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終身法務官ビョルン・トゥーリの審問

法務官エヴァ・ハヴィランドの憂鬱Ⅱ

作者: 宮城谷七生

「法務官エヴァ・ハヴィランドの憂鬱」の続編です。加筆しております。

https://ncode.syosetu.com/n0218hk/


続編の「法務官エヴァ・ハヴィランドの憂鬱Ⅲ」はこちら。

https://ncode.syosetu.com/n6315hm/



王都で話題になった出来事があった。


それは、ある男性をめぐる女性同士の決闘であった。


ある公爵家が主催した舞踏会で、好色放蕩な美男として有名なラファエル・ルビロサ伯爵と彼の愛人と噂に聞こえていたシャーリー・ロルヴァケル嬢が参加していたのだが、この会に参加していたドロレス・ファニング嬢の美しさに心を奪われた。


ラファエルは、シャーリーをないがしろにしてドロレスに求愛したのだ。


その時のラファエルは、シャーリーなど全く眼中になかったのも問題だった。


これがシャーリーの体裁と自尊心、つまり女性としての矜持を傷つけたのだ。


この舞踏会が終わった翌日、王都にいる誰もが驚く醜聞が起こった。


なんとシャーリーが、ドロレスに対して決闘を申し込んだのだ。


一方で、ドロレスもラファエルの求愛を受け入れ一夜を共にしており、彼に心奪われた彼女はシャーリーの申し出を受け取った。


この決闘の申し出は、すぐさま王都中を嵐の如く駆け巡った。


しかも、その日のうちに二人の決闘は行われた。


互いに剣を手にした決闘は、シャーリーが重症を負いながらもドロレスに勝利した。


ドロレスは腹部を刺され、出血多量で意識不明の状態になっていた。


ここからが問題だった。


この決闘の届け出は、法務局に届けられていなかったのだ。


法務局としては決闘など行わせるつもりはなく、まして女性同士と言うこともあり穏便に事を済まそうと考えるのだが、今回は法務局を無視した私闘になってしまった。


これは、法務局の顔を潰したことになる。


その事に気付いたラファエルは、我関せずの態度を取る。


ラファエルは、二人を見捨てたのだ。


シャーリーは、決闘罪として拘束された。


怪我を負ったドロレスは、治癒院にいるが彼女も意識を回復次第、拘束予定となっていた。


世間はラファエルの態度に激怒したが、彼は何事もなかったかのように他の女性に求愛を続けていた。


そんな彼の姿に、世間はさらに激怒した。


ラファエルは言う。


「私は悪くない。悪いとするなら件の女性たちの心を奪った事だけさ」


悪びれることもなくラファエルは、行く先々でこう答えたのだった。


・・・一体、誰がラファエルを裁くのか?


王都の人々が注視する中で、シャーリーの侍女であるセシリアが法務局に訴え出た。


その内容はラファエルの不義密通、つまり姦通罪だった。


「これはどうしますかね・・・」


法務官の最上位の一人、終身法務官の地位を戴いているビョルン・トゥーリは、罪状を確認しながら考え込む。


「同性の立場としては許せないです」


同じ法務官で彼の補佐官である、エヴァ・ハヴィランドは珍しく憤慨していた。


ラファエルの噂は従来から聞いており、彼に踊らされた女性たちの話を聞くたびに許せなかった。


「彼は、幾人もの女性を妊娠させた上で、堕胎をさせたり金銭を受け取ると捨てたりしています」


「誰も訴え出ないのは、何故なのです?」


「彼女たちは、泣き寝入りをしています。どうも、ルビロサ伯爵家の圧力に屈しているようです」


「でも、今回はそうはいかないね。我々が訴訟を受け取った限りはね」


ビョルンは、すでにセシリアを保護していた。


その時には、何者かがセシリアに接触しようとしていたが、寸でのところで彼女を保護したのだ。


「彼のような男は、裏では力ずくで対象者を押さえ込もうとする。先に手を打って良かった」


「ですが、彼に対する証拠は何もないのが現状ですよ」


「それを調べるのが、我々法務官の仕事さ」


ビョルンは立ち上がると、エヴァの頭を優しく撫でる。


「今回は、君に審問を任せます」


「はい」


エヴァは、最初からラファエルの審問に名乗り出る覚悟だった。


「では、証拠確保に動きましょうか」


その言葉に、エヴァは力強く頷いた。


証拠を集める方法は、幾らでもあるものだ。


ただし、提示することで審問をうまく行えるような内容でなければならない。


ラファエルの場合、彼が狡猾な人物だと改めて知ることができた。


つまり、証拠と言うものが弱いものばかりだったのだ。


ラファエルは言う。


・・・彼女たちが勝手に抱かれに来る。彼女たちがお金を貸すのだ。私のどこか悪いのだ?むしろ同情してほしい。


他者から見れば呆れるほどの言い訳なのだが、実際には証拠と言うものが弱いのでどうすることもできない。


では、どうすれば証拠を集めることができるのか?


