表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ヒマリは陛下(竜)を手懐けたい

作者: あき

 十八になった朝、ヒマリは思い出した。

 かつて村井日葵だったこと。

 前世で医師として働き、主に国外の過疎地を巡る医師団に所属していたこと。最後は紛争地帯の銃弾に倒れたが、日葵は数多くの人々を助け、生まれてから死ぬまで善行を尽くした。


 だからその死後、幼い頃によく通ったスーパーのレジ打ちのおばちゃんによく似た神様が言ってくれたのだ。何でも好きそうな感じに生まれ変わらせてあげるよ、と。

「何でも、ってどれくらい何でも?」

「まぁ、大体何でもだね。だけど同じ世界は無理なんだ」

「日本はダメってことですか?」

「いや、あんたの場合は世界中滞在したからね。異世界になるわ」

「異世界!?」

 何かおとぎ話みたいに憧れていた世界はなかったのかい、と問われて日葵は昔むかしに観た映画を思い出した。

「ファルコンに乗ってみたい」

 遊園地じゃなくて。

 ずっと思っていた。たくさん青い目の付いたダンゴムシに愛される少女を見た時も羨ましかった。巨大な生き物と通じ合える世界。取り分け竜の背に乗って空を飛べたら楽しそう。緑豊かなジャングルで、広大な草原で、何度も空想した世界だ。

「なるほど。ちょっと違うかもしれないが、竜使いに生まれ変わるなんてどうだい? 長い竜じゃなくて丸い方の竜だよ。今ちょうど募集してる世界がある。行ってくれたら助かるよ」

「え~っ! 何それ、素敵ですね! じゃあそれでお願いします」

 他には何かあるかと聞かれたが、日葵は無いと答えた。

「そうだった、あんたは欲のない子だったね。スーパーでも安売りのお菓子ばっかり選んでた」

「あれ、本当にスーパーのおばちゃんなの?」

 おばちゃんは意味深に笑う。

「よっしゃ、オプションも付けといてやろ。たまには我儘も言うんだよ。じゃあお買い上げ誠にありがとうございました!」

 チン! と音を立てて古い手打ちレジスターの銭入れが開く。



 目が覚めたら簡素なベッドの上だった。



「おはようヒマリ! お誕生日おめでとう!」

「ありがと、お母さん。十八になったよ」

 いつも通りに目が覚めて、いつも通り一階に降りて台所に向かう。母も父も、一人娘の誕生日が祝える時を今か今かと待ってくれていた。

 今日はヒマリ・センティノの十八回目の誕生日。誰も知らないが、ヒマリが日葵として目を覚ました一回目の誕生日でもある。

「おはようヒマリ。良い天気で良かったなぁ! 今日は夜にお前の好きなアップルパイを買って帰って来るよ」

「ありがとう、お父さん! 私も冒険者登録をしたら買い物をして早めに帰ってくるね!」

 突然の宣言に、父と母は「えっ」という顔でヒマリを見た。


 ヒマリは十八になったが、小柄で成人には見えない。ただの一般的な街の小娘で、この世界の冒険者に分類されるべき人間ではなかった。申し訳ないが勇者とも程遠い。登録できる年齢には達したが、父は狼狽する。

「ヒマリ? どうした、冒険者に登録しても危ないだけだろう」

 母も狼狽する。娘の取り柄は心身の丈夫さのみ。

「そうよ、仕事はどうするの? 花屋さんの仕事があるでしょう」

「花屋は辞めます」

 え~っ!? と声を上げられても、記憶が戻ったヒマリには影響はない。一ミリもない。だって花屋で働いていても竜には会えないからだ。


 十八年間、ただのヒマリとして生きてきて、竜について知っていることがある。

 ひとつ、この国に竜はいないと言われている。

 ふたつ、竜には巣がある。

 みっつ、竜に会える人間はそういない。街中に竜は現れない。

 つまり安穏として暮らしてしまえば、竜に会えないまま無駄死ぬ。それは困る。せっかく竜使いになったのに。誰に教えられていないのに、竜に会ったらどうすればいいのかなんてヒマリはとっくに知っていた。身体に刷り込まれたスキルが吠える。


 早く竜を操りてぇ!


 なでなでしたくて仕方ない。いつどのタイミングでどこを撫でれば喜ぶのかまで知っているのだ。ハァハァさせてやる自信しかなかった。だから居ても立っても居られなくて、父の顔を見た瞬間に決めた。つまりさっき。今日は冒険者センターで登録をして、装備を買う。山頂にある竜の巣に行くのだ。

 花屋の給料を握りしめ、ヒマリはその日、冒険者登録をした。

「お嬢ちゃん、大人しか登録できないんだよ」

「今日で十八になりました。身分証です」

「えっ……本当だ。だけど冒険者になれるスキルに何もチェックが入ってないぞ?」

 剣士や魔導士、神父や回復士など役割的なスキル欄があったが、そこに竜使いがない。

「そこにはチェックできるスキルはありませんでした」

 しょんぼりして言うと慰められた。

「うーん、まぁ、冒険する内に目覚めることもあるが……だけど危ない募集には応募しない方が良い。人数が多いイベントにしておきな。怪我したり、最悪死ぬことだってある」

「あの、竜の巣がある山はどこですか」

「南はチッコモ山とクリッター山だよ。そうだな、竜は出ないが魔物がいる。お嬢ちゃんは行かない方が良いだろう」

 男はヒマリがビビッて聞いたと勘違いしていたが、そうではない。逆である。ヒマリは礼を言って登録を終え、冒険者センター横の冒険者ショップで装備を揃え、その日から毎日チッコモ山かクリッター山での冒険者募集イベントを探しに掲示板に張り付くようになった。


