荷造り
制服、鞄、辞書、それから・・・・と
千晴は昼間片付けていた自分の部屋で恭輔のマンションへ急ぎ持って行くものを広げていた。
進級するのだから1年生の時の教科書は今日じゃなくてもいい。
あと急ぐものと言えば着替え、と思ったところではたと気づく。
タンスの中身全部を今日というわけにはいかないから・・・
さて、どうしよう。
「あっちに洗濯機だってあるんだから2~3日分の着替えとパジャマくらいでいいでしょ。」
部屋の入り口で千晴の心の声を聞いた藍が答えてくれた。
さすが藍ちゃん。
そうだそうしよう。
千晴はお気に入りで組み合わせが何通りかに出来そうなトップとボトムをメインに靴下などの小物をあわせて選んだ。
「金曜日は学校が終わったらこっちに帰って来なさい。引っ越しは業者が荷づくりもしてくれるみたいだから持って行かないものだけ片付ければいいでしょ。」
朗々と話す藍の姿に「なんだか段取り良過ぎだよ。」とちょっと不満の声をあげた。
「だいたいなんでうちの学校に秘密に結婚してた人がいるって知ったの?」
「ん、企業秘密・・・」
いつの間にか千晴の隣りに座っていた藍が人差し指を唇に当ててほほ笑んだ。
この笑顔に何人の男の人が悩殺されたんだろう。
でも恭ちゃんは悩殺されなかったんだ。
ん、藍ちゃんて恭ちゃんにこういう表情みせたことあるのかな?
確かに千晴が今通っている秀明館高校は藍が見つけてきた。
千晴は本当は藍と恭輔の母校清陵高校に行きたかったのだが、千晴の成績では夢のまた夢だった。
美里が清陵高校まで続く桜並木がお気に入りで、秀明館は長い坂を登った高台にあるがその坂道に桜並木があり、それを美里に入学式で見せたいと千晴頑張っていた。
「秀明館を知った時にね。もし受かればやっぱり千晴は高校生のうちに恭輔と結婚出来る運命なのかな~とか考えてた。で、落ちたらなしだなって。」
う、受かってて良かったー。
藍を見ると天井を見ているわけでもないが上を向いて何か考えているような表情をしていた。
「藍ちゃん・・・」
「帰ってきて、いいんだよ。」
藍は決意を表すように言い切った。
「ここは千晴の家だから、恭輔とケンカして行くと来ないから、とかじゃなくて近くに来たからとかそういうんじゃなくて、ただ会いたくなったとか、そんなんで、」
藍が泣いてしまう。千晴の胸が苦しくなった。
「帰ってきていいんだよ。」
「―――――――――うん」