「ある夏の罪 ――ツーリングで出会った奇妙な少年―― 9. 恐怖」 夢学無岳 【ホラー×サスペンス】
恐怖
それにしても恐ろしい夢でした。自分が殺される夢を、続けざまに見たのは初めてです。わたしは、入口を閉めたまま、外に気を配りました。暗いので、たき火は消されているようです。風の音はありません。虫の、「じーじーじー」とか「ちちち…」という音が聞こえてくるだけです。わたしは、A君は犬の解体を終えて、もう寝たのだろう、と思いました。
わたしは寝ころび、何でこんな夢を見たのか、考えてみました。
一番大きな理由は、A君の話だと思いました。彼の話を聞いている時は、分かりませんでしたが、彼は、人間を資源のように考えているのだと、この時やっと気がつきました。
合理的と言えば合理的です。生態系や、生きている人のことを考えているからです。でも非情と言えば非情です。
また、本当か嘘かは分かりませんが、彼は父親を殺したと告白しました。それから、実際に犬を殺しました。犬には襲われたのだから、仕方ないと言えば仕方ありません。
A君は、本来は、心が優しいのだと思います。公園でも野良犬に餌をあげていたし、わたしのように、飢えた犬を放っておきませんでした。また、初対面のわたしに、夕食をおごってくれました。
そう、優しいA君の、少しずれた言動。これが悪夢の原因だ、わたしはそう結論をくだして、また眠りにつこうと思いました。でも、何かがチクチクと心に引っかかっていて、なかなか眠ることができませんでした。
何十分経ったか分かりません。私は突然起き上がりました。手足に汗をかき、心臓の鼓動が激しくなりました。わたしの脳裏に、恐ろしい考えが浮かんだからです。
A君の父親は、父親としての役割を果たさなかった。だから父親は殺された。
野犬は、餌をもらったにも関わらず、彼に逆らった。だから犬は殺された。
わたしは……、中華料理店で、彼におごってもらい、そして彼の秘密を聞いた。
わたしは身震いしました。
わたしは、何をしたら殺されるのか。友達としての役割を果たせなかった時か。それとも、彼に逆らった時か。
わたしの頭には、彼のお父さんは、どのように殺されたんだろうかという、嫌な考えがよぎりました。
そして、まるでフラッシュを焚くように、はじめて彼を見た時のことを思い出しました。ドラッグストアにいた時、彼は北の方から自転車を走らせてきました。普通なら、そのまま南へ行くので、北へ自転車を走らせていた、わたしと再会するはずがありません。
わたしは、確信しました。彼は、わたしを追って来たのです。
わたしは、彼とは偶然、一緒に食事をして、キャンプをすることになったと思っていました。でも、もし、彼がわたしに近づいて来たのが、計画的にだとしたら……。
どんな計画かは分かりません。ただ、わたしは、すぐに逃げなければならない、と思いました。
このままだと、わたしは誰にも知られることなく殺されてしまう。衝動的に旅へ出たので、わたしがここに来ているなんて、友人も家族も誰も知りません。バイトは十日後、わたしが出勤しない限り、誰も、わたしを探そうとはしません。携帯電話もない。
まだ外は暗い。今なら逃げて彼を撒けます。A君に見つからないように、ここから離れよう。そして警察に行こう。
わたしは、そう思いました。