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第二話



アラームを止めた私が目を開けると、咲華が既に身支度を終えていた。床に座ってた咲華と目があうと、おはようと笑いかけてくれる。

朝から眩しい笑顔ですね。目が閉じそうです。


「愛梨また寝ない。そろそろ起きないと間に合わなくなるよ」

「うー、はーい…」

渋々ベッドから降りた私を確認して、咲華は台所に立って朝食を作り始めてくれる。顔を洗って着替えながらその後ろ姿を見てると、まるで奥さんがいるみたいな感じがする。

あっという間にテーブルに並ぶ朝食。焼き鮭に味付け海苔、胡瓜の浅漬けに味噌汁とご飯。い、いつの間にご飯を炊いていたんだ、咲華よ…


「はぁ、美味しい」

「美味しい? 良かった」

「咲華は良いお嫁さんになるねぇ」

「う、うん」

全て平らげた私がお腹を叩く。


ここで一つ。明かされていなかった私の容姿をお教えしたい。

黒髪黒目の典型的な日本人。そして、身長百五十センチにして、体重七十五キロ。そう、おデブちゃんである。

小さい頃はそうでもなかったんだけど、中学生の頃から太り始め、ダイエットをやっても続かずこの有様。小学生の時は男の子から告白をされた事もあったけど、それ以降、男の人から告白された事はない。

咲華が告白されてるとこを見かけてしまい、羨ましいなぁと思いはしたけど、この見た目で告白してくるなんて罰ゲームでやらされてるか、デブ専かのどちらかだろう。私が男だったら、咲華とまではいかなくとも、まぁ痩せてて可愛い女の子がいい。


出掛ける支度を終えて、二人揃って家を出る。最寄りの駅まで一緒に歩いてれば、共通の友達、葵が昨日話してきたネタを思い出した。

「そういえば、一昨日隣の学部のイケメンから告白されたんだって?」

「あ、うん…」

「報告無いしその様子だと、また断ったな?」

「だって、あの男愛梨ちゃんの事馬鹿にしたんだよ。最低にもほどがあるっ」

「お、おう…」


気まずそうな顔をした咲華が、突然目を吊り上げて拳を握りしめた。美人の怒った顔は迫力が凄い。若干身を引いた私に気づいてないのか、咲華は暫く歩きながらイケメンの悪口と愚痴を言っていた。背後がおどろおどろしい…


告白が後を絶たない咲華は、誰からの告白にも首を縦に振らなかった。かといって、特定の相手がいるわけでもない。そして、咲華の隣にはいつも私がいる。

 確かに私の存在は邪魔に違いなかっただろうけどね。なにしろ、私が一人で大学の廊下を歩いてると、通り過ぎる時に「邪魔だ、デブ」とか「臭いんだよ」とか言葉を投げつけていく。

別に、狭い一本道じゃないんだから避けて歩けばいいし、これでも、体臭には気を使ってるつもりだ。制汗スプレーの消費貢献半端ないんだぞ。

最初は気にしたり泣いたりしたけど、それでも咲華の親友を辞めたくなかったし、何故かその次の日には悪口を言った奴の恥ずかしい写真とか、二股や浮気の証拠が校内の掲示板に貼られていて、知らぬうちに痛い目をみていた。誰か分からないけど、正直胸がスッとしてしまった。


だから、今回もそれだと溜め息を吐いた。

駅の階段を降りようとした時、いきなりイケメンが目の前に現れて、開口一番「お前のせいだ、ブス」と罵られた。

いきなり過ぎて対応できず目をパチクリさせてると、咲華が私とイケメンの間に割って入る。咲華の顔は生憎見えないけど、背中越しに見えたイケメンが恐怖に顔を歪めている。きっと、咲華が睨みつけてるんだろうな。般若の形相に違いない。分かる、分かるよイケメン君。怖いんだよねぇ。


「まぁまぁ、咲華。私は気にしてないから。それに、そろそろ電車来ちゃうから行こう?」

「でも…」

「ギリギリになって走って、私が間に合うと思うかね?」

「そうだね」

「ちょっと、そんなすぐに肯定しないでよっ」

「ごめんごめん」

どうにか咲華の気を反らせる事に成功した。凄いぞ私、偉いぞ私。

イケメン君を放置して階段を降りようとした瞬間、私は背中を思い切り押された。ドンっと。

「…え?」

何とか堪えようとしたけど、体が半回転しただけで、重い私の体は重力に逆らわず落ちていく。

「愛梨っ」

必死に手を伸ばす、焦った表情の咲華。

こんな時、周りがスローモーションのように見えるって本当なんだなぁなんて、呑気な事を考える。

ガツン、と頭に衝撃を受け、私の記憶はそこで途切れた。

掌だけが、何故か暖かかった。


 


