第一話:箕劔 郁真
三年前から今も話題のニュースは「少女行方不明事件」。
ニホン中の十歳から二十歳迄の少女が行方不明になり続け、既にもう一万人以上がその犠牲になっている、と、ニュースではうんざりする位頻繁に報道しているのだ。
まぁ、自分には関係の無い話だ。
とその犠牲者の家族には全く持って失礼極まりない事を当然とばかりにさらりと言い退けてる彼が向かう先は、宝石店。
彼――箕劔 郁真には二つの思いがある。
自分には関係のない話。被害者は全て十歳から二十歳迄の少女。自分は只の男子高校生なので自分が被害に合う事はまず無いと思っている。
もう一つは、妹と姉がその被害者である事。その安否である。
一度知りたい・興味を持ったものはとことん追求するのがポリシーである郁真は学校が休みの日は全て事件について調べ上げているのだ。元々学業に関しては優秀な方である彼はその頭脳を働かせ様々な人物達に聞き取り、書物を調べたり、噂された現場に赴いたりしているので地元では「知りたがり系男子」等と呼ばれてしまっているのだ。
そんな彼が何故宝石店へというそのきっかけは、その宝石店では宝石を使ったアクセサリーの他に腕時計も扱っている。目的はそれだ。事件現場に赴くものなので時折県外に行ったりする際には充電器があるとはいえ出来るだけ携帯電話の充電は保っていたい、それにもし携帯電話が緊急で使えなくなった時用に時間が確認できる腕時計が一番なのだ。
今回足を運ぶは「GUILTY」と呼ばれるニホンに誇る大手宝石メーカーの直営店。
この宝石メーカーは海外進出もしており、世界の宝石メーカーのトップに君臨し続けている。
宝石を散りばめたアクセサリーがメインで販売されている他に腕時計は男性にも人気を誇るとされているのだ。因みに、郁真は初めて立ち寄る。つまりブランド物初挑戦と言う事で今迄バイトで稼いできたお金と貯めに貯めたお小遣いが詰まった財布が入っているスクールバッグを肩にかけながら蒼き瞳は銀に光る看板をじっと見つめて、再びそれは真正面を向いた。
「うっわ……俺場違いじゃないかな。大丈夫かな」
入口の自動ドアを抜けた途端の如何にも高級店ですと言いたげ、否実際そうなのだが、そんな雰囲気が醸し出されている様に口を開きながら辺りの硝子のショーケースに眼を移す。
どれもこれも高い、が、一先ず一番安そうなものを買おう。
ざっと店内を回った当たり、どうやらこの店舗の最安値は三万円からのようだ。値札を確認。スクールバックから財布を取り出しお金の確認。頷き、近くに居た店員に声を掛けレジを頼む。
「三万二千四百円で御座います」
「これで」
「三万二千四百円丁度お預かりします。有難うございました」
真っ白な紙袋に商品を入れられ、満足気に店を後にする。
後はこれで自宅に戻ればいい。
時間が気になったが今この買ったばかりの腕時計を使うのもと思い再びスクールバッグに手をかけ、そこからスマートフォンを取り出して時間を確認すると、十八時を過ぎていた。バイト帰りとはいえ早く帰らないと折角夕飯を作って貰っているのに申し訳ない。と言ってもここから郁真の自宅迄は徒歩十五分の道のりでそう遠くもない為走るという選択肢は無かった。只メールで「後もう少しで着きます」とだけ送信しておいて再びスマートフォンの画面を落とし、スクールバッグへと戻した後に帰宅路をゆっくり歩きはじめる。
家に帰ったら何をしようかという思考を巡らせながら歩いていると突然を後ろから右肩を引っ張られる感覚が郁真を襲った。
まさか先程宝石店に出た所を見られた?つまりひったくりか?
それとも俺に何か恨みでもあるのか?
先程まで家に帰ったらなどと言う思考だったのだがそんなものなど一瞬で吹き飛んでしまった。
何かと思い、恐る恐る後ろに身体ごと向ける。
「な、何ですか」
郁真は動揺のあまり不意に敬語になってしまったがよくよく見るとその人物は不審者としか言いようのない容姿をしているではないか。
サングラスで眼を、マスクで口を隠しており服装はというとベージュのトレンチコートだ。
黒い帽子も被っているがそれと同時に黒く長い髪をしているのも伺えた。服装の事といいこれの事といい恐らく女性だと思われる。
「………この子を、助けてあげて」
「はぁ、この子…?」
「出来る筈。コアである貴方なら何れは……」
女性はそう告げると自身の手にあったものをゆっくりと差し出してくる。郁真は女性の手のひらにあるものを眺めながらもその言葉の意味に首を傾げる。
あったのは、宝石のアクセサリ。これは、ネックレスだろうか。デザインからして確実に女物であるが、明らかに高額品であるし見知らぬ人物からこんなものを受け取るのはどういうものか。断ろうともしたが郁真はそれを受け取ったのはその女性の声と手が小刻みに震えていた様を確認できたからだ。
どう言った経緯なのかはこれから訪ねようと思いながら郁真は次いで聞こうとした、が、それを遮るように女性は「あ…!!」とほんの少しばかり声を上げた。
「ごめんなさい。これ以上はこの子から聞いて」
「え、いや……どういう事なのか、説明、を」
引き留めようとした所、女性は走り去っていった。まるで何かから逃れるように。追いかけられていたようにも見えたが時既に遅しである。
改めて手に持ったアクセサリを見つめる。
ネックレス型で、トパーズの宝石。
とはいえこれを自分がつけるのも恥ずかしい、手に持ったままもどうかと思ったのだろう。郁真はそれを何処かに入れられないかと再度スクールバッグに手をかけようとした。
この瞬間こそ、日常を覆す長い長い戦いの序章。