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第一話

不定期更新になりますが、お暇な時の暇潰しにしてもらえましたら幸いです。


「…っ終わったぁぁぁっ」

両腕を天井に伸ばした私は、実に嬉しそうな顔をしていたに違いない。隣に座り漫画を見ていた親友が、私の大声に目を丸くして顔を上げたけど、笑顔で「おめでとう、お疲れ様」と言ってくれた。


笑い返した私は、エンディングが流れてるゲームの画面を満足気に見る。

私が今クリアしたのは、魔法が使える世界で攻略者と親愛度を深めていく、所謂乙女ゲーム。その名は『Amore e prove』

友達から面白かったと予め言われていたし、ネット上の評価もまぁまぁで、乙女ゲームという括りにしては戦闘シーンも多い。なおかつ、プロモーションで攻略対象を見て心惹かれた私はすぐに購入し、あっという間にハマっていた。


大学生の私は、必要な講義だけ出て、あとは家に引きこもってゲームをする毎日を過ごしていた。ご飯も簡単に済ませて、お風呂に入る時も濡れないように袋に入れて、湯船に浸かりながらやっていたし、大学に行ってもゲーム機を手放さなかった。


そんな私を心配してくれたのが、私に労いの言葉をくれた親友、来栖咲華。イタリア人の父親と日本人の母親を持つハーフの咲華は、とても綺麗な顔をしていて、性格もとてもいいという最良物件なのだ。親友という立場な私は、それはもう鼻が高い。自慢の幼馴染であり、大親友。

中学生の頃、私の勝手な思い込みで喧嘩もしたけどちゃんと仲直りできたし、今では一人暮らしをしてる私の生活、主に食生活を心配して毎日のように遊びに来ては、手料理を披露してくれる。これがまた美味いのなんの。非の打ち所がないとは、こういう時に使うんじゃないのかとしみじみ思う。


「これで、最後の人もクリアしたんだっけ?」

「うん。スチルも全て回収済みだから、フルコンだよぉ」

「良かったね」

「うん」

漫画をテーブルの上に置いて、咲華が首を傾げる。私はニンマリと笑って、咲華の目の目でVサインをしてみせた。ドヤ顔で胸も張れば、自分のことのように咲華が笑う。あぁ、もう。その微笑みが眩し過ぎるっ。


実は、この『Amore e prove』に惹かれたのには、攻略者以外の登場人物に目をひかれたからでもある。

ストーリーは、平民という立場でありながらも、ヒロインは稀有な魔力の持ち主として魔法学園に通うことから始まっていく。


攻略者の一人。王族で第一王子のセルバ・エリオット・ノエル。

金髪で薄紫の瞳を持ち、端正な顔立ちは令嬢たちを虜にするほどで。性格はどちらかと言えば緩い方と言える。様々な令嬢との噂が後を絶たず、手が早い。魔法は火属性と風属性の二属性持ち。ストーリーが始まる時の年は十五。

二人目は王族で第二王子のレイハン・エリオット・ノエル。

兄と同じ金髪で、瞳は薄緑。甘い顔立ちの兄と違い強面の第二王子は、性格も兄と反対で女嫌い。兄が嫌いという訳ではなく、寧ろブラコンとも言える。魔法は土属性と水属性の二属性持ち。ストーリーが始まる時の年は十四。

三人目はクロウド・セル・ディヴァン。ディヴァン公爵家の嫡男。

茶髪で、瞳は薄茶。タレ目で愛嬌のある顔。身分に拘らず、誰にでも気安く声をかけるフレンドリー。けれど、一度キレると暴れまくり、悪魔と言われたりもしている。魔法は闇属性。ストーリーが始まる時の年は十四。

四人目はヒロインと同じ平民のランス。

黒髪で、瞳も黒。ヒロインとは幼馴染で、小さい頃から兄妹のように育った。ヒロインが魔法を発動した時、触発されたランスも魔法を発動し、共に魔法学園へと通うことになる。魔法は風属性。ストーリーが始まる時の年は十四。

このゲームのヒロインであるエレナ。勿論名前は変更可能だけど、私はデフォの名前で進めていた。

彼女の見た目は黒髪で、瞳は黒に見えるけれど日の当たり方によっては真紅に見える色をしている。。ランスと買い物に出かけた時野盗に会い、身を守ろうとして魔法を発動する。その現場を陛下直属の騎士に見られていて、魔法所持者として学園にいくよう通達されてしまう。ストーリーが始まる時の年は十四。


