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真夏のミステリーツアー【アンソロジー企画】  作者: 真夏のミステリーツアー参加者一同
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「Children of the lucid dream②」 IDECCHI51 【ヒューマンドラマ】 挿絵:だがしや様

 実は愛媛に来て思いだす光景があった。ふとした瞬間にその場面が脳裏を横切って離れなかった。しかし英介は誰にもそれを話さずにいた――




 あれは英介が小さかった頃の話だ。英介が8歳で小学2年生の夏休み、父親が趣味で使っていたアマチュア無線を「ちょっとだけなら」と譲って貰い、使っていた事があった。小さい時から周囲に秀才と言わしめていた彼は学校の宿題を夏休みが始まって間もない頃に終わらせていた。



 そうなれば夏休みの早くから終わりにかけてうんと遊べる。両親にはいろんな観光地へ毎年連れてってもらっていた彼だったが、彼がこのときに心を躍らせていたのは、無線で見知らぬ人とやりとりをすることだった。



 普段から内気で友達もこれといっていない彼が無線越しに話す姿には彼の両親も感心をしていた。



 英介は色んな年代の人と話をすることができたが、とくにお喋りができたのが同じ松山市内にいる1つ年上の女子だった。名前は豊崎早苗というらしい。



「小島君、趣味はなに?」

「え、えっと~サッカーすることかな?」

「ええ!? サッカーするの!? カッコいいね!!」

「アハハ……豊崎さんは何かあるの?」

「私? 私はお人形さん遊びかな!」

「人形?」

「うん。お家にたくさんお人形さんがあってね、着せ替えとかしたりするの」

「へぇ~そういう遊びもあるのか~」

「内緒にしてよ! 秘密なのだから」

「ハハハ……大丈夫だよ」

「ねぇ、今度の『松山港まつり』にくる?」

「え? ああ、毎年行っているよ! 父さんと母さんと一緒だけど」

「私も毎年行っているよ! 親だけじゃなくて妹も一緒だけど……」

「妹さんいるのか、お姉さんだね!」



 約1時間におよぶ会話はとても盛り上がった。サッカーをしているなんて嘘をついたのは心残りだったが、松山港まつりで会えるのを心待ちにした。



 しかし幼い子供であるからか、具体的な約束はとりつけられなかった。



 早苗は「赤い浴衣を着て行く」と話し、英介は「眼鏡をかけている」と伝えた。



 こんな約束では会おうにも無理があった。




 そして松山港まつりの日がやってきた。



 たくさんの花火が打ちあがるなか、英介は母親の許しを得て早苗を探してみた。だが赤い浴衣を着た女の子はたくさんいる。誰が早苗なのかわかったものでない。



 幼い英介は途方にくれた。その時だった。



 港の縁のほうで一人うずくまって泣いている女の子がいた。彼女は赤い浴衣を着ていた。しかし彼女が早苗だなんてどうにも確認できなかった。


挿絵(By みてみん)


 ちょっと尋ねてみるだけなのに、勇気がでなかった。



 無情に夜空へ打ち上げられていく花火。



 英介はただ悲しみに暮れる名も知らぬ女の子を眺めているだけだった。



 花火が照らす2人は他人同士でしかなかった。



 やがて花火は終わった。英介は母親に連れられて家路をトボトボとたどった。母親にはクラスの同級生と会い喧嘩したのだと嘘を言った。




 それから英介は無線をたびたび飛ばしたが、早苗と繋がることはなかった。



 彼にとってはこれが初恋だったのかもしれない。



 夏休みの研究発表で無線の話をしようとしていたが、嫌な思い出だけが残った彼は、家にあるかき氷機でかき氷を作り、それを彼の研究発表にした。生憎そういう研究発表をする生徒は英介以外にも2人はいた。



 夏休みの最後の日に自分で作ったかき氷はどこか甘苦かった。




 この翌年の春、英介は愛媛を発った。



 それから彼は6人の女子から告白を受けることがあった。



 しかしどれも「興味がないから」とあっさり断り続けた。



 夏の惑わせる光は大人になった彼をも惑わし続けていた――

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