 





次に私が目を覚ますと、ベッドの上だった。

見慣れない天井。階段から落ちた記憶はあるから、病院だとは思うんだけど、何か違和感がある。病院にしてはやけにボロい。最寄りの病院に運ばれただろうから、駅前の病院なはず。あそこは出来たばっかで新しく、こんなボロっちい作りなはずがない。


「なら、何処ここ…」

ベッドから起き上がると、私は目を丸くした。

病室とはかけ離れた、ボロい普通の部屋。ボロいボロい言い過ぎかもしれないけど、本当に今目の前に見える光景は、ボロい部屋以外のなにものでもないのだ。

古そうな机と椅子に、若干斜めに傾いてる棚。クローゼットのようなものも木製みたいで、取っ手の左が取れてる。


「夢見てんのかな…」

そうに違いない。そう思った私が再び寝ようとすると、些か乱暴に古そうな扉が開かれた。

「おい、エレナ。まだ寝てんのか? そろそろ起きろよっ」

「ぎゃっ、誰っ」


乱暴に入ってきた割には、爽やかな声で明るい笑顔。

突然の乱入者に私が可愛くない悲鳴をあげて飛び上がると、キョトンとした顔をする男の子。

「誰ってお前、寝ぼけてんのか?」

「は? え? いや、寝ぼけてる、のかな?」

「はぁ、まだ寝ぼけてんな。ほら、さっさと起きて支度しろよ。朝市の準備遅くなるぞ」


何処かで見たことある顔をマジマジと見る。

少年というにはそこまで幼くない。かと言って、青年というには成長しきれていない体は、十代前半に見える。丸めの双眸が余計にそう見させているのかもしれない。愛嬌のある顔で、このままで育っていったなら、絶対にイケメンになって女の子から黄色い声を浴びること間違いなし。

耳の後ろの短い黒髪をピンと跳ねさせていて、寝癖を直しきれていないのも、年上の女の人の心を掴みそうである。

うん、見たことあるんだ、絶対。だけど、喉元まで来てるのに思い出せない。ぐぁぁぁもどかしいっ。


私が頭を抱えたら、将来有望のイケメン君が顔を覗き込んできた。うわ、整った顔のアップやめて、慣れてないから辛いっ。

「寝ぼけてるんじゃなくて、体調悪いのか?」

「ぎゃぁぁぁっ」

「おわぁぁぁっ」

イケメン君がおでこコツンしてきて、半ばパニックになった私がまたまた可愛くない悲鳴をあげると、その声にイケメン君も驚いて体を逸らした。耳も抑えてるから、私の悲鳴で耳が痛いんだろうな、ごめんね。だけど、何がなんだかさっぱり分からないんだよ、私。


「本当にどうしたんだよエレナ」

「エレ、ナ?」

何処かで聞いた名前ではなかろうか? つい昨日見てた名前ではなかろうか。いやいや、そんなまさかね。うん、違う違う。私はエレナなんて名前じゃなくて、橘愛梨っていう名前、が…

恐る恐るイケメン君の顔をもっとよく見れば、昨日画面越しに見た顔を幼くしたような…そんな…


「ラン、ス?」

「なんだよ」

「本当に嘘じゃなくて絶対にランス?」

「そうだって。…やっぱ体調悪いんだろ。今日朝市の準備は俺がやるから、エレナは寝とけ」

イケメン君は、固まり動けなくなった私を見て体調が悪いと思ったみたいで、両肩に手を置いて私を寝かしつけると、来た時と同じように爽やかな顔で部屋を出ていった。


途端、頭が割れそうな痛みに頭を抱える。私が生きて見てきた記憶と、エレナが生きて見てきた記憶が交互に脳内で展開され、それに伴って培ってきた知識と、得てきた感情がどっと押し寄せてくる。

処理しきれない情報に脳が悲鳴をあげ、ますます痛みは強くなっていく。

口からは奇声のような悲鳴を抑えることが出来ず、視界が真っ黒に染まっていく。

「……、…ナっ。… …っ」

誰かの声を遠くに聞きながら、私は真っ暗闇に意識を沈めていった。

 



ここまでお読みくださりありがとうございました!!

次のお話でちょっと展開が動きそうな動かなそうな…

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