 そして、私が攻略者よりも目を奪われたのが、ヒロインの邪魔をする悪役令嬢、リリアンヌ・フォン・エステリス。

セルバルートでは、セルバの婚約者。リリアンヌという者がありながら、セルバはエレナにちょっかいを出し、それを見たリリアンヌが嫉妬に怒り、エレナを苛め倒すのだ。それにも負けず、エレナはセルバとの親密度を上げていき、最終的に二人は結ばれる。リリアンヌはこれまでエレナにしてきた罪を攻められ、婚約破棄と爵位を格下げさせられる。

レイハンルートでは、セルバルートと同じように婚約者となるリリアンヌ。女嫌いのレイハンはリリアンヌに冷たくあしらっていたのに、エレナと出会ってからはエレナと話をする事が多くなり、それに嫉妬したリリアンヌがセルバルート同様エレナを苛め倒す。セルバルートと違うのは、二人が結ばれるとリリアンヌがエレナにナイフで襲いかかり、それを返り討ちにしたレイハンがリリアンヌを殺してしまう。ハッピーエンドなはずなのに何とも後味の悪いストーリー。ハッピーエンドとはなんぞ? と聞きたくなる。

クロウドルートでは、リリアンヌは婚約者にはならないもののライバルとして立ちはだかる。学園生活でクロウドに好意を持ったリリアンヌが、エレナをライバル視して何かと突っかかってくる。バッドエンドでは、リリアンヌに傷つけられ泣き続けるエレナを見たクロウドがキレ、魔法を暴走させたクロウドによって命を落としてしまう。

ランスルートでは、特にリリアンヌの出番は無いように思うがなんのその。開発した人たちはリリアンヌに恨みでもあるのか、ここでも彼女を登場させている。

実は、ランスは陛下が妾に産ませていた子供だった。ストーリーが進むにつれ明らかになるランスの身分に、悪役宰相がリリアンヌの父親に悪魔の囁きをし、ランスと無理矢理婚約してしまう。王位継承の争いに巻き込まれ、リリアンヌはここでも命を落としてしまう。

どのルートでも、度合いは様々ではあるものの、リリアンヌには悲劇しか待ち受けていないのである。何とも酷すぎる。許すまじ。


 と、どうして私がリリアンヌの待遇にここまで腹を立てているのかというと、リリアンヌはまるで瓜二つなのである。誰にかって? 私じゃなくて、大親友の咲華に。

ハーフだからか、赤に近い茶髪に薄水色の瞳。彫りの深い顔立ちに形良い唇は、何もしてなくてもピンク色。

唯一違うところは服装と髪型ぐらいなもの。リリアンヌは物語の設定上ドレスを着ていて、髪も悪役令嬢はこの髪型っ。と、言わしめる縦ロール。

一方、咲華は緩くウェーブがかった髪を、顔の横で一つに括っている事が多い。綺麗な髪なんだし長さもあるから、もっと色々な髪型を試してみたらと言ってるのに、何故か咲華はこの髪型が気に入ってるからこれがいいと譲らない。変な所で頑固なのが、短所なような気もする。


こんな風にリリアンヌと咲華がそっくり過ぎるから、どうしてもゲームをやりながら、リリアンヌの事が気になって仕方なかった。

ヒロインと攻略者が、困難を乗り越え親愛度を深めていって、最後幸せになるのは嬉しい。けれど、どうしても、リリアンヌの不遇が納得行かなすぎた。

「やっぱり、どのルートもリリアンヌが幸せにならなかった…」

「愛梨はほんと、リリアンヌが好きなんだね」

「勿論。いや、エレナちゃんも大好きだよ? 私ヒロインちゃん大好きだからね。でもさ、リリアンヌはほんっと咲華に似てるから、バッドエンドしかないのがどーにも納得できなくてさぁ。なんか、咲華が不幸せになってる気がしてしょーがない」


ホーム画面になったゲーム機の電源を切って、ベッドの上に放り投げる。唇を尖らせた私に、咲華は空になってたカップに紅茶を注いでくれた。お礼を言いながら口をつければ、熱過ぎない温度で飲みやすい。一口飲めば、思った以上に体は水分を求めてたみたいで、私は一気飲みする。