それを考えるのが、エヴァの最初の仕事だった。


エヴァは、近衛騎士団の一室で治療中のシャーリーに会いにゆく。


彼女は腹部に傷を負っているものの、意識ははっきりしており、聴取に応じることができる状態だった。


「どうして。決闘など申し込んだのですか?」


エヴァがシャーリーに対して、最初に問いかけたのはこの言葉だった。


「仕方なかったのです」


シャーリーは、顔を下に向けたまま答える。


「私はこの半年間、ラファエル様と情を交わしておりました。彼の噂は、もちろん知っております。ですが・・・私たちは愛し合っていると思っておりました。しかしながら、あの方は突然他の女性に心向けた。それも私の目の前で。許せるはずがないではありませんか。私は、愛されていたのを反故にされたのです。目の前にいた女性は、私に対して尊大な笑みを浮かべました。私の事を見下したのです。私の体中に怒りが満ちました。その時に私は、亡き祖父から教えられた事を思い出しました。屈辱を受けたのなら、剣を持ち決闘を申し込め。自らの命を手に相手を滅ぼせと。私は、その女性に決闘を申し込みました。その方は決闘を受けた。私はその方と戦って勝ちました。ですが・・・ラファエル様は、私たちを見放しました。あの方は、最初から私たちを遊び相手としか見ていなかったと知りました」