 ◇


 三年の月日が流れた。

「今日も竜はいなかった……」

 トボトボと山からの帰路を行く。

 十日間を共に過ごしたパーティーメンバーは「また言ってるよ」と笑う。数人は前にもパーティーで一緒になったことがあるのだ。

「ヒマリの竜好きにも困ったもんだな」

「この国にはいないだろ。聞いたことないよ、竜が出たなんて。先代竜がいたのは五十年くらい前の話だ。それも噂だろ?」


 竜使いが操れる竜は、基本的に自国で生まれた竜に限る。

 他国の竜も操れないことはないのだが、自国の竜ならよく懐き、相思相愛の関係を築くことが出来た。竜は言葉を持たないのだが、自国の言葉なら理解ができ、その他にも地理や気候など様々共有できるものがあるのだ。また竜の力は凄まじく、他国の竜まで操れば力の均衡が壊れる為、調伏は禁忌とされた。侵略を目的に他国の竜を配下に置けば、その瞬間に竜使いとしてのスキルは身体から失われる。

 ヒマリの生まれた国、クメルドには勇者の男が言った通り、もう半世紀近く竜の目撃がない。竜とはこの世界における生態系の頂点で、その存在が他の魔物を圧倒してくれる。だから竜のいる国はその取扱いさえ間違えなければ瘴気も薄く、魔物もほとんど出なくなった。クメルドはその点、長らく竜の留守が続いて魔物に手を焼いていた。加えて悪政が続き、民は疲弊している。


 なぜこうも竜がいないのか。

 竜の生態は分かっておらず、寿命も食事の内容も、どうやって子が生まれるのかも謎だらけで、特に手立てがなかった。


 だけどヒマリには分かっていた。自分が生まれたからには、必ずこの国に竜はいる。いなければこの転生に意味がない。スーパーのおばちゃんは嘘なんかついていなかった。

 遠目でもいい、一目で良いから会いたい。どんな形であれ目を合わせることさえ出来れば、それで繋がることが出来る。


 記憶を取り戻してから三年、山々にある竜の巣の場所を覚え、パーティーの端っこに潜り込んでは巣の周辺を探索する日々を続けた。今このクメルドという国は天敵である竜の不在により魔物が増えてしまっている。特に山には魔物を生む瘴気も多く、冒険センターから出される仕事のほとんどがこの駆除だった。

 暇があれば巣を見に行くヒマリは『竜なんかいるわけない』と馬鹿にされていた。しかも万が一竜がいれば殺されるだけだ。いくら危ないと言っても聞かない小娘に冒険者たちは業を煮やした。

 だけど確かに冒険者スキルを持たない小娘だったが、前世で培った医師としての技術は折り紙付きだ。パーティーが一度冒険に出ればあちこち小物と戦ったりして、回復士ひとりでカバーはきつい。後方でヒマリが的確な処置を披露すると見る目が変わるようになった。その内、回復魔法も使えぬ癖に同行している(変な)医師、くらいの認識で『巣のある山行くぞ』とパーティーに声をかけてもらえるようにもなった。

 街で医者をやった方が良いのでは、と度々勧められもするが、竜が見てみたいからの一点張りで自由時間には探索を繰り返す。そんな暮らしが三年続いた。いつ行っても、竜の巣は空っぽだったが。


 巣は長らく使われた形跡がない。

 竜は頭が良く、清潔好きである。どこも巨大な穴倉には積年の汚れが見られた。


「はぁ~、これ以上どこを探せば良いのやら」

 ヒマリはメンバーと下山しながら頭を悩ませる。

 巣があるという山は全て訪れた。父と母は娘の気が狂ったと慄く程、全振りで竜探しに費やした。なのに隠れているどころか生きている証拠ひとつ見つからない。

 竜使いは竜がいないと淋しい生き物なのだ。

 竜だって同様に違いないのに、大きな身体でどこに隠れているのだろう。

 ヒマリは早く竜と遊びたいのだ。その背に乗って駆けまわり、餌を食べさせて身体中撫で回し、夜には一緒に眠る。あとは井上さん家のタロみたいにお手、おかわり、おすわり、チンチンのコマンドを教え込み、「バキュン」と言えば腹を見せるようにも躾けたい。


 だがいくら夢に見ても気配すら見つからない。さすがに慣れない冒険に身を投じた丸三年が経つと疲れて来た頃だった。

「ヒマリちゃん、これからどうすんの? 俺とジャスミンは王都に帰るけど」

 勇者のクロスが尋ねてくれる。

「またどっか、竜の巣のある山のイベント?」

「う~ん……正直、ちょっと詰んでるんだよね」

「詰んでるも何も、竜いないからさ。そろそろまともに生きたらどう。俺が嫁に貰ってやろうか」

 痛々しい目でクロスが見て来る。多少イラっとしながら、だけどヒマリも考えた。別のイベントを探すのには心が萎えているが、家に帰っても仕方がない。実家とは足の抜けない沼でもあった。