「おかわりどうぞ」

「へへ、ありがとう」

「ゲームのリリアンヌは不幸だったかもしれない。だけど、私は今幸せだよ。こうやって愛梨と一緒に居られるのが、すっごく幸せ」

「そっか」

「うん、そう」


なんだい、なんだい。照れるじゃないのさ。咲華は本当にイタリアの血が流れてるんだと思う。たまに、こういうむず痒くなるような事を何の気なしに言ってしまうから。


「あ、もうこんな時間じゃん。咲華今日も泊まってく?」

「実は、そのつもりで来ましたー」

「だと思ってたけどね。今日の咲華荷物多めだったから」

「ふふ、宜しくお願いします」

「宜しくお願いされます」

スマホで時間を確認すれば、もう一人で外を歩くには遅い時間。私の家から咲華の家までそう遠くはないけど、夜に一人歩きはするもんじゃない。特に咲華は綺麗だから、どんな魔の手にかかってしまうか分からない。何かあってからでは遅いのだ。


チラリと咲華の持ってきたバックに視線をやれば、まるで悪戯が見つかった子供のように舌を出して笑ってきた。

咲華が私の家に泊まるのも結構多くて、実は私の部屋の四分の一は咲華の物。歯ブラシとかカップ、茶碗も咲華の分が私の分の隣に並んでたりする。これだけ見ると、一人暮らしとはどう見ても見えないと思う。


先にお風呂に入ってベットに寝っ転がってると、あっという間に咲華が出てくる。多分、十五分ぐらいしか経ってない。

「もっとお風呂に浸かってればいいのに」

「家では長風呂してるよ」

「ならうちでも長風呂すればいいのに…は、まさか我が家の湯船はお気に召しませんでしたかな?」

「っ、あはは。違う違う。明日は朝一から講義あるでしょ。長風呂しないで早めに寝たほうが良いかなって思ったの」

「まぁ、確かに。でも、ほんと泊まった時毎回出るの早くない?」

「気のせいじゃない?」

「そうかなぁ?」

首を傾げる私の手に、水滴がポツリポツリ落ちてくる。あ、また咲華髪殆ど拭かずに出てきたなっ。

「もうっ。どうしてもっと拭いてから出てこないのっ」

「ごめんね〜」

「そう思うならちゃんと拭いてっ」

語尾を伸ばして謝る咲華。こいつ、全然悪いと思ってないな…

それならこうじゃぁぁぁ。

「きゃっ、愛梨乱暴過ぎ〜」

「拭かない咲華が悪ぅいっ」

私が肩にかけてたタオルだけど、それで咲華の髪をグシャグシャかき混ぜるように拭いてやる。ふふん、懲りない咲華が悪いのである。

ドライヤーまでかけてやれば、ふわんふわんの髪。達成感が私を襲う。


「髪も乾いたし、そろそろ寝よっか」

「うん、おやすみ」

「おやすみ」

私はベッドに。咲華は床に敷いた、持ち込まれた咲華専用の布団に潜り込んで明かりを消す。

この時の私は、明日も明後日も変わらない日常を過ごしていくのだと思っていた。まさかあんな事になるなんて、誰だって予想出来るわけがない。

 



【簡易人物紹介 ver.1】

(たちばな) 愛理(あいり)

享年20歳 本作主人公 


来栖(くるす) 咲華(さいか)

20歳 愛理の大親友 イタリア人と日本人のハーフで顔も良く性格も良くスタイルも良い 赤茶の髪に薄水色の瞳


セルバ・エリオット・ノエル

ゲーム開始時は15歳 攻略対象者 第一王子 金髪に薄紫の瞳 整った顔立ち 軟派な性格で手が早い 火属性と風属性の魔法を使える


レイハン・エリオット・ノエル

ゲーム開始時は14歳 攻略対象者 第二王子 金髪に薄緑の瞳 強面でブラコン 女嫌い 土属性と水属性の魔法を使える


クロウド・セル・ディヴァン

ゲーム開始時は14歳 攻略対象者 ディヴァン公爵家の嫡男 茶髪で薄茶の瞳 誰に対してもフレンドリーだがキレると悪魔と化す 闇属性の魔法を使える


ランス

ゲーム開始時は14歳 攻略対象者 エレナと幼馴染み 平民(後に王族の血筋であると判明) 黒髪で黒の瞳 魔法は風属性


エレナ

Amore e proveのヒロイン ランスと幼馴染み 平民 買い物に出かけ野盗に遭遇し身の危険を感じた瞬間魔法に目覚める 黒髪で黒に近い真紅の瞳 


リリアンヌ・フォン・エステリス

ゲーム開始時は14歳 悪役令嬢 悪役令嬢らしい容姿とイジメをエレナにする 縦ロールとドレス以外は咲華そっくり 


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