、それを持ち上げ、握力だけでその首を絞め上げて始末する。【プレデター】の反則的な力の利用を、このように使うとは悪趣味この上なし。
非道な始末で事切れたプレイヤーは、撃破と見なされてアバター消滅。だが普段の撃破とは異なるエフェクト、まるで本当に殺されたかのような描写に、視聴者もコメントを忘れて絶句状態だ。
「……キッドはん、配信してる身からしたら酷なもん映したんとちゃうか?」
「いやツッチー、本来の目的は【プレデター】を知ってもらう事にある。配信の概要欄にも“閲覧注意”って警告は出しといた」
R15指定に抜かり無いキッド。ゲームを脅かす存在を知らせるにも様々なリスクが伴う。
「じゃ【プレデター】にやられたプレイヤーがどうなるかも、言ったほうが良いんじゃないか?」
そんなハリアーの問に若干キッドも躊躇った。……だが覚悟は決まっていた彼は思い切ってカミングアウトする。
「……【プレデター】は普通のチートプログラムとは訳が違う。悪魔の契約書みたいなもので、転送している者の命と引き換えに撃破したプレイヤーの財産も、名誉も、最悪の場合は記憶すらも奪ってしまう狂気のプログラムだ。
―――つまり、奴にやられたプレイヤーは死んだも同然な状態になるって訳だ……!!」