 ニンマリした魔導士のジャスミンが近寄って来る。ジャスミンは年が近く、よく話をする仲だった。

「ちょっと気晴らししたら、良い案が浮かぶかもよ? 建国祭に行くつもりだしさ、ヒマリもたまにはパーッと飲もうよぉ」

「あー、そんなんやってるんだっけ。建国祭って飲めるの?」

 建国祭とはその名の通りクメルド建国を祝う三年に一度の慶事イベントである。クメルド姓を持つ王族が祝いを振舞う一週間は来週だった。

「行ったことない? 城の周りとか大通りとか仕事しないで皆がお祭り騒ぎってか、お祭り。普段は高いけど、祭の間は安くて美味しいものいっぱい食べられるし楽しいんだ」

「王都って行ったことないや……あ、王都って冒険者センターの本部があるんだっけ? そこでもう一度竜の巣のこと聞こうかな」

 やっぱ竜かよ、と笑われたが、そうだ国立図書館で調べ物もしてみようとやる気を取り戻し、ヒマリは初めて王都へ向かった。


 ◇


 本部への問い合わせでも目新しい情報は無く、国立図書館の文献にいたってはヒマリの知識を下回った。クメルド国内に竜に関する書物は少なく、そのほぼ全てが都市伝説的な内容である。これまで竜使いが絶対にいたはずなのだが、何も残されてはいなかった。ヒマリに備わっているデフォルトの竜知識はキリがないくらいにあるのだが、脳から門外不出になっており、それを紙に書くことも口に出すことも出来ぬ。恐らくそういう仕組みなんだろう、程度にヒマリは承知している。

 同じように魔物についてもその生態は謎だった。瘴気から生まれ、人を襲い、たまに精神を乗っ取り、食べるとマズイ、皮は硬い、くらいしかない。

 それでも国立図書館ならばと期待したのだが、こちらも結局空振りだった。


「おー、ヒマリちゃん飲むねー!」

「飲まないとやってられないし!! 竜が、欲しい!! 欲しいよう!!」

「ははは。ぬいぐるみかって。もう飲め飲め、飲んで忘れろ」

 通りに並べられたテーブルセットに腰かけて、買って来た料理を並べて飲んだ。ジャスミンとクロスがじゃんじゃん酒を注いでくる。

「忘れられるわけないじゃない。私は竜のために生きているんだからぁ」

「お嬢ちゃん、竜が欲しいのかい? あそこの屋台で売ってるよ」

 急に知らないオヤジが声をかけてきた。

「え!?」

 指差す先には『ドラゴン饅頭』の幟である。きーっと怒ると笑いながら通行人のオヤジが去って行く。ドラゴン饅頭なんてありふれた名ばかりのぼったくり饅頭だ。

「だけど建国祭でもあんな饅頭の出店なんて、相変わらずしょぼいよね」

 面白くないヒマリが文句を垂れると、隣のクロスも首肯する。実際、祭の雰囲気はあっても内容は村の祭とそう変わりない。酒の種類が多め、くらいだ。

「まーな。しゃーないよ。クメルドが景気良かったのはうんと昔の話だ。もう今はあのクソ国王が」

「こらこら、建国祭で君たちそんな話はよしなさいよ」

 慌ててジャスミンが止めに入ると、クロスは白けた顔になる。


 控えめに言って、クメルドの住み心地は最低である。

 こと最大人口を占める庶民においてその生きにくさは顕著で、働いても働いても賃金が上がらず、貯蓄が出来ず、金持ちなんて夢のまた夢。どこの職場でも役職は頭打ち、勉強が出来た所で出世も望めず、生まれた時から下っ端と決定している人生だった。まず農家の収穫が魔物によって潰されまくる災害が原因の半分以上を占める。あとは一握りの貴族が富の八割を牛耳っていて、彼らの専横でこの国は回っていた。

 多少スキルがあり、腕に覚えがある場合、冒険者になれば一攫千金が狙える。だから勇者であるクロスのように成金を目指す輩は後を絶たない。それでも思うように報酬の良い魔物にエンカウント出来るかは運次第だった。


 そんなクメルドのカースト頂点に立つ先代国王は無能を極めた暗君で、貴族の言いなりに終わった。

 現国王バルトルトはもっと酷い。暴君、悪王、魔王、悪辣王と汚名を欲しいままにしている酷い王なのである。碌に議場に現れず、気に入らない臣下は有無を言わさず斬首か更迭、戦好きで国境付近に侵攻などがあれば嬉々として飛んでいく。その行程で魔物すら屠ると言われていた。贅沢三昧は当たり前、城には次々とコックが入れ替わり、気に入らない料理を提供した者にはナイフが返って来る……など噂は絶えない。全く内政にも目を向けないので、相変わらず貴族たちがこの国を欲しいままにしていた。


「今更俺ひとりが悪く言ったって役人ごときが捕まえになんか来ねーだろ」

 クロスは勢いよくビールを呷る。

「俺の妹は重い病気だ。回復士には治せない、次から次へと汚れていく血液の病気なんだ。良い医者にかからせてやりたいが、いくらバカ高い医療費を用意できたって貴族の一筆がなけりゃ大きな病院で受け付けてすら貰えない。こんな話があってたまるかよ。命がかかってるんだぞ……」

 勇者として成功すると、一定の条件をクリアすれば自宅の建つ領地を治める貴族から褒美を貰える習わしがある。クロスはこの褒美を紹介状にするんだと、必死で冒険をクリアしているところだった。

