ファジー編 16
突然のことにパニックをおこしかけるあたしの身体を、コードが支えてくれる。岸はすぐそこだというのに、足は底につかず、水を飲んだことでおぼれるという恐怖を感じた。
「何の真似だ!」
「こうすりゃ水獣が泉に入るんだよ。コード、魔術は使うなよ」
声を荒げるコードが、あたしを連れて泳ぐ。方向は岸ではなく、さらに深くなる泉の中央。ようやく落ち着いたあたしも、一緒になって泳いだ。
ミルダの言うとおり、水獣たちが泉に入ってきたからだ。
水獣たちはとても嬉しそうに、豪快に泉にダイブしてくる。もし岸の近くにいたら、水柱がかかって息をするのも困難だったろう。
「嫌いなものと好きなものが、そろって水の中にいる。嫌いなものは嫌いだけど、好きなものにはついていきたい。しかもそれが、身体を回復させる水の中。泉に入るのは当たり前だろ?」
ミルダが同意を求めるけど、あたしたちはそれに答える余裕がない。むしろ、激しい水音に彼の声も聞き取りづらかった。
いつまでこうしていればいいのだろう。訊きたくても、呼吸をするだけで口に水が入る。水獣は久しぶりの水にご満悦のようだけど、あたしはコードに支えられなければ水上に顔を出せなかった。
「この服は、あとでちゃんと届けてやるからな!」
ミルダがひときわ大きな声で叫ぶと、水獣たちが口々に遠吠えを始めた。群れの中にいるあたしたちは、耳が痛くなるほどの大音声と、急激に荒立った水面になんの抵抗もすることができなかった。
流れもなにもなくただ静寂を貫いていたはずの泉が、渦を巻いている。その渦に巻き込まれるのはあたしたちだけではなく、水獣たちもだった。
あまりの流れの強さに、あたしとコードの手が離れてしまう。一気に恐怖心が押し寄せるあたしとは逆に、水獣たちは実に楽しそうだった。
「ミルダっ……」
あたしはこのまま、溺れ死んでしまうのだろうか。すがるようにミルダを見ると、彼はあたしたちのことなど眼中にないようで、また一心不乱に研究書を読んでいた。
「ミルダ……」
あたしが水中に引き込まれる寸前に見たものは、太陽よりも眩しい閃光だった。