いつもと違う学校
「おーい。氷室くん。朝だよー 」
俺の耳元に若槻先生の声が届く。目を覚ますと真っ先に映り込んだのは若槻先生の顔だった。化粧も髪型も普段の学校でいる時の若槻先生になっている。昨日家で居た時とはかなり違って見える。
「おはようございます。若槻先生 」
「ご飯出来てるからね 」
若槻先生は俺の顔を見てウインクをする。これがまた可愛いのだ。心をズギュンと撃ち抜かれたような感じだ。
服を着替えてリビングに入るとテーブルには鮭と炊き込みご飯に味噌汁が用意されていた。炊き込みご飯にはゴボウとニンジンが細かく刻まれていた。味噌汁も赤味噌で俺の好みだった。
「す、すごい 」
「ちょっと朝から張り切り過ぎたよね。でも、氷室くんに好かれるにはこれぐらいしないといけないと思って..」
「どれも美味しそうですね 」
「男の人の心を掴む為にはまず胃袋を掴めば良いって聞くでしょ? だから頑張っちゃった 」
「あの、若槻先生は俺にして欲しいことってありませんか? 」
「して欲しいことね..そうだね、綺麗なドレス着て学校までお姫様抱っこで連れて行って欲しいかな〜 」
「絵本と漫画の読み過ぎですね 」
若槻先生は大人らしくない発言をした。普段は真面目だがそういう所のギャップも可愛くて良いのかもしれない。男子にも人気があるのが分かる。
椅子に座り箸を取り炊き込みご飯を食べ味噌汁を飲む。やはり見た目だけではなく味も最高だ。料亭の味ってやつかもしれない。
「普通に美味しいです。凄いですね 」
これだけ料理が上手いと将来の旦那さんも大喜びだと思う。毎朝仕事前に若槻先生の朝食、仕事帰りの若槻先生の夕食....最高かもしれない。頭も良くて可愛くて料理も上手くて若槻先生のスペックの高さに俺は言葉を失った。
「とても美味しいです。ありがとうございます 」
「良かった〜ちょっと自信無くて。でも、氷室くんが笑顔で食べてくれる所見て安心したよ 」
「若槻先生の食事最高です 」
「こ、これからも美味しいご飯沢山作るから楽しみにしててね。そ、それに....わ、私とけ、結婚してくれたらもって美味しい物食べさせてあげるから....」
結婚....この単語が俺の頭を駆け巡る。まだ遠い未来と思われる結婚。相手は分からないが、若槻先生の言葉で若槻先生が思い浮かぶ。純白のドレスに身を包んだ若槻先生が俺の元に歩み寄り隣に並ぶ。その光景が安易に妄想できた。
若槻先生が真っ赤にした顔で俺を見る。俺も若槻先生に見惚れて顔を直視する。お互いの視線が合い見つめ合う。なんだろうこの雰囲気は....恋人同士ならそのままベッドインっていう雰囲気だ。
しかし、今はまだ俺たちは先生と生徒という関係だ。
「ご、ごめんね。何か見惚れちゃった 」
「俺もすいません 」
「学校行こっか? 」
「はい 」
一緒に登校するのはヤバイということで先に若槻先生が家を出て俺は歯を磨いた後に少し遅れて家の戸締りをして出た。いつもと違う通学路は見慣れなくて少し楽しい。しばらくは飽きる気はなしない。ただ、前よりも距離が長くなったことが少々痛い物だ。
学校に着くと遅刻ギリギリだった。遅刻すると生活指導の先生から報告書やら書かされるのでそれは避けたかった。教室に入ってすぐホームルームが開始する。若槻先生が教室に入り生徒たちに挨拶する。一瞬だけが目が合うと微笑んでくれた。
「っていう感じの一日になります。何か聞きたいことある人は挙手ね 」
「はいっ!! 」
昨日教室に残っていたクラスの女子が一人挙手をした。
「何? 湊さん 」
「琴ちゃんさ、彼氏でも出来た? 何かいつもよりも乙女力が上がっているっていうかさ、何か可愛さ磨いてるように見えるし 」
