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「先生~!こっちです!!」
古典的だと言われようがこれしか案はなく、震えそうな声をなんとか堪えて叫んだ。(でも震えてしまった…)
もちろんこの時に最悪なことを想定して(嘘だと見破られて、私自身も捕まるというパターン)すぐ隠れられる場所を確保しながら。
その声に驚いて彼らは走って逃げていった。
ふぅー。作戦成功。心臓がバクバクとうるさいくらいに脈打ってる。でも彼らが戻ってくる前に龍太君を―――
「なにやってんだよ、あんた」
え?と頭上を見ると龍太君が上から怪訝な顔をしてのぞき込んでいた。
隠れられていると自信を持っていたのにバレバレだったらしい。
ヒヤリとしたがあの恐ろしい彼らは居ないのだから成功のハズ…だ。
「と、とりあえずあの人たちが戻ってくる前に、に、逃げよう」
と腰を上げようとしたが、ダメだった。 腰が抜けていたらしい。
さらに渋い顔をされる。
「あいつらは戻って来ねぇよ。そんな度胸ある奴らじゃねぇし」
そっそっか…。ならよかった。
ほぅと息を吐くと龍太君は理解できないといった顔をして訊いてくる。
「あんたさ…瞬の話を聞いた感じだと、こんな真似できるように思えなかったんだけど、なに?作ってたわけ?」
射抜かれそうな目に背筋が震える。
口の中がカラカラで声が上手く出なくて、頭を振った。
そして、何とか声を絞り出す。
「ち、違っ…だって龍太君は神木君の大切な人だから」
だから、こういう時に動けなかったら、絶対後で後悔すると思ったから。
神木君と出会って少しずつだけど自分で行動しようと思った。ヨシちゃんともそうやって仲良くなれた。
どさりと音がして隣を見ると龍太君が座っていた。
「あんた、変な奴だな」
「え?」
「冷静に考えてみれば、あんな震えた声、作ってる奴にしちゃ間抜けだしな…腰も抜けてるし」
ふ、震えてたのもバレてたんだ。
「なぁ、あんた。瞬のどこが好きなわけ?」
探られるような鋭い目で問いかけられて、緊張してしまう。
だって彼にとって大切な問いのはず。
「…神木君は気づいてくれたから…」
目が怖くて、俯いてしまった。
「は?」
「私、あまり周りから気づかれないみたいで、みんなで何かしようって言う時とか何も言えなくて、出来なくて…でも神木君は気づいてくれたの。それが私にとってすごく嬉しくて、特別なことだったの」
「ふ~ん。自分から動きもしないで…他力本願だな」
嘲るように言われた言葉はその通りで。分かっていても胸が痛い。
「…うん、そうなの…」
「はっ、認めるんだ。じゃあこれからも瞬におんぶだっこしてもらうっていうわけか!!」
怒鳴られるように言われた言葉に、頭を振って答えた。
「違う。だからこれからは自分で動いて行こうと思って…少しでも神木君に何かを返してあげたくて…まだなんにも出来てないけど…」
「…」
「きっと万里さんが彼女だったら神木君を幸せにしてあげられるんだろうけど、神木君がいいって言ってくれてる間は頑張りたいから」
「無理だよ」
「…え?」
「あいつは瞬君を幸せにできない。」
あいつって万里さんのこと?
「どうして…?あんなに大好きなのに…」
「万里は自分勝手だから、本当に瞬のことを考えてやれない。いつだって頼りっきりだ。そしたら瞬はきっと甘えられない。」
絶対にそれはさせない。と言った。
あまりに真剣なその顔になんと返して良いか分からなくて、俯いていたら龍太君がポツリと言葉をもらした。
「あんたに怒ったけど、あれ、本当は自分自身に対してに言ったようなもんなんだ」
「え…?」
「結局俺も瞬に頼りきってんだよ。…あいつのために何にもしてやれない」
さっきの奴らにも瞬を誤解させたままだしなと悔しそうに呟いた。
「…俺たちの親ろくでもねぇ奴らでさ…顔も見たくねぇし、家にも帰ってなかったんだ…そん時瞬に話しかけられて…瞬にとってはなんて事ないことかも知んないけど、俺はすっげぇ救われたんだ…多分万里もそうだから、あんなに執拗する」
そう話す龍太君はいつもの鋭さはなくて、すごく落ち着いていて、優しい顔にみえた。
「なんでその話を…?」
きっとあまり話したくないんじゃないかなって思う。
「たぶん…あんたも同じだと思ったから」
こちらをじっと見ながら龍太君は静かに言った。でもすごく胸にくる。
そう、きっと同じ。
誰かに訊かせたら「そんなことで」って笑われるかもしれない。
それでも私には、私たちにとっては、かけがえのない出来事で…大袈裟かもしれないけど、世界が変わったって言えちゃうくらいで。
「だから瞬が傷つくような相手だったら俺は容赦しない」
はっきりと、私を見て言った。
「俺はまだあんたを認めた訳じゃない。瞬とつき合えたからっていちゃつけると思うなよ」
うん。分かるよ。分かったよ。
彼がどれだけ、大切な人なのかって。
「うん。頑張る」
って言ったら何故かすごく顔を歪ませた。
「意味分かってんの?二人っきりになんてさせてやんないって言ってんだけど」
「うん。それは分かってるよ。彼女になったからって三人の邪魔はしないよ」
彼女になったからって、三人の関係の方がずっとずっと強い。それなのに後から出てきた私が神木君を独り占めするなんて出来ない。だから三人の中に居させてもらえてるこのこと自体がすごくありがたいことだと思う。
まずは二人に認めてもらえるようにしなくちゃ。
そう思っていったのに、付き合ってらんないとばかりに背を向けられた。
「別に助けなんていらなかったけど、腰抜ける思いしてまで頑張ったみたいだしお礼くらい言ってやるよ」
と言って歩いていってしまった。
一歩前進出来た気がして、嬉しくてその後ろ姿を見送った。
その姿を校舎から誰かが見ていたなんて気づくはずもなく…。




