「Children of the lucid dream④」 IDECCHI51 【ヒューマンドラマ】 挿絵:だがしや様
松山港まつりは盛大に開催されようとしていた。
花火が打ちあがる前から撮影は始まっていた。
『どうもダテッチ7号です!』
『小島です』
『え~と、撮影はサトリンがします。さっそく質問ですけど、2人は中学時代に3年間もクラスが一緒だったらしいですね』
『そうですね。でもお互い何にも喋らない根暗っ子でしたから』
『ダッテチさんほど僕は無口じゃなかったですけどね』
『小島さんは小学……何年生までかをここで過ごしていたと聞きますが?』
『小学2年生までいました。大学時代にまた戻ってきましたけどね』
『そしてダテッチさんとは広島に戻ってきて再会したと伺いました』
『ええ、とんでもなく喋る人になっていて、たいへん驚きましたね』
『僕も大人になった小島君がこんなに喋るなんて思いもしませんでしたよ(笑)』
『こういう感じで再会を果たし、すっかり仲良しとなったこの2人のレポートで松山港まつりをお届けしたいと思います。小島さん、小島さんが小さい頃にみた花火とはまた一味違う花火を味わえるかと思いますが、レポートの意気込みなどここでひとつどうぞ!』
『えっと……それは…………なんていうか…………はは…………』
『ほら、大人になってもちょっぴり口下手な小島君でございました(笑)』
賢一の一声でオープニングの録画は終わった。
「おい、今撮ったやつ使うのかよ?」
「あたぼう、面白かったぞ」
「もうそろそろ陽が暮れるしね、花火のレポートに備えなくちゃ」
「ほら、さっき買ってきた、たこ焼きだ。みんなで食べようぜ~」
「お~悟君ありがと! いただきます!」
「ほら、小島も食べろよ」
「ああ、ありがとう……」
「何だ? お前急に元気がなくなったぞ。この祭りにトラウマか何かあるのか?」
「悟君、きっと個人的なことだよ。あんまり詮索しないであげよう。それよりさ、このたこ焼き、うまっ!!」
実はあの件以来この夏祭りに参加したことはなかった。
どうしても思いだしてしまうからだ。
あの女の子がもしも豊崎早苗だったなら、自分は何故声をかけてあげられなかったのだろうか。違っていても、ただ近くで傍観していた自分が情けなかった。
ただここで暗い顔をしてしまっても申し訳ない。たこ焼きを口にした彼は賢一以上に「うまいっ!!」とリアクションをとってみせた。
空に星が浮かび、星空がみえた頃に花火はあがりだした。
『うおおお、ご覧ください! これが松山港まつりの花火です! お二人とも、コメントをどうぞ!』
『いや~綺麗ですね。恋人とみたいですね。あ、彼女募集しています! 興味がある人はこちらまでどうぞ!』
『実は小さい頃以来ですけど、当時気になっていた人がいて……』
『え!? それ何ですか!? 俺、花火よりそっちが気になる!』
『ははは、当時無線を使った交流にハマっていましてね――』
意を決し、英介が彼の過去を語ろうとした瞬間だった。
「!?」
彼は赤い浴衣をきた女の子が泣きながら横切るのを目にした。
『あれ? 小島さん? どこへゆく?』
『ちょっとサトリンさん! こっち! この花火、綺麗な色をしていますよ!』
『え? おお! 色とりどりの花火が打ち上がっております!』
『広島では宮島の花火大会が有名ですが――』
英介は何十年か振りに同じ花火大会で同じ場所に立っていた。
赤い浴衣を着た女性だ。彼女はうずくまって泣いていた。
まるであの時の再現だ。彼は思いもよらぬ運命に固唾を飲んだ。
しかしあの時の自分と今の自分は違う。彼は勇気を振り絞った――
「あの、どうかなされましたか?」
顔をあげた彼女は彼にとって美人すぎるほどの美人だった。
「ほ、ほっといてください」
それでも彼は普通なら言わないことを躊躇わず言った。
「あの、違っていたらすいません。豊崎早苗さんですか?」
「え!? なんでわかったの……」
「やっぱりそうか……僕です。小島です。小さい時に無線でやりとりしました」
「え? えっと……無線?」
彼女は混乱しているようだ。無理もないだろう。だけど、振り絞ってだした彼の勇気は止まらない。
「ほら、綺麗な花火が打ちあがっている! これをみて帰ろう!」
彼は彼女の手をとり、賢一と悟のいるところへ駆けだした――
戻ってくる英介をみて、賢一は悟に「カメラを止めて!」と命じた。
「え? お前!? こじまぁ~何勝手にナンパしているの(笑)」
「ナンパじゃないよ! 悲しんでいたから、花火をみせたかっただけだ!」
「ヒューヒュー、俺のなかでお前の好感度があがっているぞ~」
英介の突然の行動に驚き喜ぶ一同だったが、早苗はただオドオドするばかりだった。そんな彼女を気遣って賢一は撮影を悟と彼の2人で行うようにした。
英介はただ早苗に花火をみせてあげた――




