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希望の光・11

 スルギは斯くの如く実の伯母君であられる大妃様と無事に感激の対面を果たした。その際祖母にも同席して貰い、そのこと自体はまことにめでたく、大妃様はもちろん祖母も大いに喜び感激もしたが、問題はその対面の直前に何者かがスルギを襲撃したという事だ。


 その時はスルギ自身のとっさの機転で屋根に上り、事なきを得た。曲者どもはどうやらスルギを布袋に詰めて空井戸に落とそうとしたらしい。力仕事をさせる大柄な四人の女官と提調尚宮の所の見習いが絡んでいるのは確実らしいから、そこから洗うしかないだろうが……。


「愛しい妹の忘れ形見なのですから、私にも何かさせて下さい。少なくともこの住まいには不逞の輩の仲間はいないと思いますし、訊ねて来る者も稀ですから」


 すでに不逞の輩にスルギが命を狙われているのが明らかな以上、何か抜本的な手立てを考えた方が良いという話になった。相談場所は一番訪問客が少なく、仕える者は古くからの忠義ものぞろいと言う大妃様の所が一番安全だろうという話になった。祖母の所は、朝廷の爺どもがかなり頻繁に顔を見せるし、私の自室が有る大殿テジョンは盗み聞きをする不届き者もいる。


 血筋やら相性やらに強いこだわりを持つ祖母は、国中で名高い占い師三名ほどに私とスルギの相性を鑑定させたらしい。


「大妃から三星姫のお生まれになった日付と時刻を伺って、四柱サジュを見させました。三名とも一致した結果ですが、主上チュサンとの相性はまさに最上です。互いが互いに力を与え、いかなる難局も切り開くそうな。誠に、誠に感じ入りました。まさに国難のこの時期、御先祖様からのお助けがあったとしか思えません」


「今の中殿を冊立する前に、お会いしたかった」という祖母の言葉は尤もだが、そうそう愚痴を言っても仕方がない。沈家の力は相変わらず強大だし、今は小康状態だが後宮の女同士の争いも厄介だ。スルギが懐妊したことを知る何者かが命を狙っているのだが、それを突き止める以前に攻撃される可能性が高い。


「三星にいっそ、表での位と官職を与えられてはいかがでしょうか?」


 大妃様がこんなふうにおっしゃった。それはかねてからの私の考えと一致したので、ご賛同申し上げると、祖母も最初は面食らっていたが、科挙で良い成績が見込めるなら、良いかもしれないと同意してくれた。スルギの高貴な血筋なら科挙など抜きで直ちに王族の中でも最上級の身分となるわけだが、今は公にできない。


「非凡な知恵で夫を支え多くの者を救う、そう言う星をお持ちだそうだから、良いかもしれぬ」


 祖母は占い師の言葉に昔から弱いのだ。


「私は早速、ハリを打ってもらいましたが、肩の凝りが嘘の様に軽くなりました。医師としての腕もなかなかのようですね」

「そうですか。今受け持ちの医女は今一つですから、私もお願いしたいものです」

「大王大妃様の御用なら、心して務めねばなりませんね」


 こんなやり取りが有って以降、スルギは毎日ご機嫌伺い方々、祖母と大妃様のお体についての御相談も承るようになった。スルギがお二方の住まいに通うようになって「単なる無位の内侍見習い」から、「高貴な方々のお気に入り」という具合に周囲の見る目が変わる。それがスルギの身を守る上での力にもなると期待しているが、それだけでは心許ない。やはり、しかるべき官位官職が欲しい所だ。


 表での役職を与える前に科挙を受けさせようと言う計画は、スルギの言う「チート的な学力」ならば合格は保証されたようなものだと思う。ちなみにスルギはこの世界に転生するにあたって「超低周波から、超音波、五キロ先のネズミの足音も聞こえるレベル」の聴力、「四キロ先の物体もミジンコの手足も正確に見分け、夜も昼並み」の視力、犬の二倍鋭い嗅覚、さらに人としては最も鋭い味覚と触覚、「オリンピックの全種目でメダルが狙える」運動能力、「殺されかけても十回までは助かる」運の強さ、更に「前世の五割増しの知恵と勇気」が与えられたのだと言う。キロ・レベル・オリンピック・メダル……初めて聞く言葉では無い。私にも当たり前のように意味が分かるのだった。それにしても……闇夜も見抜く眼力と、鋭い聴覚の事は知っていたが、よもやそのような神のごとき存在との取り決めがあったとは……私は王として生まれただけで、すべてが平凡な人間の状態のままだ。だが、王位にあればスルギの力にはなれる。スルギを補佐し助けるのが私に与えられた役割なのかもしれない。

 スルギに大いに活躍してもらうためにも、科挙に良い成績で合格してほしいものだ。


「科挙などせいぜい春秋でも左氏伝しか出ないぞ。公羊伝もまず出ないし、穀梁伝に至ってはさっぱりだ。四書五経の範囲で十分だし、後は韻を指定しての詩作だな」

「詩作ですか、本当は出来ないんです。少々インチキしても良いでしょうか」


 どうやら異世界のすぐれた詩を書き写してしまうらしい。この世界で知られていない詩なら一向に構わないと言うと、ほっとしたらしい。


「この世界の者が知らない優れた詩を、スルギが紹介するのだと思えば良い。確かに名を借りるのは気が咎めるだろうが、この際科挙に合格して、朝廷での確固とした身分を得る事が子供を守るためにも大事だ。スルギなら、きっと朝廷の中に自分で多くの味方を作る事が出来る、そう期待もしているのだ」


 そもそも今、真剣に調べている隠田の件も、教えてくれたのはスルギだ。

 スルギが科挙に合格すれば、朝廷の改革にも大きな助けになるだろう。

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