#2date scene1
「おーいあゆくーん?大丈夫ー?」
「あー、これは何というか・・・失恋でもしたか?」
翌日、僕は昨日のことで頭がいっぱいだった。目の前で誰かが手を振っていても全く反応出来ない。
「にゅ~・・・美紀にはお手上げだよぉ・・・」
手を振っていた生徒、『津室 美紀』がガクリと肩を落とす。
「授業には出ていたが公式の答えを聞かれて『フランス革命』と答えていた辺り、重症だろうな」
「現代文で文章題を当てられた時もどこか遠くを見て『3W』とか『2A』とか『ペリー』とか答えてたもんね・・・それが違うのは流石に美紀でもわかるよ」
全く頭に入ってこないが、何だかとんでもないことを言っていた気がする・・・
そんな状態なので
「ちょっといいですか?」
彼女が声を掛けてくるまで僕は放心状態だったのだが
「わああああああーっ!?」
「ひゃあっ!?何何何何なの!?」
唐突に現実に引き戻された僕の悲鳴に美紀まで驚いていた。
「・・・えーと・・・藤咲さんだよな?何か用かい?」
少し驚きはしたものの、あくまで冷静に鞘乃が菜月に話し掛ける。
「・・・あの・・・少し、彼を借りたいんですが・・・」
おずおずと申し出る菜月だが、その目が『5秒で返事をしろ』と暗に語っていた。
「ああ行く‼直ぐ行くからっ!!」
逆らってはいけないと頭が勝手に信号を送っている気がする。
「良かった。お待ちしてますね?」
にこりと微笑んで去っていく菜月。立ち振舞いだけを見ていると本当に清楚な美女なのだが・・・
「ってことでごめん!!僕行かないといけないから・・・それじゃあまた明日!!」
挨拶もそこそこに済ませると僕は彼女の後を追うことにした。
「あの二人いつの間に仲良くなってたんだろうね?」
「・・・仲・・・良かったか?」
校舎裏に着くと彼女は何も言わずに鮮やかな回し蹴りを食らわせる・・・
「ひっ!?」
直前で寸止めをしてきた。僕の首の右横で、彼女の足がピタッと止まっている。
「っちっ、6秒か・・・2秒で返事しなさいよね」
2秒でしたか・・・
「ぜっ・・・善処するっ・・・」
彼女は足を降ろすとやれやれと腰に手を当てる。
「それで?何の用だ?」
「・・・彼氏と彼女が揃ったらやることなんて決まってるじゃない?」
やること・・・?それってどんなことだ?
色々と思考を巡らせていると1つの結論に行き着く。
瞬間、僕は赤面し、それに気付いた彼女の肘が僕の鳩尾に容赦なくクリーンヒットした。
「っ!!!!!!!!!!?」
「思春期丸出しにしてんじゃねぇよっ!?てか飛躍し過ぎ!!デートよデートっ!!・・・その・・・そういうのはもう少し仲良くなってから・・・」
膝から崩れ落ちた僕は、彼女が言った言葉に我に返る。
「・・・え?それって・・・」
彼女もそれに気付いたようで・・・
「っ!?期待するなあーっ!!!!!」
瞬間、僕は彼女の素晴らしいおみ足で、宙を舞った。
10分後、お互い落ち着きを取り戻し、僕達は街の地味なカフェに居た。
それを言うのも僕が
「何処に行きたいんだ?」
と聞くと
「話せる所。なるべく地味目で」
とロマンの欠片もない言葉が彼女から返ってきたからだ。
僕達はカフェに着くと、隅っこの方の目立たない席に座り、彼女はメニューを見ずに『アイスココア』を頼んだ。
僕はメニューをパラパラとめくり、カフェオレを注文すると先程から気になっていたことを思いきって聞いてみる。
「で、このデートの目的は何なんだ?」
僕の問いに対して、彼女は真っ直ぐこちらを見つめてくる。はぐらかすつもりも無いらしい。
「・・・まあ、あなたとお茶してみるのも良いかなと思ったってのもあるけどね・・・本題は、昨日言ったこと」
やはりそうきたか。なら、先ずは相手の出方を伺うべきだ。そもそも、何を頼まれるのかもわかっていない。
「どちらにせよ従わなければいけないんだろ?ならもったいぶるなよ」
潔く受け入れる姿勢を取った僕に対し、彼女は怪訝そうな顔をするが話を進める。