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8ダイス目 緋の残香

「……俺に何の用だ?」


『不用意に敵対するような発言は避けて。ここは情報を優先するよりも生き残る事を優先するんだ』


(わかってる。逃げられるとは思えないから話を訊くだけだ)


 忠告してきたニャルに脳内で答える。ただ、敵対せずに、というのは難しいかもしれない。さっきこの如月彼岸と名乗った女が言った、まだ食べてしまうには惜しい。食べるの意味にもよるが、間違いなくいつか敵対することを示唆している。


「そんなに警戒しなくてもよくてよ。それよりも、わざわざわたくしから名乗ったのですから、あなたも名乗るべきではなくて?」


 髪を揺らしながら首を傾げる如月彼岸。その仕草はとても愛らしく、一般的な男であれば堕ちてしまうだろう。しかし俺が無性欲であるからか、その仕草の奥に言い知れぬ圧を感じていた。


『まずいね……これは』


(絶体絶命ってやつか?)


『そんな風にお気楽な考えが浮かぶのもきっと今のうちだけだよ。それより、偽名を使うんだ。本名を知られると危険な敵もいる』


(偽名って言っても、どんな偽名を使ったらいいんだ?)


『ここは単純にローランでもなんでもいい。英名で思い付いたのを言うんだ』


 如月彼岸に変な風に思われないよう、立ち上がりながらニャルと素早い会話をする。しかし、英名と言われてもすぐには思い付かない。由来は解らないが、ここは取り敢えずローランで通そう。


「俺の名前はローランだ」


 ふぅんと声を漏らしながら俺の目をまじまじと見つめてくる如月彼岸。身長差の影響で自然と上目遣いになっている。瞳孔は暗く深く、ずっと見ていると呑み込まれてしまいそうな気がした。


「嘘を吐くのはよくなくてよ」


「!?」


『なぜPOW対抗ダイスもせずに動揺したんだい!?鎌を掛けただけだったかもしれなかったじゃないか!』


(対抗ダイスなんてやり方知らんぞ!そもそも自分でできるものだったのか!?)


『対抗ダイスはそれに準ずる行動か意思が無いとできないなんて常識じゃないか!それとも君は駄KPの卓のPLだったのかい?』


(ぐっ、そう言われると確かに常識だったっ!)


 ニャルと不毛だが益はある言い争いをしていると、如月が再び口を開いた。


「ふふっ、そんなに驚くことでもないのに、面白いお人。ますます食べるのが楽しみですわ」


 さっきから鳥肌が止まらない。如月が何か言う度に神経を逆撫でされているような気がして止まない。


『何か能力を使っているようだね。君の元々の性質のお陰で防げているみたいだ。鳥肌で済んで運がよかったね』


「あぁ、そうです。ローランどのは本名を言わなくてもよろしくてよ?わたくしが知りたいのは、ローランどのの中にある力の名前ですので」


『この女、まさか……』


(まさか……なんなんだ?)


「そのまさかですわ。ニャルラトホテプともあろうものが、読心術のスキルを失念するなんて。ふふ、面白い」


 如月はニャルラトホテプを知っているのか!? それに、読心術とは一体なんなんだ。スキルの名前らしいが……。


『……降参だ。何が目的なんだい?』


(ニャル? いきなりどうした?)


「目的は挨拶だと、先程も申し上げましたわよ? それではさようなら。面白いニャルラトホテプとローランどの。またいずれ逢いましょう。ふふふふ」


 如月が踵を返し歩いていく。やがて森の闇へと消えていった。如月の姿が見えなくなるまで、不気味な笑い声は続いていた。


(……ニャル、一体どういうことだ?)


『帰ってから全部話すよ。今は安全に帰ることだけ考えて』


 それから家の方向へ向かって歩き始めたが、家に着くまでニャルは終始無言だった。

用語説明

・対抗ダイス

対抗する相手の能力値と自分の能力値を比べ、その差×5をした値を50%から足すか引くかし、1d100を振って対抗の勝敗を決めるダイス。対抗に勝利すれば良い結果や望んだ結果が得られ、対抗に敗北すれば悪い結果が得られる。

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