 それは恨みにも思うだろうとヒマリは気の毒に思う。ヒマリ自身は外科医師なので血液由来のこちらの病気には明るくなかった。

「私も医師なのに、良い治療が提案できなくてごめんなさい」

 しょんぼりすると、クロスはハッとして慌てた。

「ごめん、ごめん! せっかくの気晴らしだったのに。さー、飲もうぜ!! ヒマリは酒弱いんだから、もう少し食えよ」

 しばらくすると、街中いたるところにあるテーブルからちらほらと同じ方向に向かって行く人々がいることに気が付いた。

「どうしたんだろ」

 不思議に思って見ていると、ジャスミンが教えてくれる。

「ああ、今日はお祭りの初日だから、開催の宣言があるのよ。国王が広場まで出て来るの。皆それを見に行くんじゃない」

「ふぅん」

「ヒマリちゃんて王都は初めてなんでしょう? せっかくだし、見て来たら。嫌われ者の顔知っておくのも勉強だよ」

「見たってイラつくだけだっ、あんな奴!!」

 クロスは叫ぶが、ジャスミンはまだ特別な恨みはないとばかりにあっけらかんとしている。

「顔は結構渋くて良いよ」

 現王は暴君と言われるだけあって柔和とは程遠い厳つさであったが、代々美姫を取り込んで来た王族ならでは、悪くはない。

「じゃー、ちょっと見て来る。まだいるよね?」

「いるよぉ。見たらまた戻っておいで~」


 ちょこちょこと大通りを人波に乗り、王城前の大広場へとやってきた。

 近づいていくと、魔道具の拡声器から棒読みでつまらない話が流れていた。ヒマリは笑いそうになる。これは絶対に王様じゃない人が何かを読んでいるものを垂れ流しているだけだろう。なんてやる気がないのだ。

 人気の無さを示すかのように、大して人は集まっていなかった。小さなヒマリは人垣をするすると縫って、前の方まで移動した。旅装で少年の恰好と同等なので、行儀悪く動いたってなんてことはない。知らないオヤジと知らないオヤジの間にぴょこんと顔を出す。


 広場と王城は鉄柵で仕切られて、居並ぶ近衛の先、王城前のエントランスに一人の男が立っているのが見えた。さぁ、いよいよである。


 ばちん! と音が鳴るように、群衆をただ見ていた王と、ヒマリの視線が繋がった。


 ヒマリはハッと息を吸い込んだ。


「………あ、あ!?!?!?!?」


 その姿を見た瞬間、心臓が震えた。

 ファンファーレが身体中を駆け巡る。


 竜が、いたぁぁぁぁぁぁっ!!


 あちらもこちらを凝視しているのがわかる。ついでに隣のオヤジたちも。

 まさか、竜が人の形をとっていたとは!! しかもどうやら不完全な様子だった。

「なるほど、なるほど! 人で生まれたのね。しかもまだ成形出来ていないんだ」

 これは大変。遊べないじゃないか。

 ヒマリはブツブツと呟き、じーーーーっと見つめた後でその場を走り離れた。


 ◇


 バルトルトは混乱していた。

 どうしてか、群衆の中にいる一人の女から目を離すことが出来ない。まるで目の奥を掴まれたみたいに視線が固定されて動かせなかった。

 なんだ? どうなっている、あいつはなんだ、誰なんだ!?


 姿を見た瞬間から心臓が絞られた。息が浅くなる。

 頭がおかしくなった。突然嬉しくて嬉しくて、震えがくる歓喜に叫び出しそうになる。

 やめろやめてくれ気持ちが悪い! 俺はそういう嬉しいとか悲しいとかの人間じゃない。自分にあるのは生まれてから今日まで激しい苛立ちだけで、日々はその発散の為だけにあるのだ。

 何とか視線から逃れようと理性でもって首をねじろうとした。頸椎が折れるかもしれない痛みで頭が割れそうになる。だけど出来ない! 強引に目を支配されていた。喉が音をたてるくらいに唾を飲みこんで抗うが、瞬きひとつ目が動かない。

「ぐぅ……!」


 あわや限界、と思われた瞬間、すっと視線が消失した。

 何やら奇妙に動いた後で荒い息を吐く主人を心配して、側近のバーガスが近寄って来る。

「どうされましたか」

「……はぁ……はぁ……はぁ……」

 バルトルトは震える手を隠そうとしたが、失敗して狼狽えた。額にも汗がにじむ。

「陛下っ、どうされました!? 休憩だ、休憩の準備を!!」

 バーガスはいつにない彼の主人の様子に冷や汗をかく。現王はいつも不機嫌で怒りをまき散らしながら呼吸をする生き物だ。間違っても震えたり狼狽えて視線を彷徨わせるような無様を晒したりはしない。なのに今はどうしたことだ。


 正装の首元を緩め、冷たい水を献上して事情を窺った。

「小さい女だ……最前列にいた、少年のような恰好をした女を連れてこい」

「! なんと間諜の類でございましたか!?」

「いや、いや……そうではない……はぁ……決して手荒には扱うな。まだ何者かはわからない」

「分からぬ……けれど捕まえる、のですね?」

 めちゃくちゃ好みの女だったのか? 側近はまた別の意味で驚く。この主人は全く女に興味がなかったはずだ。

「捕まえるわけじゃない。良いから四の五の言わずに連れてこいっ!!」

「は……はっ!!」

 いつも通り突然ぶちぎれた主人の勢いに安堵して、バーガスが走り去った。だが暫くして戻ってきた彼は手ぶらである。

「陛下の仰っているような女性は見当たりませんでした。一応まだ探させてはおりますが、少年らしき恰好の女性とは、少年ではなく、ですね? お名前はわかりますか?」

「わかったら苦労せんわっ。もう良い!!」


 バルトルトは安定の不機嫌で声を荒げ、疲れたので下がると言って大きな靴音を響かせながら自室に戻った。


 私室から見える街の景色はいつもより華やかで、浮足立って見える。

 城の一番上にある不便な私室は王都を広く見渡せた。

 イライラしながら王は衣裳を脱ぐ。

 なんだったんだ……なんだったんだ、さっきのは。

 彼は生まれてこの方、腹の奥に理由なき苛立ちを常に抱えて生きていた。生理的な苛立ちは忘れたくても忘れることが出来ない厄介なもので、ひたすらに彼を苦しめた。どれだけ美味しい料理を食べても、優しい音楽を聴いても、美しい女とのひと時も、夢の時間でさえも、彼は解放されたためしがない。


