02 お隣さんと夕ご飯
「お隣同士なんて偶然ですね〜」
「……正直驚いているよ」
どこか嬉しさを含んだ声色で話す白波さん。
「まぁ……お隣同士これからよろしく、という事で」
「あ!せっかくだし一緒にご飯食べませんか?」
美少女とお隣同士という事実を落ち着かせようと部屋に戻ろうとする俺を白波さんが引き止める。
「ご、ご飯……?」
「はい、ご飯です。お知り合いになったんですし、それに今日のお礼もしたいので」
「そんなお礼なんて……俺は大した事はしてないからさ」
「1人で食べるより2人で食べた方が美味しいですよ」
「たしかにそうだけど……」
義理堅い人だということは分かったけど男子を部屋に連れ込むという意味が分かっているのだろうか。
といっても白波さん折れてくれないだろうし……仕方ない、ご飯だけ食べて帰るか。
「それじゃ、お言葉に甘えて……」
「ありがとうございますっ!ではではご案内しますね〜」
瞬間、パァっと表情が明るくなった白波さん。
嬉しそうに玄関の鍵を開けて中に促される。
「どうぞどうぞ〜」
「それじゃ、お邪魔します」
ドアをくぐって白波さんの部屋に入る。
幼馴染も居なかった僕にとって女の子の部屋に入るなんて初めてで緊張してしまう。
僕の部屋と同じく割りと広めの玄関。
まず目に入ったのが玄関に置かれた椅子とウェットティッシュ。
何故、玄関にこんな物がと一瞬思うが白波さんは裸足だ。
部屋に上がる前にここで汚れた足を拭くのだろう。
「すみません、少しお待ちくださいっ」
僕の想像通り、白波さんはウェットティッシュを数枚取り出してから椅子に腰掛け汚れた足裏を拭きだす。
踵から足の指先までゴシゴシと。
足裏が綺麗になると次は指の間にウェットティッシュを入り込ませ汚れを拭き取っていく。
しかし、俺は一体何を見せられているのだろう?
汚れた裸足を綺麗にする女の子。
文字にすると異様な光景だが、不思議と汚いという感情は出てこない。
白波さんが美少女だからだろうか。
理由なんて無い直感的なものなのだろうか。
ふと視線を変えると白波さんの靴が目に入る。
というか履き物の数が年頃の女の子にしてはかなり少ないように思える。
学校に履いていく用のローファー、水色のクロックス、ビーチサンダルしか見当たらない。
今日みたいに裸足で外に出るから履き物はそこまで必要ないという事なのだろうか。
「ごめんなさい、お待たせしました〜」
思考を張り巡らせていると足を拭き終わった白波さんに声を掛けられる。
「大丈夫。そこまで待ってないからさ」
「良かったです。では、リビングに行きましょう」
ぺたぺたと裸足特有の足音を立てながらフローリングの床を進んでいく白波さんに着いて行く。
見た感じ間取りは俺の部屋と同じ1LDK。
リビングにはテレビ、ソファー、テーブルと綺麗に纏まっている。
女の子の部屋という割にはかなり殺風景な感じがする。
そんな事を考えながらテーブルにコンビニ袋を置き、
ハンバーグ弁当を取り出す。
一方、白波さんはキッチンでご飯とおかずを皿によそっていた。
匂いからして煮物系だろうか。
「白波さん、レンジ借りていいかな?」
「大丈夫ですよ〜」
ありがとう、と礼を言いハンバーグ弁当をレンジに入れ温めていく。
レンジの前にずっと立っているのも邪魔になるので一旦テーブルに戻ると、白波さんが自分の分のご飯を持ってきていた。
白波さんの夕飯は肉じゃがの様だ。
人参、じゃがいも、白滝、インゲン等の色鮮やかな野菜と牛肉がしっかりと煮込まれていて食欲をそそる匂いが漂ってくる。
ーーチン
美味しそうな肉じゃがを見ていると温めが完了した音が聞こえたのでハンバーグ弁当をレンジから取り出し再びテーブルに戻る。
「では、いただきます〜」
「……いただきます」
俺がテーブルに戻って食事の準備が出来た事を確認すると白波さんが肉じゃがに手をつけ始める。
それに倣い、俺もハンバーグに箸を入れる。
腹が減っていた事も手伝ってかコンビニ弁当特有のジャンクな味付けが妙に美味しく感じる。
ものの数分でハンバーグ弁当を平らげ、おにぎりを食べ始める。
「凄いお腹減ってたんですね〜」
「まぁ……それなりには……」
俺の食べっぷりを見た白波さんが少し驚いた様に口を開く。
それが何だか気恥ずかしくなり、ペットボトルのお茶をゴクゴクと飲んで誤魔化す。
「あ……良かったら私の肉じゃが食べます?」
「え?」
「まだ食べ足りなさそうな感じだったので良かったらと思いまして……」
「たしかにまだ腹は減ってるけどさ……いいの?」
「え?何がですか?」
「初対面の男に皿を使ってもいいのかなって」
「私は気にしないですよ〜では、肉じゃがよそってきますね〜」
言うが早いか白波さんはキッチンに向かい、肉じゃがをよそった小皿を俺の前に差し出す。
「えへへ〜どうぞどうぞ〜」
嬉しそうに俺が肉じゃがに箸をつけるのを待つ白波さん。
ニコニコと微笑む少し幼さが残る顔立ちは彼女の小柄な体と相まって可愛らしさを増幅させる。
こんな美少女に食事を提供されるなんて俺はとんでもない幸せ者なのだろう。
「じゃあ、いただきます」
「は〜い」
いつまでも思案にふけっている訳にはいかないと、じゃがいもを1つ口に放り込む。
「う、美味い……」
「それは良かったです〜」
出汁がよく野菜と肉に染み込んでいて食欲を増進させる。
箸が止まる事なく半ば夢中になりながら数分と経たずに完食してしまった。
「ご馳走様でした。とても美味しかったよ」
「お口に合って良かったです〜良い食べっぷりで見ていて気持ちよかったですよ〜」
満腹感に満たされていると、胡座をかいていた俺の脚に何か当たった様な感触がする。
視線を下に向けると白波さんの小さな裸足が触れていた。
白波さんは無意識なのか裸足の指先をテーブルの下でぐにぐにと動かす。
少し視線をずらすと白い足の裏が少し顔を覗かせる。
女子の裸足なんて殆ど見ることがないせいか少しエロく見えてしまう。
「あ、明日学校だしさ……俺は部屋に戻るよ。肉じゃがご馳走してくれてありがとう、凄く美味しかったよ」
「ぁ……明日学校でしたね……あ!え、えっと……こちらこそありがとうございました。誰かと一緒にご飯食べるの久しぶりで楽しかったですっ」
学校というワードを聞いた瞬間、目に見えて白波さんが落ち込む。
しかしそれも一瞬の事ですぐに調子を取り戻したようだ。
「それじゃ……おやすみ」
「はい、おやすみなさいです……」
健気に笑顔を見せる白波さんを見てから、コンビニ袋を手に持ち、部屋を後にする。
学校と聞いた時の変わり様、誰かと一緒にご飯を食べる事が久しぶり、というワードが俺の中で引っかかりを見せる。
白波さん程の美少女なら昼休みに一緒に食べる友人くらい居そうな気もするが……。
言いようのない不安を抱えつつ明日に向けて就寝の準備をするのであった。