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真夏のミステリーツアー【アンソロジー企画】  作者: 真夏のミステリーツアー参加者一同
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「ある夏の罪 ――ツーリングで出会った奇妙な少年―― 3.少年との再会」 夢学無岳 【ホラー×サスペンス】


  少年との再会




 夕方、西の空がきれいなオレンジ色に染まりはじめた時、わたしは、川の土手を走っていました。強烈な向かい風でした。川下の海から、津波のように押し寄せる風に、わたしの膝は悲鳴をあげました。わたしは自転車から下りて歩きました。


 自転車をこいでも痛い。歩いても痛い。一体、わたしは何をやっているのだろうと自問しました。このまま駅に向って、電車で家に帰ろうか、本気で、何度も何度も、そう思いました。でも、駅には行かずに、そのまま前へ進み続けました。


 なぜそうしたのか、よく分かりません。はじめに目的地を北海道に決めた。自分で決めた行動は、必ず守らなければならない。守れなかったら負けだ。電車や自動車など機械に頼ってばかりいるから、人間の持つ力が衰えていくのだ。困難は、自分の力で乗り越えていかなければならない。あとで考えると、そんな気持ちが、自転車の進路を変更させてくれなかったのだろう、わたしはそう思いました。


 わたしは涙をこらえて前に進みました。




 松島を通りかかった時には、海風の強い日でした。海は強烈な太陽光をキラキラと反射し、小さな深緑の島が、何の主張をすることもなく、そこに佇んでいました。ここが芭蕉の詠んだ場所か、と思いました。


 大して感動することはなかったので、「松島か、ああ松島か、松島か」と一句詠むと、観光もせず、先を急ぎました。ひたすら、太平洋岸のジグザグに入り組んだ、起伏の多い道を北へと進みました。膝が痛いので、下り坂以外は、歩くようなスピードで進みました。




 日が傾き、ふと気がつくと、わたしの横に、自転車に乗った少年がいました。昨日、ドラッグストアで見かけた少年です。中学生くらいに見えました。頑張って立ちこぎをしています。彼と目が合ったので、わたしは苦痛の色が顔に出ないように笑顔を作りました。


「やあ」わたしは声をかけました。

「どうも。すごい風ですね」彼は、自転車をシャコシャコとこぎながら、答えました。

「ああ、こう強いと参るわ」

「そうですね」


 彼は、ガチャンとギアを一段上げて、ペダルのスピードを少しゆっくりにしました。


「お兄さんは、どこまで行くんですか?」

「僕? ちょっと北海道までね。君は?」

「俺? 俺は、ブラリ自転車の旅ってところです」


 彼の自転車にはテントやカバンなどがくくり付けられています。わたしは、彼は家の近場をキャンプしながらツーリングしているのだろう、と勝手に思いました。


「もうすぐ夜ですけど、お兄さんは、夕飯どうします?」と彼は聞きました。


 わたしは膝の回復のために、コンビニのおにぎりとかでなく、ちゃんとした肉料理を食べたいと思っていました。


「次に見つけた店で何か食べるよ。君は?」

「俺? 俺は……、一緒していいですか?」彼は、子犬のような目で、わたしを見ました。

「ああ、いいよ」

「よしっ」


 彼は小さくガッツポーズをしました。彼が喜んでくれるなんて悪い気はしません。わたしは、昨日今日と、酷い痛みに耐えながら、ひとりで自転車を走らせて来たので、彼の存在に癒されました。彼も孤独を感じていたのかもしれません。



 太陽は、西の山の向うへ落ちました。次の小さな港町に近づいた時には、もうすでに外灯がついていました。わたしたちは、小さな公園を見つけました。その先、住宅が立ち並ぶ中に、赤いのれんが掛かっている店がありました。中華料理店のようです。わたしたちは、今夜はここで一緒にキャンプをしようと、自転車を公園に置き、歩いて食事に行きました。


 わたしたちは、歩きながら自己紹介をしました。彼の名は、ここでは、A君としておきます。

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