 そう、なかったのだが。


 さっき生まれて初めて、めちゃくちゃ喜んだ。

「やった~!」

 とか

「ハッピー!」

 とか、人生で発したことの無い言葉を叫んでもいいくらいに、嬉しくて嬉しくて堪らなくなった。はっきりわかった。理由はあの女だ。あの女を見て、幸福が爆発した。


 何なんだ。誰なのだ、あいつは。


 貴族の令嬢でもなくば、街の娘とも言い難い、少年のナリをした変な小娘だった。


 思い出すだけで嬉しくなる。バルトルトは思考が乱れるのを自覚する。意思とは無関係に湧いてくる初めての感情と、いつも通りの冷静な判断が頭の中を右往左往するのだ。こんなことも初めてだった。胸を押さえ、頭を掻き毟った三十四の男はガツガツと壁に頭を打ち付けた後でベッドに倒れ込んだ。

 あの女が見つかれば解決するだろう。だけどもういない。

「ぐ……」

 もう一度会いたい気持ちと、見つかって欲しくない興味を否定する気持ちで引っ張り合いになる。だがいくらベッドでひとり眉間に皺を寄せようが、何の解決にもならない。

 こんなことを話せる相手は一人もいなかった。

 よし酒だ。酒を飲もう。

 よろよろとドアを開け、近衛に酒を持ってこいと怒鳴り散らす。

 どうせ初日の挨拶をしたら、もうバルトルトの用事はない。あとは民が勝手に祝って終わるのを待つのみ。一週間の自国の祭典を私室でダラダラして過ごすだけの予定だった。



 やがて美しい月が昇り、夜更けを迎えた。

 酒を過ごし、ソファで寝こけていたバルトルトは、呼ばれてピクリと目を覚ます。

 誰も部屋には居ない。彼しかいない。だけど呼んでいる声がする。


 出ておいで。


 ◇


 王城が見える丘、太い木に登ったヒマリは最上階の部屋に向かって呼びかける。


「出ておいで………あそぼー!」


 それは互いに胸が高鳴るお誘いだった。

 灯りの付いた最上階の窓が開く。テラスに暴君バルトルトが現われた。ぼうっとした顔をして、突っ立って声の主を探している。


「こっちだよ。飛んでおいで……さぁ、背中から羽根を、腰から太い尾を……お腹の奥に意識を向けて、熱い塊を見つけて……元の身体に戻るだけ、必ず出来る、出来るよ」


 フラフラと歩き出し、とん、とテラスの手摺を足で蹴った瞬間に、バルトルトは人の形を崩し、暗闇の中で膨らませた。瞬きの次にはもう、巨大な羽根、長い首、鉤爪のついた手足に輝く黒目の竜がいた。月の光がその美しい姿を縁取る。

「綺麗……!」

 ヒマリはほうっと感嘆の息を吐いた。


 飛翔に戸惑っている様子はあったが、細かくコマンドを入れて安定を促す。

「そう、上手よ。そのままで尾の根元で進みたい方向を意識して……そう、そう、上手! こっちよ。急がなくて大丈夫、ゆっくり飛んでおいで」

 ヒマリが登った大木が近づいてくる大きな風に揺れる。

 バサリ、バサリとぎこちない飛行でやってきた一匹の黒竜が、ヒマリの待つ丘にふわりと降り立った。木から降りた小さな女は駆け寄って両手を伸ばす。

「上手に元に戻れたねぇぇ! なんって綺麗な黒竜!! ふぁ~! めちゃくちゃ会いたかったんだから!! ずっとあなたのことを探してた。山にいるんだとばっかり……まさか人の姿になっているなんて思いもしなかった。ごめんね、来るのが遅くなって。大丈夫だった? 私、竜使いの自分を思い出したのが三年前だったの。あなたも自分が竜だって忘れていたのね?」


 黒竜はじっと自分の手足や尾を見ていた。口を開けてみたり羽根を動かして、何やら確認している。

「大丈夫? 変な所ない?」

 ヒマリが下から腕を伸ばした。

「おいで。ぎゅー、しよ!」

 黒竜は固まる。

「遠慮しないで、おいでほら。マスターだよ、あなたの……うーん、名前付けようか」

 太い尾がペシペシと地面を叩いた。名ならある。

「バルトルトって言うんでしょ? でも長いよね。呼びにくい! 『ル』がついてるって言うのに可愛くないし……そうだ、いっそルだけにしよっか。ル縛りで、ルルにしよう、ルルたん!! あ、か~わいい!」


