ファジー編 21
水獣の変化は、すぐにあらわれた。
目から落ちていた砂が、止まった。そしてその奥から、植物の芽が生えてくる。最初は愛らしい双葉だったそれは蔓のように細くなり、丸く形を作っていく。そして眼球となり、空になった眼窩におさまっていく。
それはほんの一瞬のことで、あたしが単語ひとつ言い終わった後だった。水獣の身体は閃光を放つと、それをまともに浴びたあたしは残光に目が見えなくなった。
「……ミ、ルダ」
とっさに助けを求めたのはミルダで、宙に腕をさまよわせればしっかりと握ってくれる。かけよった足音は二人ぶんだけど、このたくましい手は、間違いなくミルダのものだった。
「目が……眩しくて見えない」
「大丈夫、すぐおさまる」
手の甲で目をぬぐわれ、あたしは自分が泣いていることを知った。ただそれは悲しみや苦しみのせいじゃない。閃光のせいでもない。涙の理由は、自分にもわからない。口に入っても、それはしょっぱくなかった。
「何が……起きたの?」
ようやく視界が戻り始めると、水獣と目が合う。そして顔をべろべろとなめてきた水獣は、先ほどの異常もなにもない、普通の水獣に戻っていた。
事態を把握できず呆然とするのはあたしだけじゃなくて、怪我がないかを確認するコードも眉間に深いしわを刻ませている。お父さんは間近で見た魔獣の出来事に嬉しそうに頬を上気させ、ミルダは顔から表情が消えていた。
「この子は、もう大丈夫なの?」
「……あぁ、もう元に戻ってる」
水獣の頭を撫で、ミルダは次第に表情を取り戻していく。額の汗を腕で拭いて、髪をぐしゃぐしゃと乱した。
「家に帰ろう。いつまでもここにいたんじゃ、村の人が来たとき驚かれる」
疲労困憊の身体で、ミルダは大丈夫だというのにあたしをおぶってくれた。
そして家につくまで、一言もしゃべらず、後ろをついてくる水獣たちばかりを見ていた。