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ここあ  作者:
1章
6/8

5

 それは神木君が私の“特別”になった日から何ヶ月か経った時だった。

 相変わらずモテモテな彼に、それをガードするように両腕に絡みついている矢吹さん兄妹。そんな状態で彼に話しかけられる人はほとんど居なくて、私は遠くから眺めている日々だった。

 少し肌寒くなってきた季節で、温まるために飲み物を買いに行った帰りの廊下に彼が一人、壁に寄りかかっているのを見つけた。

 いつもの神木君と違ってその表情は疲れているようで、張り詰めている様にも感じた。

 このまま通り過ぎてしまおうか。いつものように逃げの思考でいながらも、きっとこんな機会はないと心の何処かで訴えていた。なにより元気がないように見える彼をそのままにして行きたくなかった。

 前は私が彼に勇気をもらったのだから今度は私が何かを返したかったのだ。

 自分に出来ることなど何もないのに。

 どうしようかと頭を動かすけれど何も思いつかず焦っていると手元にある温かな存在に気がついた。

 ―――頑張れ自分っと握り拳を作り、勇気を出して声をかける。

「か、神木君っ!」

 声が震えてしまった。頭も真っ白で熱が顔に集中するのが分かる。

 私の呼びかけに気がついた神木君が顔を上げて私を見た。緊張しすぎて私は彼の顔を見る事が出来なくて、少し下を向いて手にある物を差し出す。

「あのっこれココアなんだけど、どうぞ」

「え?」

 吃驚しているみたいで受け取ってもらえない。

 というか普通に考えても訳が分からないに決まっている。突然そんなことを言われて受けとれる人は果たしているのか疑問だ。

「あのっココアって癒し効果があるんだって、それにストレスにもいいらしくってねっ。それに今日寒いからこれ飲んだらきっと幸せになれちゃうかもだよ」

 緊張のあまり最後は訳の分からないことを言ってしまった。

 それに気づいたのか神木君が吹き出して笑った。

 恥ずかしくて顔が熟れたリンゴのようになっている。

 クスクスと笑いながら「ありがとう」と彼は受け取ってくれた。

「―――うん。温かくて幸せな気持ちになるね」

 何かをかみしめるように言ってほころんだ顔を見たら無性に泣きたくなった。

 あぁ、やっぱり私はこの人が大好きだ。

 嬉しくて、つい笑みがこぼれてしまった。泣くのを堪えた真っ赤な顔は相当不細工だったに違いない。

「そ、それじゃあ」

 恥ずかしくてこれ以上そこに居られなかった私は神木君の引き止める声を聞かずにそのまま走り去った。


 その日から少しずつ神木君から話しかけられるようになったけど(もちろん矢吹さん兄妹が居ない時に。というより居る時は二人が放さないので席に固定される)まさか神木君が覚えているとは思っていなかった。