「後悔されているのですね?」


シャーリーは頷く。


「許せないのです。ラファエル・ルビロサが」


「ですが、件の方はあなたたちが勝手に行ったことだと話しております」


「わかっています。そういう方だと理解しております。だからこそ許せないのです」


「何か手はないでしょうか?」


「ありません。あの方は何も証拠を残さない方ですので・・・」


シャーリーは気付いていたのだ。


ラファエル・ルビロサと言う人物が、卑劣な人間だとわかっていても、彼女は情を通じた限りは彼を信頼し愛するしかなかった。


・・・そう考えると、私は意外と純粋なのかも。


エヴァの脳裏には、想い人であるビョルンの笑顔が浮かんでいる。


ビョルンとは法務官になって以来、補佐官として接している。


彼の人となりは、自分が一番理解しているとエヴァは自負している。


「シャーリー様は、ラファエル・ルビロサには未練はありませんね?」


「そうね。今は恨みしかないわ」


「では、今後は私にすべて任せて頂きます。苦情は受け付けませんが、それでもよろしいですか?」

「あなた・・・何がしたいの?」


シャーリーが怪訝な表情を浮かべる。


「好色放蕩な美男に、意趣返ししたいと思っています」


エヴァが笑みを浮かべる。その笑みの裏に、何かを感じたシャーリーは頷くのだった。



ラファエル・ルビロサは、最低な男だった。


屋敷を訪れたエヴァとビョルンは応接室に通されたのだが、二人の前に現れたラファエルはエヴァの容姿に興味が出たようですぐに彼女に求愛をした。


「今度、一緒に薔薇園へ行こうではないか」


エヴァの指を愛撫するかの如く優しく触れるラファエルの行為に、彼女は不快感を示す。


「なぜですか?」


「君の紅い髪の色を見ると、君を愛奏でてみたいと思ったのです」


「申し訳ないのですが、私はあなたに聞きたいことがあって来ただけです。求愛は別の方でもお願いします」


エヴァは、ラファエルの指を振り払う。


「終身法務官殿、彼女は愛を知らないのではないか?」


ラファエルが、隣にいるビョルンに語り掛ける。


どうも、ビョルンがエヴァの側にいるのが不愉快なのだろう。


「そうですかね。私に対しては、あなたに向けた態度は取りませんよ」


だが、ビョルンは全く気にしない。


「それは、仕事柄だからではないのか?」


「いえいえ。私と彼女は良い関係を築いていますよ。食事も一緒に行きますし、膝枕もしてくれますよ」


「ビョルン様!!」


膝枕の話は、二人だけの秘密だった。


だが、ビョルンはあえてラファエルに話す。


「それは、職場恋愛と言うものではないか!?」


ラファエルが声を上げる。


ビョルンから、予想もしない言葉を聞かされるとは思わなかったようだった。


「考えてみると、私はあなたのような行為はしないです。気にしないで下さい」


ビョルンはそう話すと、エヴァを見る。


エヴァは、頬を紅潮させている。


それが気に喰わないのか、ラファエルは話を変える。


「それで、何を聞きたいのだ?」


「シャーリー様とドロレス様のことです」


「ああ。決闘罪を犯したそうだが、愚かなことだと思うぞ」


「ですが、二人はあなたの事を想い、お互いが剣を持って戦ったのですよ」


「それが何だと言うのだ?二人が勝手にやったことではないか」


「つまり・・・あなたは自分には責任がないと言うことですね?」


「当たり前ではないか。私は何も知らん」


ラファエルは、軽蔑した笑みを浮かべる。


・・・許せない。


エヴァが、怒りが抑えられそうになかった。


そこに、ビョルンが助け舟を出す。


「では、法に従い我々はシャーリー様とドロレス様を審問します。ですが、判決に関しては口出しはできませんのでその点はご注意を」


「何が言いたいのだ?」


ラフェエルが疑問を呈す。


「私たちは、法務官として正当な裁きを下しますと言うことです」


ビョルンが立ち上がるとエヴァも続く。


「そう言えば、何者かがシャーリー様の侍女であるセシリア殿を脅そうとしておりましたので、その身柄を近衛騎士団のパウロ殿にお任せしております。脅そうとした者は、数日中には拘束できるかと思います」


