【♯09】プレイヤー以上チーター未満に嫌な奴らが来た。
――TIPS――
【A.I.M.S ランクマッチ基本ルール④】
・A.I.M.Sでは、各マッチ毎ランダムな時間にゲームの進行を加速させるイベントとして『ミッションイベント』が投入される。
その内容は、参加次第でプレイヤーを強化させるものや、或いはプレイヤーの危険のリスクを高めるものまで多種多様。
ミッションの参加は強制ではなく自由参加であるが、立場上の検討も考える必要もある。
――荒れ果てし渓谷地帯『エンペラー・キャニオン』にて亡霊部隊投降す!
無数の銀星が降り注がれたかと思いきや、地上500m程で星は白いパラシュートを掲げて、ユラユラと降りてくるではないか。
――戦場から舞い降りた100の星は、願い星か或いは死兆星か。
A.I.M.Sに挑戦するプレイヤーを殲滅する為に投入された戦闘型ロボット『ファントム』の襲来は、間違いなくこのランクマッチを加速させる事になった!
〘◇Now Lording◇〙
さて、マッチでは敵同士ながらも今は利害の一致も兼ねて、集結したキッド・ハリアー・アリス・ツッチーの四人組。
ミッションイベントの投入により、今は自分達の目的よりも生存第一に考えた四人は、共同戦線を組むこととなる。だが気になるのは例のロボット。
「なぁ、『ファントム』ってどんなヤツか知ってるか?」
「……いや」
「聞いた事も無いわ」
ハリアーとアリスも存じていない様子。しかもチャット欄でも〘分かりません〙やら〘ごめんなさい〙と返るばかり。しかし、
「ワテはちょいと聞いた事あるで」
「ホントか、ツッチー!」
ここぞで頼りになるのは土屋将司ことツッチー。四人の中でもメカニックに長けた彼は、A.I.M.Sの最新情報にも通であった。ドデカゴーグルは伊達じゃない。
「あの殲滅ロボットはホンマに最近出た新要素や。あんさんらの言うてたチートプログラム【プレデター】が出回ってから、運営の方も鶏冠来とったんやろな。
ゲーム要素交えて、第三勢力を出して潰そうと出したんがあの『ファントム』やねん」
公式では『敵味方問わない第三の敵“ファントム”部隊』と評しているが、本来の目的は最凶のチートプログラム【プレデター】の制圧。
ゲームを崩壊する存在は、ゲームで持って叩き潰す信念からの投入。そこから察するにあの軍団の強さは……
「……多分、舐めて掛かったら死ぬな」
「でもあれで【プレデター】を潰せるとはとても思えねぇけどな」
キッドとハリアーの予想はさておき、評価を例えるなら“プレイヤー以上チーター未満の強さ”とみたか。
先程『ファントム』が投下された上空のばら撒き具合を見るに、キッド達の居る『ブルーインパルス』地帯では然程降り立った様子は無い。
それよりも中央地区の『マークスマーケット』を中心にあちこちに降下される様子が、ジェットパックの残像雲によって明らかになった。
………いや、ちょっとお待ちを。キッド達四人の近くでも何か良からぬ騒ぎが起きてますよ!
「うわああああああああ!!!!」
「助けてえええええええ!!」
地平に広がる砂漠荒野の平地にて、響き渡るは叫喚のつんざく声。
更に耳を澄ませるならば、ガチャガチャと鈍い金属音がハイテンポに鳴らしながら、逃げに逃げるプレイヤー達と共に迫ってくるではないか。
しかも、キッド達のいる方向へまっしぐらに!!
「げっ!?」
「何であたし達の方に来るのよ〜!!」
キッド達四人も巻き添えにしながら、計6名のプレイヤーをノンスピードで追い詰めていく戦闘型ロボット『ファントム』!
そのロボットの姿は銀一色のヘビーメタルで八頭身。鋼で覆われた筋骨隆々のボディをボロボロのポンチョで隠し、骸骨を用いた顔をテンガロンハットで覆っている。
その姿はまさに、西部開拓時代に遺したガンマン達の亡霊。本来の死に場所を求めにこのVRMMOに化けて出たか!?
「だとしても有難迷惑な話だぜ。【プレデター】じゃない奴も無差別に撃とうとするなんてよぉ!」
等とハリアーも皮肉を垂れるが、そう悠長な事は言ってられない。
キッド達四人は四方八方にファントムから距離を詰めるが、自動AIによってターゲットロックされた別のプレイヤーに狙いを定めて放つは、圧倒的な射撃戦術!