 最高に可愛い名前が爆誕した。黒竜ルルは震える。

「グォッ」

「なに? なんか文句?」

 急に冷ややかになった主人の声にハッとなり、ルルは首を振った。

「だよね!! よーし、ルル、おいで」

 ヒマリが再び両腕を広げた。

「………」

 ルルは恐る恐る、小さな腕に向かって首を降ろし近寄って行く。

 小さな腕、小さな手、小さな指が温かい温度でルルを抱きしめた。

「会いたかった、ルル……!」

 二人は顔を寄せ合い、頬を擦りつけあう。

 嬉しさと歓喜で声もなく、何度も何度も擦りつけあった。

 ヒマリは少し涙ぐみつつ、ルルの顔を撫でてやり、皮膚の状態を確かめる。鱗に似た皮膚は美しいが、少し張りに欠けていた。尻尾の先も本来なら先端まで硬い筈だったが、若干柔らさがあった。

「ふむ。睡眠不足ね。そりゃそうか、運動不足だもの。眠れないわね。ストレス溜まってるんじゃない?」

 ルルはじっと主人の言葉を聞いた。初めてのことでいまいち理解できないが、とにかくこのマスターの声が耳に心地良いのはわかる。

「そうと決まれば早速空中散歩と行きましょう!! じゃーん!!」

 木の根には鞍と皮ベルトが置いてあった。

「ルル、伏せ!」

「………」

「どうしたの? 伏せ、よ。鞍を付けるわ」

 的確なコマンドである。黒竜は沈黙の末に伏せた。尻尾がびたんびたんと地面を叩く。ヒマリは何度も装着した経験があるかの如く鞍を付け終え、颯爽と乗り込んだ。にやにやしながらルルの首に全身で抱き着く。

「あー! やっと、やっと飛べる!! やっほい!! じゃあ行こ。最初は怖いかもしれないけど、大丈夫。私がいるわ。巣を目指しましょう。運動不足だし、西のチトット山に行こう。今晩はそこの巣でゆっくり寝ましょう。そしたら睡眠不足もなくなって、明日にはルルたん、カッチカチになるから!」


 バサッ、と巨大な羽根が羽ばたく。

 身体が浮いて、黒竜は夜空に同化し始める。

「ルル、私を乗せていると背中で意識して。そうしたら、私は風や衝撃から全て守られる。もし私以外に何かを乗せる時も同じよ。乗せていると知っている限り落とすことはないわ。さー、しゅっぱーつ!」

 少しずつ、二人は夜の空を泳ぎ始めた。

「上手、上手よ、ルル!」


 時折飛翔方法をレクチャーし、だんだんとルルも慣れてくると驚くほど速く飛んだりジグザグに飛んだりして見せた。ヒマリはそのたび撫でて褒め、ルルは喉を鳴らして喜ぶ。

 柔らかい月の光が竜の躰を包む。山々の峰を遥か下に、黒竜はその夜思う存分飛び続けた。ぐんぐんぐんぐん空を裂き、静かにしなやかに羽根を波打ち夢中で翔けた。


「楽しいねぇ、ルル~!」


 結局目的地も超えて色んな場所を羽ばたいて、山頂の巣に降り立ったのは夜明け前である。近くの湧き水で二人は喉を癒した。そうしてヒマリが案内した巨大な穴倉を目にすると、ルルは急いで入って丸くなりたくなる。だけどマスターに止められた。

「竜がこんな汚れた場所で寝たらだめよ。まず羽根で穴の中に風を送って……そうそう、そしたら次は喉の奥に少しだけ熱を込めて、息を吐くの。もわーっとね。もっと、もっとよ」

 穴倉は熱い湯で蒸らされたような状態になる。ぽたぽたと湯と共に汚れが流れて落ちていく。そこまですれば、ルルにもわかった。もう一度、今度は冷たい息を吐いて汚れを濯ぐと最後はカラカラに乾いた火混じりの息で乾燥させれば完成だった。


 なんて素晴らしい寝床になったことか!


 ルルは上機嫌で穴に入り、ヒマリを尾で包んだ。

「おやすみ、ルルたん!」


 ◇


 いや、おはようじゃないぞ。

 起きて一番、自分が抱きかかえている小娘に慄いてバルトルトは震えた。竜の躰は消え、また人の身体に戻っていた。

 チュンチュンと鳥が鳴く爽やかな朝。


「う~ん……」


 コロンと転がってきた娘はばっちりと彼の身体に張り付いて『ルルゥ、まんま』と寝言を吐いた。

 その名前な!!!

 ごーーーーっとバルトルトの胸に怒りが燃え上がる。子どもやペットに付けるみたいな気軽な名前をつけやがって、この女!! 俺は絶対に返事なんかしない!!

 しかもなんだ、マスターだと!? いや分かってる、なんかマスターなんだとはなんでか分かるんだが、だからなんでこんな小娘の命令を俺は聞かなくてはならんのだ!?!?


 とにかくマスター娘はノリが軽い。軽すぎた。とっくに不敬罪で死刑である。

「伏せ」はやめろ。けしからん、俺は国王だ。

 気軽に撫でてどさくさにあちこち唇を押し付けて来るのもやめろ。痴女め!

 思い出して怒りに塗れながら、昨夜ルルとして恋しく感じた女を覗き込んだが、全く普通だった。あんなにあれだけ胸が苦しくなった気持ちが、ない。


 よし、もう絶対にスリスリとかはしない!

 おいでと呼ばれても行ってたまるか!