「なっ!!」


ラファエルが思わず腰を浮かす。


「では、審問の際は宜しくお願いします」


ビョルンとエヴァは、動揺を隠し切れないラファエルを無視して屋敷を後にした。


エヴァは、ビョルンにシャーリーに対する審問を行う内容を確認してもらった。


それを見てビョルンは、破顔一笑した。


「いいですね。これは凄いです。ですがあなた一人で出来ますか?」


「大丈夫です」


エヴァは力強く頷く。


多くの女性を弄んだラファエルに対して、そのとがめを受けさせなければならなかった。


エヴァが行ったのは、ラファエルに踊らされた女性たちの集団訴訟だった。


その数は十件を超えていた。


その中には、シャーリーや意識を回復したドロレスも含まれていた。


これには、ラファエルも焦りを覚えた。


彼としては、一人や二人ほどの関係者なら、恫喝やお金を握らせてしまえば問題はなかった。


だが、これほどの人数が訴訟を起こすとは考えもつかなかった。


そればかりか、密かにシャーリーの侍女であるセシリアを脅そうとして雇った裏稼業の者が、呆気なく騎士団に捕まってしまったのだ。


だが、ラファエルは次の手を打つつもりであった。


それは罪を認めることで、彼女たちに賠償金を払うことだった。


経済力のあるラファエルにとっては、今は厳しい経済状況になるかもしれないが、数年先を見据えれば、その間にルビロサ家の財政はそれほど影響はでないと踏んでいた。


しかし、エヴァはさらにその上をゆく行動に出るのだった。


ラファエルへの審問の日、多くの人々がいる公聴の場でエヴァは彼にこう告げたのだ。


「ラファエル殿、彼女たちはあなたと決闘を申し込みたいとのことです」


「馬鹿な!!」


それは、ラファエルの考えを遥か上を越えてきたものだった。


「そんなことを許すつもりか!?」


「私もそう思いまして、これまで事例があるのか過去の記録を調べました。結果として、実は数件ありました」


「・・・あるのか?」


ラファエルは驚く。


しかし、法務官であるエヴァがこの公開の場で嘘をついているとは思えなかった。


エヴァは、まとめた資料をラファエル側に渡した。


すぐにラファエルは目を通すが、それは過去一世紀半の間に起こった男女の決闘の記録だった。


「あるのか、あると言うのか・・・」


「集団での決闘は男子1名に対して、十名の女性が行われております。今回も、このような事例がある限り、決闘を認めざるを得ないのです」


「だが、決闘そのものは廃れているではないか?」


「それを言うなら、どうしてシャーリー殿とドロレス殿の決闘を止めなかったのですか?」


エヴァは、ラファエルに対して逆に切り返す。


「いや・・・それは・・・」


ラファエルは、女性を軽蔑していた。


所詮は体だけの関係であり、彼女たちが何もできないのだと軽んじていた。


それが今はどうだ。


自分が侮蔑し蔑視していた者たちの反撃を受けている。


ラファエルは、この現状を自分の自尊心が許すことができなかった。


「ならば決闘を受けてやる!!」


ラファエルは、公聴の場で宣言してしまった。


彼が自分の心を落ち着かせた頃には、エヴァは決闘を認めていた。


ラファエルは、後には引けなくなったのだ。


決闘は、翌日行われることも決定していた。


あまりの手際の良さに、ラファエルは自分が嵌められたのだと気付いた。


だが、これは後の祭りであった。


公式の場で認められたものは、覆すことが簡単ではない。


ラファエルは、すぐさま裏稼業の者たちに助力を求める。


例え、世間に非難されても命の保証など考えられない限り、どんな手を使っても自らの身を守らなければならない。


翌日、ラファエルは裏稼業の者たちを連れて決闘の場へ現れた。


決闘の場には、訴訟を起こした女性たちがいた。


もちろん、シャーリーや車椅子に乗るドロレスもいた。


しかし、ラファエルは彼女たちの側にいる男性の一団を見て絶望した。


そこには、近衛騎士団の騎士たちが控えていたのだ。


しかも、主任団長のパウル・バルドーネの姿さえあったのだ。


「・・・なぜだ?」


ラファエルは、決闘の場で奥に控えるエヴァを見る。


エヴァはラファエルなど眼中になく、付き添いのビョルンと楽しく話していた。


・・・なぜ我々のことなど眼中にないのだ?


その瞬間、ラファエルは自分がまた嵌められたことを知った。


ラファエルは、エヴァが用意した決闘の記録の中に、助勢をしても問題ないと気付いていた。


それが、誰でも良いと解釈できるものだった。


だからこそ、いつも使っている裏家業の者たちを雇うことを選んだ。


ラファエルは、彼女たちが助勢を求めることができても、屋敷の者たちしかいないと踏んでいた。


しかし、エヴァの存在を怒りのあまり忘れてしまっていた。


エヴァは、法務官である前に一人の女性だった。


彼女たちに同情するのは当然だった。


その近くには、終身法務官として名高いビョルン・トゥーリがいる。


彼がいれば、近衛騎士団など加勢するのは当然ではないか。


ラファエルは絶望するしかなかった。


裏稼業の者たちも、自分たちの置かれた状況に頭を抱えるしかなかった。


暴力的な汚れ仕事に手を染めている彼らでも、近衛騎士団には到底勝てる自信はないのだ。


決闘の時間になった。


エヴァの開始の声で決闘が始まった。


裏稼業の者たちは、すでに逃亡を開始していた。


彼らは、騎士団が自分たちを拘束するつもりだとわかっていた。


セリリアの件だけではない。


ここで、自分たちを拘束すれば、多くの事件が明るみに出るからだ。


だが、他の騎士たちが会場の外で控えていた。


彼らは、戦うこともなく簡単に拘束された。


残されたのは、ラファエルだけだった。


ラファエルはシャーリーに話しかける。


「シャーリー、君は僕を愛してくれたではないか?何故、私を害するのだ?あの蜜なる日々を覚えているだろう?」


「ラファエル様、私は罪を犯しました。その罪は償わなければなりません。ですが、あなたは私を見捨てた。私があなたの愛を信用するとお思いですか?」


ラファエルの求愛を、シャーリーは拒否した。


「ドロレス、君も私を愛してくれたろう?」


今度はドロレスに縋る。


「ラファエル様、私もシャーリー様と同じ想いです」


だが、ドロレスも彼を否定する。


ラファエルは、他の女性たちに救いを求めようとする。


彼女たちは、ラファエルを軽蔑の目で見つめている。


「そんな目で見るな。私に抱かれて満足だったではないか・・・お前たちは私の愛を馬鹿にしているのか・・・」


ラファエルの言葉に誰も反応しない。


相変わらず冷たい目で見つけている。


「答えてもくれないのか・・・」


これで、ラファエルは完全に逃げ場をなくした。


もはやどうにもならない。


怒りは恨みへと変わってゆく。


ラファエルは迷うことなく、エヴァに駆け出してゆく。


そこには、エヴァに対する殺意しかなかった。


「貴様のせいだ!!」


ラファエルは大声で叫びながら、エヴァを刺そうとする。


しかし、その動きはパウロが読み切っていた。


パウロは、ラファエルに駆け寄ると、右手に持っていた短剣を手刀で叩き落とした。


経験したことのない痛みに、ラファエルはその場に崩れ落ちると、わがままな子供のようにその場で悲鳴を上げながら転がり続けた。


「不逞な野郎だ」


パウロは吐き捨てる。


彼に控えていた騎士たちが、ラファエルを拘束する。


「どうですか?怖いですか?」


エヴァが笑顔で、ラファエルの前に寄る。


その姿を見たラファエルは、初めてエヴァに戸惑いを覚えた。


・・・なんなのだ、この女は。なぜ、私に恐怖しない?なぜ、私を笑うのだ?


