「Children of the lucid dream①」 IDECCHI51 ヒューマンドラマ】 挿絵:だがしや様
小島英介は揺れる電車に乗って外の景色を眺めていた。
さっきまで突発的な雨が降っていたが、すぐに空が晴れ渡っていた。駅に到着する頃には空に虹がかかっており、夏休みを満喫しているのであろう少年たちが「虹がかかっているぞ!」と騒いでいる。
「夏だなぁ……」
英介は特に大はしゃぎしている少年をボッと眺めながら、ベンチに座って一人呟いた。
彼はここ愛媛で生まれ育った青年であった。
生まれは愛媛の松山で小学2年生までをこの地で過ごした。小学3年生からは広島で高校卒業までを過ごす。大学は愛媛大学の教育学部に入学し、生まれ故郷にて教師となる夢を目指した。
しかし教員となる道は険しく、大卒1年目で教師となることはなかった。大学時代を愛媛で過ごした彼はいつしか広島が恋しくなり、広島での活躍を志した。その為に家庭教師の仕事を掛け持ちし、採用試験に臨むも結果は実らなかった。
彼は高校時代より小説を書く趣味をみつけていた。書くものは小説のみならず、彼の理論を唱えた論文を書くのも好きだったりする。元々はブログなどで書いていたものであったが、近頃は「小説家になろう」という便利なサイトもあったりして、彼の活動する幅は広がった。
そんななかで彼は文芸創作のセミナーをみつけて参加した。そこで出会ったのが、高木玲という女性だ。気さくに何でも話しかけてくる彼女に心を許した彼は、彼女の所属する夕闇文芸団という社会人サークルに入部する事となった。
そこで再会したのが伊達賢一という男だ。
賢一とは中学時代に3年間のクラスを共にした。一緒の班になる事もたびたびであった。しかし彼と話した事はほとんどなく、お互いにおとなしい性格が災いして、友情を結ぶようなことは特になかった。当時の彼の印象といえば、とても根暗な男子で話しかけづらい雰囲気があったと思うほどだった。
そんな賢一が自分以上によく喋る爽やかな青年となっていたのには驚きを隠せなかった。なんとサークルの立ち上げも彼がやったというのだから尚更である。
そして今まさにここで待っているのは伊達賢一という男だ。
あともう一人いた。江川悟という賢一の傍にいつもいる男だ。英介はこの男と何故か気が合わなかった。
あれこれ考えているうちに賢一と悟が英介の前に現れた。
「おまたせ。熱いなか悪いね」
「熱いな。もうホテルに向かおうか?」
「いや、プールか海に行かないかね?」
「もう! フェリーの時からその話ばかりじゃないか!」
「あ、そうそう、お前泳げなかったな。でも俺は泳げるから行きたいの」
「伊達君、泳げなかったのか……」
「知らなかったの? ずっと一緒の班だったっていうのに。変な奴らだ」
「そこまで親しく話してなかったからね」
「そうだね」
話のとおりだ。まさか大人になってこんなに話す間柄になると思ってなかった。
「それはそうと、出会いがしら八つ当たりはやめてくれないか。気分悪くなる」
「あ? 熱くて気分が悪いのは一緒だって言っているだろうが。わざわざ小島君に気を使って話さないといけないのですかぁ?」
「まぁまぁ、二人とも落ち着きなって」
やはり悟と気が合わない英介だった。
結局はホテルにチェックインして松山市内にあるプール場へ向かう事となった。英介が愛媛に来た理由は学生時代の旧友に会う為であるが、サークルの用事の為でもある。
夕闇文芸団は「小説家になろう」というサイトに小説を投稿する活動をしたりするいっぽうで、メンバーがYoutubeで動画投稿をする活動もしている。
このたびの松山市訪問は、松山港で開催される夏祭りである「松山港まつり」の花火等を撮影する目的が含まれていた。レポーターは英介と賢一で撮影は悟が担当する。元々は広島の盆踊りに参加して撮影するとかいう話だったが、英介が「地元に戻って松山港まつりに参加する予定だ」という話をしたのに「じゃあ、それを撮ろうよ!」と賢一が反応したのが事の発端である。
支度を終えた英介がホテルのロビーへ行くと、悟と賢一がソファーに腰かけてアイスを食べながらくつろいでいた。
「はやっ!」
そう言った英介だが、思ってもない返事が返ってきた。
「は? 何言っているの? お前が遅いのだろうが」
「え?」
「この熱さに頭でもやられたのかよ? 病院にでも行ったらどうだ?」
「悟君、それは言い過ぎだよ。プールへいこう」
何かがおかしい。夏のせいなのか?
体が浮きそうな英介は、笑顔をみせる友人らと一緒にプール場へ向かった――




