リビング
恭輔からもらった紙袋を一旦部屋に置いて来た千晴はリビングの入り口で迷った。
誠治が二つあるうちの一人掛けの椅子に座っている。
その向かいの3人掛けの椅子に恭輔が座っている。
当然千晴は誠治の隣りの一人掛けの椅子に座ることになるのだろうが、藍より先に座っていてもいいのだろうか?
こういうときって何か作法があるのだろうか?
そうだ!こんな時は藍ではなく千晴の方がお茶の支度をして藍には先に座ってもらい最後にお茶を持って行けばいいのだと気がついた。
「藍ちゃん」私がやるよ。そう言いかけたとき、藍がそれを遮るように言った。
「千晴は座って待ってて」
???
仕方なく千晴リビングへ行き、誠治の隣りの椅子に腰かけた。恭輔が千晴を見ていたようで目が合ってしまった。恭輔にしては珍しく微笑んでくれたのだが、返ってそれが照れくさく。
「えへへ・・」と笑ってごまかしてしまった。
「千晴、さっきの紙袋は?」
唐突に恭輔が聞いてきた。
「えっ、あっ、部屋に置いてきたけど」
「まだ見てないの?」
「・・うん・・・」
「そう・・・」恭輔の表情が曇った。千晴の胸がズキンと痛んだ。
「は、早めに空けた方がいいのかな?もしかして冷蔵庫に入た方がいい?」
キャンディーだと思っていたけど、溶けやすいチョコレートだったのかな?いや、そうならば「すぐに食べないなら冷蔵庫に入れておけ」と恭輔は絶対に言うだろう。千晴はどうしたらいいのか困ってしまった。
恭輔の方は「プッ」と吹き出して「いや、後で、でもいい」と、笑いを堪えるように片手で口を抑えながら言った。
誠治はそんな二人のやり取りを静かに見ていた。
「なんで千晴がそこに座っているのよ~」
「え?」
コーヒーと紅茶のセットをお盆に載せて来た藍が、上から千晴にダメ出しをしてきた。
ではいったいどこに座ればいいのだ?
目を泳がせていると藍が「フン」と音を出しそうな勢いで顎を向かいのソファーへ向けた。
こんなに綺麗なのに動作の一つ一つが美女らしくなくて、千晴は残念に思うこともある。でもそれが藍らしさなのだということも理解している。
きっと恭ちゃんも・・・・
しかし、なんで私が恭ちゃんの隣り?お父さんも異論がないみたいだし。
仕方なく、でも恭輔の隣りなんて嬉しくて千晴は藍に支持された側へ移動した。すると、お茶をテーブルに並び終えた藍が先ほどまで千晴が座っていた席に着いてニコニコしている。
でもやっぱりこれ、おかしくない???