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希望の光・18

 いよいよ殿試当日だ。領議政は判内侍府事から聞きかじったスルギは自分と『本貫が同じ』らしいと言う話を、早速後宮にまで乗り込んで、孫娘の昌嬪に御注進に及んでいる。判内侍府事の工作は良い所を突いているのだろう。


 本貫とは同一の先祖を頂き、始祖である偉大な先祖の故地とつながる人々の集まりで有り、その故地そのものでも有るが、その本貫はこの国では極めて重要視される。概ね地名と姓をあわせて、安東金氏とか慶州金氏とか言う具合に呼ぶのだが、同じ金姓でも本貫は二百以上に分かれ、「どこの金」であるかで、世の中万事、特に官吏の場合は運命が大きく分かれる。


 ちなみに中殿は一等功臣を多数輩出した青松沈氏との関わりが深く、一応王族に準じる格式だ。高名な学者を多数輩出した平山申氏の貴人や、祖父母の代にさかのぼっても全員が名門の嫡出子と言う密陽朴氏の淑儀も、本貫と実家の格式で位が定まった。

 最も位が低い徳水張氏の昭容は実家が二等功臣であり、裕福ではあるが、一門から出した状元も張季良一人きりだ。その一門から何人の状元を出したかも、一族全体にかかわる事柄なのだ。


 今の状態ならどの側室でも王子を産めば位が即座に上がるので、それぞれの女たちの実家は躍起になっているらしい。中殿も実家の勢力拡大を狙って見え透いてはいるが策謀を巡らせている。互いが互いの所に私が通っているのかもしれないと疑心暗鬼状態だ。あるいは後宮内に新しい王の女が出来たのではないかと探りを入れている所のようだ。判内侍府事は積極的に介入して、情報を攪乱させている。全く実体のない噂に踊らされる女たちは、哀れと言うか愚かと言うか、御苦労な話だ。今の後宮では毒薬やら呪詛の札やら人形やらがあちこちで見つかるらしい。肝心の私がスルギ以外の女と同衾しないのだから、後宮の騒ぎも虚しい限りだが。


 今回の殿試は後宮でも大きな話題になっている。


「ヨンス様、頑張ってください」

「ヨンス様が状元になられますように」


 まだ子供の内侍見習いや女官見習いが、一心に祈る姿を幾度か私も目にした。どうやらスルギに文字を教えてもらったり、掃除や水仕事を手伝ってもらったり、時には針仕事や料理を助けて貰った者たちらしい。


 薬を貰ったり針を打って貰ったりして世話になった者は言うに及ばす、何かと親切で明るいスルギは、後宮の身分が軽い者たちの間で絶大な人気を誇っている、と判内侍府事は言う。身分の有る者は家や本貫ごとに応援するべき受験者が決まっているので、表だった事は出来ないが、それでも影ながらスルギの成功を祈ると言う者も少なからず居るらしい。


 殿試は落第者は出さない習わしだが、順位が付き、その順位は一生ついて回る。

 試験問題は国王からの下問という形で出題され、それに対して朱線で罫を引いた特定の用紙に、しきたりを守った上奏文の形で論文を仕上げ、提出する。「臣対臣聞」と言う言葉で始まり、最後は必ず「臣謹対」で終える。最低でも千字以上が必要とされ、改行や敬語の使い方にもうるさい規則が有る。

 それを日没までに仕上げなければ、失格だ。過去に急病で失格した者が二名ばかり居るが、極めて珍しい。


 今回取り入れた不正防止の手段だが、まずは答案の受験生の名前を糊付けして隠し、王である私自身が選出した収賄に応ずる可能性が低いと思われる者たちに、それらの答案を筆写させる。筆写する事で、筆跡から誰の答案か推理する事も出来なくなるわけだ。これで収賄による情実をほぼ完全に封じる事が出来るだろう。

 通例とは異なり、私自身が筆写に立ちう事にしている。不正は絶対許さないという意思の表明でもある。

 筆写したものの方を隣室に持ち込み、七名の採点官が全員で全ての答案をそれぞれ採点する。採点には三日を要する。その間、内禁衛・兼司僕・羽林衛の王宮護衛の任務に当たる内三庁はもちろん内侍府監察部も加わって、日夜不届き者が答案のすり替え、部屋からの持ち出しなど不正行為を働かないように、採点を行う部屋の内外を厳重に護った。


 果たして採点の結果はどうなるのだろうか? 

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