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今日の放課後から担任の先生と同居することになった〜担任の先生は俺のことが大好きみたいです。〜  作者: 雲李庵


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俺と若槻先生は放課後から同居する

 俺はあけぼの高校在籍の二年生、氷室(ひむろ) 怜黎(れいり) あだ名はエース。理由は、帰宅部兼ボランティア部のエースと呼ばれていることからそのままついた。エースと聞けばカッコいいが理由を聞くと誇らしくも偉くもないどちらかという恥ずかしいあだ名なのだ。


 今日も部活の名前通り授業が終わり、誰よりも早く帰らうと思いリュックを背負った所に担任の先生である、若槻(わかつき) 琴都音(ことね) 先生が俺を呼び止めるのだ。


「氷室くん。早く帰りたいかも知れないけど、少し残ってくれる? 」


 先生に呼び止められて居残りで話がある..大体面倒な話やろくでもない話が多い。俺はドキッとしながらも黙って頷いた。

 一方で先生と俺のやり取りを見ていたクラスメイトたちは「エースが琴ちゃんに怒られるぞ!! 」とか言って笑う人が大半だった。


 誰か少しは同情してくれよと思いながら他のクラスメイトに目を向けるが誰一人としてエールを送る者は居なかった。これが俺の人望度の無さかもしれない。


 椅子に座り他の生徒たちが教室を出るのを待つ。

 男子は割とすんなり部活や帰宅で教室を出るが女子は中々出ない。俺と若槻先生以外が教室から出ない限り若槻先生も話すつもりはないみたいだ。教卓で黙って作業をしている。

 早く帰りたい。帰らせてくれ。俺は心の中でひたすら唱えた。


 痺れを切らしたのか若槻先生は立ち上がり、集団で談笑している女子生徒の元へ近づいていく。


「あなた達。いい加減帰ったらどう? 」


 若槻先生の呼びかけに対して女子たちは目線を若槻先生に帰るとニヤニヤする。集団の中にいる二人の女子は若槻先生の呼びかけに言葉を返す。


「琴ちゃんも恋バナしようよ〜 」

「琴ちゃんって体育の大南先生が好きなんでしょ? 」


 それは初耳だ。若槻先生に好きな人が居たとはしかもよりによって体育の教師である大南先生とは思わなかった。意外だ。確かに大南先生は身体はムキムキで顔は昔で言うハンサムだ。

 でも、俺が思うに若槻先生は爽やか系な男性が好きそうだと思っていたので意外だったのだ。


「大人を弄るんじゃありません。それに勝手な事を言わないことっ!! 早く帰りなさいっ 」


「は〜い。すいませ〜ん 」


 女子たちは逃げるように教室から去って行く。普段穏やかな若槻先生が怒ると怖い。明らかに雰囲気が違っていた。まるで役者だ。

 女子たちが帰るのを見届ける若槻先生の目を盗んでコソッと俺は帰ろうとしたのだが..


「氷室くん。本題に入るわよ 」


「は..い 」


 俺は若槻先生に普通にバレてしまいそのまま机に戻り椅子に座った。若槻先生も前の席に座り俺の方を向いた。お互い向かい合うような形だ。これから起こるであろう何かに俺は緊張していた。


「氷室くん。加奈さんは元気? 」


 加奈とは俺の母の名前だ。なぜ若槻先生が母の名前を知っているのかと思ったが学校に提出した書類のどれかに両親の名前を書く欄があったはずだからそれで知っているのかもしれない。


「まぁ、元気ですけど 」


「そっか....氷室くん 」


「はい..」


「単刀直入に言うね? 」


 若槻先生は俺に何を言うつもりなのか。俺は次に発する若槻先生の言葉を推測する。勉強のことか、日頃の学校生活のことか、何かの説教であることに変わりはないだろう。これまでの行動を振り返り怒られるようなことをしたか考えたが特にそのような出来事が見当たらない。


「氷室くん。あの..ね..せ、先生と..先生と一緒に暮らして欲しいのっ!! 」


 俺は口を開けてその場でフリーズした。思考は停止し考えることを辞めていた。若槻先生の衝撃の言葉は全く予想ができなかった。というより予想不可能な言葉だった。自分が聞き間違えたのではないかと思うぐらいに。


「あの..もう一度言っていただいても? 」


「き、聞こえなかったの? は、恥ずかしいから..あまり..言いたくないけど..わ、私と一緒に暮らして欲しいのっ!! お願いっ!! 」


 主語が先生から私に変わっただけで俺が聞いた言葉と全く一緒だった。しかし、なぜ急に若槻先生が俺と一緒に暮らしたいとお願いするのか分からない。


「あの、何で若槻先生は俺と一緒に暮らしたいんですか? 」


「あ、ご、ごめんね。唐突過ぎたよね。じ、実は..私ね氷室くんのことが好きなの 」


 好き? 空き? 隙? 俺は"すき"と名のつく単語を頭の中で幾つも思い浮かべた。その中でも言葉としっくりくる"すき"は"好き"だ。

 若槻先生が俺のことを好き? 意味がわからない。何がなんだか分からない状態になってきた。若槻先生から一緒に暮らして欲しいと言われてしかもほぼ告白された。今の状況に頭はオーバーフローしそうだ。