****


「覚えてるよ。あの時自分では大丈夫だと思ってたけど、どこかで精神的に不安定だったんだ。けど梁取さんと話して、すごく落ち着けた」

 あの時からずっと気になってたんだと少し照れたように笑う。

「――っ、そんな事なら万里だって瞬ちゃんにしてあげるよ!?瞬ちゃんがそんなにココアが好きだなんて知らなかったもん!!」

 ふるふると神木君は頭を振った。

「違う。別にココアが好きだったわけじゃない。“あの時”“梁取さん”がくれたから…多分万里が“あの時”何かしてくれたとしてもこんなには心は動かされないよ」

 決定的な否定に、万里さんは何かを言おうとして噤み、ポロポロと涙をこぼした。

 その姿はひどく痛ましかったけれど、私が何かを言ってもかえって彼女を傷つけるだけだと分かって、何も出来なかった。

 そんな万里さんのもとに龍太君が近づき、肩に手を置いた。

「万里。とりあえずお前がバカだったのが悪いんだから謝れ」

 もちろん俺にも。と、どうやら先ほどのことに相当ご立腹らしい龍太君が少し怖い笑顔で万里さんを見る。

 その瞬間万里さんの涙が止まった。

「〜〜〜っ!!身長も矮小のくせに器まで矮小なわけ!?そんなんだから戦う前に瞬ちゃんに白旗上げんのよ!!ヘタレッ!!」

 ふん!!と力を込めて龍太君の足を蹴り、万里さんはすかさず倉庫から飛び出すと走って逃げた。あっかんべーと舌を出すのを忘れずに。

 「ぁ゛んのクソアマァッ!!」と痛みに悶絶していた龍太君は怒りの形相で万里さんの後を追っていった。

 しばし呆然としていると神木君がぽつりと言葉をもらす。

「龍太に上手く万里を逃がされた…まだ謝らせてないのに」

「え?」

「多分あれ、ワザと怒らせたと思う」

 そうだったんだ…あんなに喧嘩してたけど本当は仲がいいのかな。万里さんの涙も一瞬で止めちゃったし。

 そんな事を思いながら二人が消えた扉を見ていると少し落ち込んだ神木君の声がした。

「…梁取さん、俺のこと嫌になった?」

「えっ?」

「まさか万里がこんな事してるなんて知らなくて…って言い訳だよね…」

 苦笑いするように笑ったその顔がすごく悲しそうで、考える前に言葉が勝手にでてしまった。

「そっそんなことないよっ!!」

 自分でも吃驚するくらい大きな声だったものだから神木君も吃驚している。

 それに気がついてまた顔が赤くなる。

「…そんな風になんて思うはずがないよ…だって神木君は私にとって“特別”で“絶対”だもん」

 恥ずかしくて誤魔化すように笑ってしまった。

 正直吃驚の連続でそんな事を思う暇もなかった。

 だからそんな悲しそうにしないで欲しい。

 神木君が私を嫌になることはあっても、私から嫌いになることは無いのだから。

 話さなくなった神木君に不思議に思い仰ぎ見ようとすると、突然神木君に引き寄せられて気がつけば本日二度目の包容をされていた。

 例の如く心臓はバクバクで、どうしたのかと聞こうにも声が出てくれない。

「梁取さん…ありがとう…すごく嬉しい。…俺にとっても梁取さんは“特別”で“絶対”だよ」

 そう言ってさっきよりも強く抱きしめられて、泣きそうなくらい嬉しくて、おずおずと抱きしめ返した。

 やっぱりドキドキするのに安心する。

「梁取さん…」

 少し赤みがかった頬をした神木君が、ふわりと笑った。

 その顔が綺麗で、かっこよくて、目が離せず見つめていると、少し顔を傾けた神木君が近づいてきた。

 唇に柔らかな感触がして、でもゆっくりとソレは離れて。

 それが何なのか分かったら恥ずかしくて、目を下に向けた。

 そうしたら今度は優しく髪を梳きながら頭を支えられて、二度目のキス。

 さっきよりも少し長くて、緊張のあまり呼吸を止めていたらしい私は苦しくて神木君にすがりつく。

 それに気がついた神木君は顔を離し、さっきより赤くした頬で、私の大好きな笑顔を浮かべてくれた。

「ははは…ココアの味がする」

 言われた意味に気がついて今までで一番顔を赤らめてしまった。

 ――お昼にココア飲んでたもんね。

 そう、耳元で囁かれた私は沸騰してしまったのではないかというほど熱くなってしまったのは言うまでもない。


****


 余談ですが、龍太君が私を好きだという有り得ない噂が流れたのと、神木君が万里さんからココア攻めに遭ったのはそのすぐ後のこと…。



今まで読んで下さった方ありがとうございます。お気に入り登録も本当にありがとうございました。嬉しく、活力になりました。

拙い文章で申し訳ないです。

面白いって難しい。

日本語って難しい。

文章って難しい。

小説って難しい!!

RにしときながらRじゃない…R取り下げようかと考えましたが、キスはRなのか?と思いつつ(R-12くらいでしょうか?)そのままに…


続き書こうか考えましたが(神木君の嫉妬とか)矢吹兄妹があまりにでしゃばり主役二人の陰が薄くなりそうでやめました。(というよりすでに薄くて、主役二人の魅力ってなんぞよ?と本気で謎になってしまいました。)

しかもあまり山もなさそうで面白くないかと…多分オチくらいならあるのかなぁ…?

なのでお月様にもなりません。すみません。

とりあえず完結です。

本当にありがとうございました。



ちょっと言いたい事。


 万里にココア如きで惚れたと思われた瞬は相当軽く思われてますよね…

万里のセリフのせいであまり締まらないという…

活況のつもりなんですけどね? 

それだけです。

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