 バルトルトはだが、ビタビタに引っ付いて眠るマスターを石の上に落ちぬよう腕の中に抱え、昨晩を思い出した。


 めちゃくちゃ、楽しかった……。

 とにかく自分は竜だった。完全に忘れていた。と言うか、知らなかった。

 何時間も我を忘れるくらいにビュンビュン夜空を飛び、生まれて初めてクタクタになった。疲労を初めて理解した。今までいくら暴れようと疲れたことが無かった。

 竜になった瞬間からあの苛立ちは嘘みたいに消え、歓喜の時間が続いている。

 この娘の温度と声、手のひらがどうしようもない幸福を連れてきた。それだけは確かだ。バルトルトは凪いだ心で主人を見つめる。竜になって彼は色んなことを思い出した。


 竜と竜使いはセットである。

 この世界で竜は生態系の頂点にいたが、数十年に一度しか生まれず、個体数は少なかった。多い国でも五を切る。竜はどんな姿にもなれるから、もしかするともう少し多いのかもしれない。だけど竜使いにならどんな姿かたちでも会えば見つかってしまうものだった。バルトルトのように。


 形態を竜にしてしまえば、言葉は失われた。理解はできるが、口の構造が違うから声は出ても音が作れなかった。それに何より竜になっている間は酒に酔ったように鈍感なのだ。例えば外の温度や足元の悪さなど、これまで彼をイラつかせた些細なことが何一つ気にならない。小さすぎて言う気も失せる。たぶんバーガスがギャーギャーとうるさく喚いても気づかないくらいだろう。それは「穏やか」と言われるバルトルト本来の気性であったが、三十四年もイラついて来た男にわかる由もない。

 自分の意識がないわけではないので「伏せ」に受けた衝撃は度し難いものだったが、数秒後にはボヤっと溶けて従ってしまう。まぁいいか、主人だし……。


 いやいや、それはだめだ!!

 バルトルトは眉間に深い皺を寄せ、とにかくこの女と話をしようと思った。見ていると、もぞもぞしてから目を開けた。

「おはよう、ル……んん!?」

 バルトルトの腕の中で目覚めた主人がカチコチに固まる。

「おい、お前、名は何とい」

「ぎゃーーーーーーーーーーーーっ」

 慌てて起きたヒマリが男の腹を強く押して飛びのいた。

「ぐえ」

「あっ、ちょ、すいませ、あの、え、なんで戻って?」

「答えろ! 質問しているのは俺だっ! まずお前は誰なんだ!!」

 青褪めたヒマリがひたと視線を合わせる。ぎくりとしたバルトルトだったが、捉えられるともう視線が離せない。

「戻りなさい、ルル!」


 ぼわーん。

「グゥ……」

 バルトルトはあっけなく竜に戻った。


「あーもう、びっくりしたぁ。ダメじゃない、せっかくの楽しい時間が。さ、朝ごはんにしましょ。食べたら躰を良く見せてね、健康診断よ」

 それから二人は川で水を飲み、魚を捕まえて丸焼きにして食べた。

 十分な運動とかつてない眠りを得たルルは、艶やかでカチカチの鱗を取り戻し、健康診断も完璧である。

「ルル、おしっこしたら見せてね」

「………」

 不敬罪の上に侮辱罪を重ねた小娘は今日は仕事をしますと陽気に宣言する。

「ルルも知っているでしょう? 長く竜が不在だったから、クメルドには今、魔物がとんでもない数で出現しています。魔物は瘴気から生まれるわ。本当はお食い初めみたいに幼竜の頃に瘴気を飲んでおくと強い子に育つんだけど……あ、それがあるから魔物が減るの。だけどルルたんは飲めなかった! だから、今から飲みに行っちゃいまーす!」


 拳を突き上げ出発し、向かった先には黒い渦を巻く瘴気溜まり。正直人が(竜だが)飲めるような代物には見えない。ルルは尾をびたんびたん振り回し、全身で引いている。

「大丈夫、飲めるわよ。竜にとったらお酒みたいなものなんだから。でも全部はだめよ。お腹壊すからね」

 ルルは黒い渦とにこにこの主人を交互に見る。じわ~っと汗が出そうだが(汗腺はないが)、結局にこにこの威力に思考が溶けて口を突っ込んだ。

 何より、確かにクメルドは魔物による被害が甚大であった。魔物が通れば土が汚れるので農作物がやられる。豊かに実ってもいたずらに潰しにくるのだ。国として一匹でも魔物は少ない方が良い。そんなことは内政に興味のないバルトルトとて理解していた。


 ごっくんと一口飲んで、だけどルルは思っていたより薄味であることに気が付く。

 結構いける。どろついた見た目に反して爽快な飲み心地。だがのど越しに苦い刺激があり、なんだか癖になる……!

「ね? 美味しいでしょ?」

 ひと口も飲んだことの無い小娘が得意げに言った。

 だが、何不自由のない生活を送ってきた国王は、今初めて至高の味に出会った。どうりで城のコックをどれだけ入れ替えてもピンと来ないはずだった。こんなもの、竜以外に誰も飲まない。


 瘴気を薄めた後は、この山にいる魔物をどうにかするのが本日のメインイベントである。

「って言っても、私がわかるのはルルの気配だけで他にどんな魔物がどれくらいいるのかとかわからないんだけど。ルルたんにはわかるんでしょ」

 敵を探索しながら少しずつ山を下りる。

 確かにマスターの言う通り、黒竜には魔物の気配がわかっていた。実は今も小物が三体右手の小径からこちらを窺っている。だけど彼は思う。


 戦い方が、わからん。


 常であればこの右手に剣があるのだが、勿論にぎってなどいない。代わりに鉤爪があったが引っ掻いて戦うのも絵面的に違う気がした。猫じゃあるまいし。

 食べればいいのだろうか。

 さっきも瘴気を飲んだくらいだから、自分は魔物も食べるのかもしれない。だけど国王として遠征した先で魔物とエンカウントし、倒した姿はとにかくマズそうだった。臭い個体も多い。魔物は食べられないというのは定説だった。