「ご、ごめんね。色々唐突だよね。な、何から話したらいいかな..ま、まずは好きになった成り行きから話すね 」


 若槻先生は普段のぱーっとした明るさから打って変わりどんよりとして今にも泣きそうなぐらい暗く曇った顔を見せる。


「わ、私は加奈さん..氷室くんのお母さんの教え子なの。教え子と言っても昔通っていた塾の時のね 」


 これも初耳だった。先日二年生に進級した時に担任の先生の名前を母に言ったが何のリアクションも無く受け流された。まさか二人が繋がっていたとは。


「加奈さんには色々とお世話になって..実は、氷室くんとも昔会ってるんだよ? 」


「え? 」


「まだ氷室くんが小さい時に何度か会って遊んだんだよ。丁度私が氷室くんと同じ歳の時かな 」


「そうだったんですか....」


「私ね氷室くんと会ったのは数回だったけどその数回で氷室くんのこと好きになったの。産まれて初めて人を好きになったの。その数回以降忙しくて会えなかったけど氷室くんがこの高校に入学したのを知った時は心の底から嬉しかった 」


 若槻先生の事は風の噂で高校一年生の時から認知していたが若槻先生は俺たちのクラスの授業を何一つ受け持っていなかったので一度も話す事はなかった。


「氷室くんが高校一年生の時に何度も見かけて話しかけたかったけど..久しぶり過ぎて..話しかけ辛かったの..でも、二年生になって担任を受け持つことになったのはラッキーだったよ。お陰で話す口実が出来たからね 」


「い、色々と頭がパンクしそうです 」


「よしよし 」


 この短い時間でかなりの情報量が一気に流れ込み頭がパンクしそうになった俺は両手で頭を抱え込んでいたら若槻先生が俺の頭を優しく撫で始める。


「ちょ、先生 」


「ごめんね。急に言われてもびっくりするよね。私が悪いよね。ごめんね 」


 若槻先生に撫でられる。恥ずかしいけどどこか落ち着く。頭の中がぐるぐるになっていたのが自然と解消されていく。撫でられるだけでこんなにも心地良くて落ち着ける。


「若槻先生.. 」


「話の途中になったけど、私ね、この間加奈さんと久しぶりに電話したの。それで加奈さんに氷室くんのことが好きって言ったの。するとね、氷室くんの許可が出たら一緒に暮らせば良いって言われて 」


 この話には母が絡んでいたようだ。何も知らない振りをして関わっていたとは。家に帰ったら詳しく話を聞かせてもらおうと思った。


「どう..かな? 」


 色々と分かったが肝心の問題はまだ解決していない。俺が若槻先生と一緒に暮らすという話だ。色々考えたが拒否すれば若槻先生が悲しみそうだ。正直、若槻先生の悲しむ顔は見たくない。こっちの悲しくなりそうだから。

 しかし、教師と生徒が一緒に暮らすのも悩ましい所ではある。


「あの、わ、私頑張るからっ。毎日氷室くんのお弁当も作るし、朝食も夕食も作るからっ。それに洗濯も掃除も..今までより頑張るからっ..よ、良かったら..一緒に暮らして欲しい..なぁ 」


 若槻先生は肩まで伸びる黒髪を人差しにくるくる巻きモジモジしながら言った。普段見ることのできない若槻先生の姿を見ることが出来て俺は他の生徒たちよりも得した気分になっていた。

 色々考えたが、俺は若槻先生と一緒に暮らすことにした。俺が一緒に暮らすことを決断した理由はまだ分からない。


「若槻先生。俺、若槻先生と一緒に暮らします。何ができるか分かりませんけど、よろしくお願いします 」


「あ、ありがとうっ 私人生で一番嬉しいかも。ありがとう氷室くんっ 」


 若槻先生は俺の両手を掴みポロポロと涙を流した。若槻先生の泣いた顔は切なく見ているこっちが悲しくなるがそれと同時にどこか可愛かった。

 若槻先生が泣いている所に俺は何を言えば良いか分からなかった。だからさっきのお返しで若槻先生の頭を優しく撫でた。


「えへっ。氷室くんに頭を撫でられちゃった 」


 若槻先生は大量の涙で濡れ、真っ赤になった顔をくしゃっとして無邪気な笑顔を見せる。化粧も涙で落ち素の若槻先生の顔になる。普段大人の女性の顔立ちをしている若槻先生だが今はどこか幼く学生のようだった。


 やがて若槻先生は泣き止むと二人で沈んでいく夕日を教室から眺めていた。会話はなく静かな教室。グランドから聞こえる野球部の練習がいつも以上に大きく聞こえる。


「氷室くん。帰ろっか 」


「はい 」


 俺と若槻先生の同居生活が始まろうとしていた。


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