「湊さんはそういう話ばっかりしないで勉強を頑張りなさ〜い 」
若槻先生は一瞬だけ俺の方を見たような気がした。ほんの一瞬だけど確実に目が合ったのだ。俺と若槻先生の間には禁断の秘密があり誰にもバレる訳にはいかない。その秘密をバレないように生活を送るのはスリルがあって不安な部分も有れば楽しい部分もある。
「これで朝のホームルームは終わります。各自、次の授業に備えてください 」
委員長が号令を取り一礼すると若槻先生は教室から出て行く。黒いヒールのカツカツと地面を叩く音が癖になりそうだ。そしてやはりあの綺麗な美脚線が最高だ。ずっと眺めていたい。
一限目が始まる。今日の授業に若槻先生担当の授業が無い。ということは若槻先生に会うのは家に帰ってからになる。何故か若槻先生の顔をもっと見たいと思ってしまう。多分、好きと言われて意識し始めたからかもしれない。
ぼーっとしていても時間は経っていく。
あっという間に昼休みになり俺は屋上で弁当を食べていた。弁当は朝の炊き込みご飯に唐揚げときんぴらごぼうにポテトサラダだった。やっぱりどれも絶品だ。こんなに美味しいご飯毎日食べれるのは幸せだなーと感じていた。
「ここに居たのね氷室くん 」
俺の後ろには若槻先生が立っていた。見上げるように若槻先生を見ているとタイトスカートの中から純白のパンツがチラ見していた。これがパンチラか。俺はそっと頭のメモリーに焼き付けた。
「な、何ですか? 」
「他の先生から聞いたけど氷室くん、今日の授業ほとんど聞いてなかったみたいね 」
「ば、バレてましたか....」
「バレてましたか....じゃありませんっ。授業はきちんと受けなさいっ 」
「すいません 」
「何かあったの? 」
「若槻先生の授業が一つもなくて何かやる気なくなって....」
「えっ....そ、そうだったんだ〜 」
先程まで怒り気味だった若槻先生が俺のやる気が出ない理由を聞いて和やかな顔に変化していく。表情も硬いものから柔らかく変化する。凄い変わり様だ。
「私の授業受けたかったんだね〜 」
「はい。というよりも何か若槻先生の顔見ないと寂しくて..理由は分かりませんけど 」
「そっか。そういうことね 」
「何か分かったんですか? 俺に教えてくれませんか? 」
「氷室くん。これはね自分で考えることだよ。一生懸命考えてそれでも答えが出なかったらその時は....私が教えてあげる。ふふふっ 」
若槻先生は笑みを浮かべ俺に背を向けて去って行く。その瞬間俺はあることに気づいた。そうだ。この際、昼食を一緒に食べたい。そう思うと口から言葉が自然と出た。
「あの、若槻先生!! 」
「ん? どうしたの? 」
「い、一緒に昼食しませんか? 」
「実は..誘われるの待ってたんだよ? 」
若槻先生は服の中からお弁当の袋を取り出した。俺が心の中で若槻先生と昼食をしたいと思っていたことと一緒だということが分かった。
俺の真向かいに座り込んだ若槻先生はお弁当を広げる。
「私も氷室くんとお揃いだよ? 」
若槻先生はお弁当を両手で持ち俺に見せつける。これはペアルックならぬペアお弁当かもしれない。俺は顔が熱くなるのを感じた。
「あぁ〜琴ちゃんとエース一緒にお弁当食べてる〜。あたしも入れてよ〜 」
俺と若槻先生の所に湊さんがやって来る。湊 瑠璃 俺のクラスの女子軍団のリーダー的存在だ。男子の一部はリーダーと呼んでいる人も居るぐらいだ。
「エースと琴ちゃんいつからそんなに仲良くなったの? あたし嫉妬しちゃうな〜 。そ〜だ、あたしも一緒にお弁当食べてもいい? 」
「私は別に構わないけど 」
若槻先生は俺の顔を見る。この状況で断ることはできないと思った俺は若槻先生同様了承した。こらから三人の昼食が始まる。