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秘密を探る・7

 やがて韓明文が宮中側の通用門から、洪善道が表門から、それぞれ時刻をずらして、このスルギの邸にやって来た。更に日が落ちてすぐに判内侍府事もやってきた。私は先ほどの項目を示し、皆の意見を聞いた。


「主上殿下のお考えの通りではないでしょうか?」

 

 韓明文は即答した。洪善道はその項目を、じっと見つめたままだ。

 判内侍府事は非常に難しい顔をして、黙っている。


「判内侍府事、どうした」

「当時、沈家に押し入った賊だと名乗る者が、沈貴人様が中殿として入内なさってすぐに、私の邸にやって来たことが御座いました……」


 その後、かなり長い沈黙が有った。


「人払いをするか?」

「いえ……申し上げます」


 大きく息を吸ってから、絞り出すようにこう言った。


「自分は中殿として入内した方の実父にあたるかもしれない。自分の体にある炎を思わせる様な特別な形の痣が、その方にも有れば、自分との血のつながりの証になる。そのように申しました……私はそれ以上聞くに堪えませんでしたので、男を刺殺しました」


 男の言葉が真実でも虚偽でも王家のためにならないとの判断が、そうした行動をとらせたのは想像に難くない。


「して、その痣は男の体に認められたのか?」

「はい。右の太腿に確かに御座いました」


 沈貴人の左の太腿には奇妙な形の痣が有った。数えるほどしか見た記憶がないが、炎のような形の赤みがかった痣であったと思う。


「右議政の奥方は押し入った賊に凌辱され身籠った。右議政はそれを知っていたのだな。そして生まれた女の子を実子として育てて、入内させた……だが、その不幸のきっかけとなったのは……徳宣の言葉だと受け止められていた、と言った所なのだろか」


 だとすれば……徳宣は奥方に不幸をもたらした疫病神の様に扱われた可能性も有る。


「徳宣殿が以前、当時の中殿様、只今の貴人様は他の兄弟達と血のつながりが無いとか、余りにお気の毒だから事情の説明は出来ない、とか言いましたが、そうした訳が有ったのですか」


 韓明文は納得していた。だが、悲惨な真実に、やり切れないと言う表情になった。


「ですが、あの徳宣も今のようなスレカラシではなく、まだ幼い子供であった訳ですよね。刃物を突きつけられて脅迫されて、思わず本当の事を言ってしまった……ただ、それだけなのでしょうが……」


 スルギは暗い表情で、ため息をついた。


「でも、それが真実でも、生母が同じならば兄弟の血縁関係は有る筈じゃないですか」


 洪善道が言う。そこで、知宣は最初の正室腹で実父は王族である事、徳宣の母は正室と瓜二つの異母妹の妓生で、表向きは正室腹扱いになっている事、貴人は二番目の王族出身の正室腹で、武宣は最初の正室に仕えていた女が生んだもので、武宣の母を最近三度目の正室に直したこと、などなど、沈家のややこしい事情を韓明文が手際良く説明した。すると……奇妙な事に、洪善道の顔つきが心なしか険しくなったように思われた。



「ふむ。出生の秘密が関わって居るのかして、徳宣と貴人の間には今も相当な確執が有るのかもねえ」

 スルギも以前から、徳宣と貴人の関係に引っ掛かるものを感じていたのだろう。

「そうですね。徳宣殿は自分の子を孕んだ女を殺害したのは、貴人様の手の物だと信じているようです」


 そうか、韓明文はかなり徳宣とも近頃は話をするのであったな……


「徳宣の中のよそよそしい気持が『他の兄弟達と血のつながりが無い』発言になったものだろうか。こちらが何も知らぬうちから、わざわざそのような家の事情を打ち明けるとは……」

「王様……」

 洪善道は、顔が真っ青だった。

「お人払いを願います」

「どうした? 」


 いつも明るい彼にしては、実に奇妙だ。スルギも驚いたのだろう。


「では、私達は薬房の方におります。終わりましたら、洪殿が呼びに来て下さい」


 すぐに洪善道を残して、皆、居なくなった。

「何だ? 皆に聞かせたくない話とは」

「私の体にも、そのような……炎のような痣がございます」


「失礼いたします」と言う掛け声と共に、パジを勢いよく捲り上げ、左太腿の赤い痣を私に見せた。沈貴人が中殿であった頃に見たものと、非常に似ていた。


 洪善道は「御無礼いたしました」と言って衣文を整えてから、再び話し始めた。






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