ドガガガガガガガガッッ
「ああぁぁぁあ!!」
〔エネミー6 ノックダウン!〕
アサルトライフルの中でも高速の連射力、かつ弾一つのダメージも大きい高性能武器『VZ-369カービン』を手にしたファントムは、一瞬にして敵をノックダウン。
更に通常よりも機敏かつ正確なリロードによって、至近にいたプレイヤーを標的に撃ち放って……以下同文。
〔エネミー7 ノックダウン・撃破!!〕
〔エネミー6 撃破!!〕
一瞬にして二人部隊のプレイヤー達を全滅させたファントム。その強さの証拠は余りドロップしない強力武器と、プレイヤー以上のスプリントとリロード速度からなる高性能さからであった。
「―――キッド!」
「分かってるって。殺られる前に……殺る!」
キッドは遠方にて距離を取りながら、『ファイアバード』を片手にファントム目掛けて発砲。
……だが被弾はしたものの、ダメージ数量は半減の『25』程。ヘッドショットを狙って当てても同じ。【プレデター】程では無いが、ロボットもそれなりの防御補正を身に着けていた。
「何だこりゃ、弱点は自分で見つけろってか!?」
キッドとてこの仕様には困った様子。だがもっと困るのはファントムのリロードが余りにも早く、キッドへ攻撃体制の準備が万端な所。
しかも彼の周りには、弾を避ける岩陰や遮蔽物が存在しない!
(やべっ……!)
キッドも大ダメージを覚悟した、その時。
◇――――――――――――――――――――◇
・ノーマルスキル【アースウォール】発動
◇――――――――――――――――――――◇
不毛の荒野に大地の恩恵か。キッドの目の前の地面を盛り上げるように遮断する巨岩の壁が、ファントムの射撃を完全にガードする。
「ワハハハ! ワテの仲間には弾一発も触れさせへんで!!」
「ツッチー!」
四人の中で防御サポートに長けたツッチーのファインプレイ! これにはチャット欄も〘兄貴ー!!〙やら〘ないすー〙の大歓声。
そして一瞬のリロード時間を利用して、ツッチーがファントムの前に出てからの怒りの一発!
――――ズドォォォオオン!!
至近距離に吠え立てるショットガンの咆哮! 強烈な反動を代償に繰り出す散弾が、ファントムの身体を仰け反らせ、敵の至る部分を複数被弾させる!
ツッチーのショットガン武器『ストロングブロー』による横型散弾攻撃は、胸の辺りに被弾した事に合計『65』の大ダメージ。
特にウィークとして大きくヒットポイントを知らせるエフェクトが、ファントムの弱点を悟らせた。
「心臓部や! 奴の胸の部分が弱点になっとる!!」
「じゃ、あたしに任せて!」
ここで名乗り出たのはアリス。スナイパーライフル『ファラウェイズ』を両手に、スコープを覗きながら一発狙撃を狙う。
「ツッチー、あの亡霊ロボットを前に向かせて!」
「ホイ来た!」
アリスの狙撃の為に囮に出るツッチー。方向を狙撃側に向けながら、彼は両腕の防弾プロテクターでアサルトライフルの射撃をガードしつつ、狙撃のチャンスをアリスに託す。その刹那―――!!
―――ダァァァァァンッッ バシュッ!!
ファントムの心臓部にスナイパー用弾丸が貫通! 華麗なるアリスの狙撃に機能が完全停止した機械は、その衝撃で爆散。辺り一面に武器やアイテムを落として消滅した!
「やったーーー!!」
〘かわいい〙〘かわいい〙〘かわいい〙〘かわいい〙〘かわいい〙〘かわいい〙〘かわいい〙〘かわいい〙〘かわいい〙〘〘かわいい〙〘かわいい〙〘かわいい〙〘かわいい〙〘かわいい〙〘かわいい〙〘かわいい〙〘かわいい〙〘かわいい〙〘かわいい〙〘私を撃って♡ ¥10,000〙
更に飛び交うかわいいコール。もう配信では確実にアリスファンが増えた事を示唆しているのか、視聴者数もグングン上がっていく。
「スパチャ一万円、有難うございます! あまり変態にならないようにね」
―――かくして一瞬の危機は四人及び二つの部隊によって回避された。
だがファントムが大量投下されたという『マークスマーケット』付近の事も気になる所。
推察が確かならば、そこに【プレデター】を投入しているプレイヤーが居る可能性も少なくない。ならば彼らが進むべき道は決まった。
「………急ぐか、『マークスマーケット』へ。恐らく滅茶苦茶荒れる事になるだろうが」
宿命に掛けてでも、混戦間違いなしのホットスポットへ自ら突き進む四人の勇士。
彼らの決断が、今後の運命を左右する事になろうとは……!!




