いつか星まで届く
第100回フリーワンライ
お題:
アポトーシス(プログラム細胞死)
やがて死にゆく星は
フリーワンライ企画概要
http://privatter.net/p/271257
#深夜の真剣文字書き60分一本勝負
経過記録・第100日目
まずいことになったかも知れない。
△
経過記録
今日より記録を取り始める。
実験に用いるラットは全長十七センチ。体長九センチ。体重約百五十グラム。標準より小さい。食も細く、意欲に欠ける。
だからこそ良い。
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経過記録・三日目
極めて順調。体長体重ともに微増。
記憶力に向上が見られた。
経過記録・四日目
体調に明らかな改善が見られる。
運動量が増した。
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経過記録・十日目
実験に用いたラットは第一日目に記したように、標準的なラットよりも小さく、体力薄弱なものを選んだ。標準的なものや、ましてや元気旺盛な個体では駄目なのだ。
経過は良好で、今や体長は三十センチに達した。標準サイズを越えたと言える。
明日より次の段階へ移行する。
本実験は寿命の増進と健康の持続を主目的とする。
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経過記録・40日目
第二段階の実験に使用したラットは老いて内臓を病んでいた。
実験後、体調は見事に改善した。毛艶も良くなり、食欲増進、体重も増えた。衰えを感じさせない運動量と記憶力。
いいぞ。
*
末期癌のラットが快復した。
成功かも知れない。
引き続き実験を行う。必ず成功させなければならない。
実験は次の段階へ移る。そろそろ人体実験も視野に入れる。
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経過記録・101日目
ラットの異常成長について。
体長は二メートルに届く勢い。体重は……最早私の手には負えない。
これは吉兆か、凶兆か。先走ったかも知れない。
経過記録 102日
ケージを買い換えた。だがこれも長くは保たないだろう。
計算によると、あと半月でラットがこの部屋より大きくなる見込み。
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恒常性を逸脱した形態。
これをもうラットとは呼べない。
自分のしてしまったこと、自分にしたことを思うと、震えが止まらない。
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記録
結論が出た。
細胞から自殺因子を取り除いたことから、成長の抑制が利かなくなった。今後も加速度的に成長を続けることがわかった。死なず、老いず、ただ無目的に大きくなり続ける。
この不定形の怪物を止める術はない。
私の目指した研究は不老不死だった。皮肉なことに、それは達成しつつある。
私も、また――
『いつか星まで届く』了
最近は少しご無沙汰だけど、マジック:ザ・ギャザリングを嗜んでましてね。二十年以上続いたTCGの元祖にして最高峰だけあって、刷られたカードの種類がなんと一万五千を越えているとか。
MTGの魅力はなんと言っても(ゲーム性は置いといて)、カードにちりばめられた背景設定の断片。そういうのをフレーバー(味付け)テキストと言うんですが、限られたテキスト欄でピリッと印象的な一文が結構出てくる。
今回の話は、そんな中でもラヴニカへの回帰版「霊感/Insipiration」のフレーバーをモチーフにしました。四マナで二枚ドローするインスタント呪文。
「31日目:ついに時間の逆転実験に成功した!」
「30日目:これはちとマズイかもしれん。」
――首席イズマグナスの日誌
たった三行で色々妄想させてくれるネタ集団、もといインフラ爆発担当イゼット団に拍手。首席イズマグナス氏に起きたマズイ出来事とはなんなのか。三十日目と三十一日目をループし始めてしまったのか。それとも時間逆行が止まらなくなったのか。
そのへんからお題に沿って組み立てて、あとは小池一夫せンせいがコラムで「リドル(謎)を重視せよ」と仰っていたのも思い出したので、冒頭に百日目をポンと置いて完成。ぶっちゃけ霊感のフレーバーまんまと言えばまんまだけど。