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希望の光・16

 スルギは大繁盛していた幾つかの店の権利や持っていた土地などの一切を、あの林亮浩に譲ったらしい。スルギは詳細な出納簿をつけていて、私としてはただの小遣いとして渡したつもりの金銀に関しても、キッチリ何に使ったかがわかるようになっている。別に財産目録のようなものも有って、そちらは私や大妃様、大王大妃様から貰った宝石類や装身具、衣類などに関する一切を記帳してある。


「全部をこの西洋式の金庫に納めましたから、火事になっても大丈夫です」

 その金庫は何でも大の男十人がかりでないと動かせないと言う大きな鉄の箱だ。そこに西洋から輸入した複雑な構造の錠前を五個も取り付けてある。そしてその鍵は大妃様にお預けするのだと言う。朝、鍵をお預けし、夕方また受け取りに行く。これならば買収された女官が潜り込んで何かを盗み出すなど、したくても出来まい。

「小さな小箱なんかに貴重品を入れて居たら、何をどうされるかわかった物ではありませんから」

 まあ、この国では美しい小箱などに貴重な宝石類を入れ、部屋にしまい込む程度の用心が普通だ。機密の書類もせいぜい隠し引出に仕舞い込むか、敷物や布団の影にでも隠す程度だろう。だから女官や内侍にでも比較的たやすく盗み出せるのだ。

 実際に中殿と金昌嬪は互いに手の者を忍び込ませ、装身具などを盗ませている。そして互いに「毒を仕込まれた」だの「呪詛された」だのとやっている。そして装身具が犯行現場に落ちていたとか何とか、茶番も良いところだ。今は少し下火だが。

「事を表ざたになさらず十分に調べ上げ、将来廃妃なりなさる時のお役に立てた方が宜しゅう御座います」とは、判内侍府事の言いぐさだが一理ある。今までの所業だけでも沈中殿は廃妃の根拠は十分なほどだ。


 さてその林亮浩だが……


「懐妊したことも打ち明けてきました」

「そうか。何か言われたか」

「……泣かれてしまって……自分の迂闊さに腹が立ちました」


 スルギは真実、あの男を頼れる兄の様に思っていたのだろう。それがあの男の想いとどうずれていたのかは、想像に難くない。スルギはこれまで恐らくはすべての手紙類を私に見せてくれていたが、あの男とのやり取りは商売に関わる内容ばかりであった。ただ、その中にも親密さは感じられたが。


「私が林亮浩の立場なら、地面を打って大泣きしていただろう」

「護衛のムセンさんに『こうした場合、慰められるとかえって辛いものだと思いますが』って言われました」

「あの男、スルギを不幸にするなら例え王でも許さない、そんな事を私に直接言ってきたぐらいだからな……スルギを大切な友だと思っている。決して傷つけるつもりは無い、あの時はそんな返事をしたが……大ウソをついた事になるな」

 スルギは私をじっと見つめてから、小さなため息をついた。それからポツリと言った。

「皆、私が悪いのです」

「そうだな。スルギは賢いくせに、他人が自分に向ける好意には少し鈍い所がある。悪意や策謀はすぐに見抜くのにな」

「おっしゃる通りなのでしょうね。実は交易船を兄さんと共同で仕立てたいなどと思っていましたが、やめた方が良いですね」

 恐らく新しい商売の仕方を思いついて、それを形にしたかったのだろう。林亮浩の反応に驚いて、その話を出来ずに引き上げてきた。そんなところか。

「構わんぞ。私も資金を出そう。ああ、だが、しばらくそっとしておいてやった方が良かろう。スルギの殿試が終わった後ぐらいなら構わぬのではないかな」


 その頃になれば、あの男も現実を受け入れるだろうし、それに恐らくは斬新で興味深いであろうスルギの提案には魅かれるだろうし。


「それにしても船を仕立てたいとは、その交易でかなり儲かりそうなのか? あるいは何か珍しいものが欲しいのか?」

「ええ……新大陸の銀が……」


 そこまで言いさしたまま、スルギは私の腕の中で眠ってしまっていた。

 懐妊してからこのような事が時折ある。以前より疲れやすいのだろう。今日は色々あったようではあるし。安らかな寝顔を見て、私も幸せな気持ちになりながら、眠りについた。

 

 

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