ラファエルには、エヴァの表情が魔の者にしか見えなかった。


「もしかして、怖いのですか?この後、自分がどうなるのか?」


笑いを堪えながら、エヴァは通知書を取り出す。


「教えましょう。この後、あなたはその地位を剥奪されます。あなたの領地は、王グスタフの直轄地となり、彼女たちの補償に充てられます」


「執政官様が・・・」


「はい。王グスタフも怒っているんです」


その事実を知ったラファエルは、唖然とするしかなかった。


王グスタフまで関わっているとは思いもしなかった。


彼は、エヴァを女性だからと軽視していた。


しかし、彼女の側には終身法務官がおり、近衛騎士団の主任団長がいる。


その段階で、自分の地位など彼らに及ばないのだと、ラファエルは今更ながら気付いた。


「あなたは弱いですね。本当に、彼女たちの方が強いですよ。それはどうしてだと思います?」


「・・・わからない」


ラファエルは、本当に理解できていない。


「わからないって、何言ってるんですか?求愛するのが好きなんでしょう?答えて下さいよ」


エヴァの笑みが、ラファエルにさらに重くのしかかる。


「・・・やめてくれ」


ラファエルが目を逸らす。


しかし、その先には今まで自分が辱めた女性たちがいる。


しかも、彼女たちもエヴァ同様に笑っているのだ。


ラファエルが、その光景に恐怖する。


「やめてくれって、本当に弱い人。あなたは、実は誰かに本当に愛されたことがないのですね」


「愛されていた!!」


「そう言うのなら、どうして彼女たちはあなたを助けないのですか?」


「・・・それは」


ラファエルは、再び、彼女たちに視線を向けようとしたが、どうしてもできなかった。


・・・怖い。


今、自分を嘲笑う彼女たちの姿に、ラファエルは自身が犯した罪を理解していた。


今更だが、愛した女性たちの心が自分にないことを知った。


「今後は、一人過ごすのは寂しいですね」


エヴァが、クスクスを笑い出す。


「嫌だ!!一人は嫌だ!!」


「愛を知らないあなたには、耐えられないでしょうね。でも、自業自得です」


エヴァが満面の笑みを浮かべる。


「さようなら」


その瞬間、ラファエルはその場で崩れ落ちた。


絶望のあまり、心身ともに何もできなかった。



この決闘の後、ラファエルは爵位を剥奪後、東属州にある牢に送られることになった。


シャーリーとドロレスは、お互いの傷が癒えた後、自身の罪を償うと同時に和解した。


ラファエルに傷つけられた女性たちには、補償金は支払われた。


こうして、王都を騒がせた事件は収束した。


これが、この事件の顛末だった。




事件の後、エヴァとビョルンは、いつものようにダイナーで食事をしていた。


「あの笑顔・・・怖すぎです」


ビョルンが、ワインを飲みながら話す。


「そうですか?」


エヴァが、不思議そうな顔をする。


「あれはいけません。パウロでさえ背中に悪寒が走ったのですよ」


パウロ曰く、


・・・エヴァは怒らせちゃいけない。


と。


「でも、これは審問の場で使えると思います」


「もしかして・・・あれは演技だったのですか?」


「もちろんですよ・・・と言うと思います?」


「違うのですか?」


「それは、ビョルンの想像にお任せします」


エヴァがあの時と同じ満面の笑みを浮かべる。


その瞬間、ビョルンの動きが止まる。


「ビョルン様?」


「今度、どこか一緒に旅行でも行きましょうか」


ビョルンは、無理やり笑みを作る。


「本当ですか?」


「ただし条件があります。その笑顔は私の前では見せないことです」


「それは・・・無理かもしれないです」


「どうしてですか!?」


ビョルンが驚く。


「それは、ビョルン様次第ですから」


エヴァは再びあの満面の笑みを浮かべるのだった。


・・・気持ちに気付いているのに、まだまだ押さないと駄目なのですね。


そう思いながら、エヴァはワインと一気に飲み干すのだった。

女性同士の決闘は、古今東西あったという記録があります。


今回は、その一つを参考にしております。


実際は、銃で撃ちあったりレイピアなどで戦ったりと激しいものだったようです。

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[一言] > エヴァが行ったのはラファエルに踊らされた女性たちの集団訴訟だった。 その数は三十を超えていた。 30人以上もいて誰一人として本性を最初に見抜いたり、付き合っている最中に気づけなかったの…
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