「どうしたの? ルル。何か不安なのね?」

 竜とマスターは見つめ合う。

 気持ちが小娘に筒抜けで、バルトルトは尻のすわりが悪いことこの上ない。

「何でも私に言うのよ。子どもに見えたって、実際はあなたよりもず~っと大人なんだから」


 じゃあまず、人間に戻せ。

 モヤっと思ったが、またにこにこと見上げられると霧散した。撫でて欲しくなってくる。


 そんなこんなで魔物を無視して歩いていたが、いよいよ道の途中でエンカウントする。思考停止型の魔物が真正面に落ちていたのである。


 ア~…ウウウ~……


 のそのそとのたうち回るように動く唇らしきパクパクがたくさんついた魔物は「チューバー」と渾名されるD級魔物である。動きも遅く、本能で生きているD級は初心者の冒険者が練習に使う相手で、ちゃんと立ち回れば全く危険のない相手だ。だけど油断して唇に吸い付かれるとそこから身体が壊死してしまう。剥がす時には悶絶ものだった。

 チューバーを目にしたヒマリはスーッと横に退いた。

 手のひらを指し示し、どうぞお戦いあれとルルを誘う。


「…………」

「…………」


 ア~…ウウウ~……


「…………」

「どうしたの? さっさとやっちゃえばいいよ。こいつ弱いから」


 ヒマリは不思議そうに何もしないルルを見上げた。

 ルルも可愛い黒目で主人を見返すが、伝えようもない。とりあえず踏み潰してみよーかと前足を振り上げた。

「わーっ! 何してるの! 唇に吸い付かれたらどうするのよ。私の可愛い肉球が剥がれちゃうじゃないっ……あれ、もしかして、戦い方がわからないのね!?」

 太い尻尾が大きく波打つ。

「なるほどぉ。わかった。じゃあ、トレーナーになるわ。えーっと……こほん……ルル! 君に決めた!」

 決められた。

「ルル、ファイヤー!」

 言われてルルはハッとした。そうだ、火が吹けたのだった。ゴーっとチューバ―を火であぶると、魔物はカスカスの黒ずみになる。

「うん、上手ね!! すごい! うちの子、賢い!!」

 ルルは褒められて撫でられて目を細めて喉をゴロゴロ鳴らす。

「あーあ。私のポケットにもルルが入れば良いのにな~」

 残念ながら竜をやめてもおじさんだった。ポケットなモンスターにはならない。

「可愛くって強くって賢くって、もうルルたんは最高~!」

 ルルは尾を振りまくった。飛んで寝て火を吹いて褒められて……なんだこれは、最高に楽しいじゃないか!

「さぁ、ルル、どんどん行こうぜ!」


 そんなこんなで一週間後。行方不明だった王が帰城した。


 ◇


 出て行った姿は誰も見ていないのに、夜明け前に徒歩で帰って来た国王陛下にバーガスは詰め寄る。

「一体どうなされたのですか!? どこから、いつ外へ!? いくら建国祭の間は公務がなかったとは言え、有事があれば大変な騒ぎになっていますよ!! 何とか誤魔化しましたが、もうバーガスは心配で、心配で……!」

 その割に、側近はツヤツヤしていた。

 どうせ怒り散らす王が不在なので伸び伸び羽根を伸ばした一週間だったのだろう……実際に羽根を伸ばしてきたバルトルトは察する。

「身支度をしたら頼み事がある。騎士団長を呼んでおけ」

「陛下っ、どちらにおいでだったのですか? まさかどこかに女が」

「………」

 ツヤツヤの側近は、自分よりさらにツヤッツヤの王を見て取り愕然とした。

 えっ、こんな若々しい陛下は初めてじゃないか?

 いつもあるクマもないし、黒髪もなんだか光っている。何より瞳が違った。ギラギラした怒りはどこに行った!?

 これは女だろ。明らかに女だろ!!


 バルトルトは「女」と言われてマスターと遊んでもらったことを思い出した。つまり素晴らしく可愛い笑顔になる。

「陛……」

「はっ。ごほん…あー、つまり早く騎士団長を呼んでおけ。いいな」

 なるべく冷たく言い捨てて、最上階の私室へと階段を上っていく。飛んだら直ぐなのに、と思いながら。


 私室でシャワーを浴びるとサッパリした。何度か川で洗って貰ったので全く問題はなかったが、やはり熱い湯も捨てがたいと知る。

 さて熱い湯に打たれながら思うことは、小娘一択である。


 それであいつは、誰なんだ……!


「うあ~~~~~~っ」

 風呂場で叫ぶ。

 マスターと遊んでいた一週間の間、毎朝人に戻るので、そのたび人語で詰め寄るのだが、目を合わせると一発で竜に変えられた。「こらこら、ルルたん」といなされ、明らかに素性を明かさぬ腹を感じた。さすがに顔だけはばっちり覚えたのだが、絵描きでもあるまいし描けぬ。騎士団長には事細かにちんちくりんな娘の容姿を伝え、早急に探し出させなければならない。

 だが、向こうはもちろん自分が国王だとわかっている。

 つまりわかった上で「伏せ」「おすわり」「待て」を仕込んできやがったので、不敬罪で縊り殺されるのは自明であった。


 いや、殺さんが。


 バルトルトは頭を掻き毟る。

 だってずるいじゃないか。竜使いは竜に直接話しかけて呼び出すことができるのだ。だけど自分は名前もわからず居場所も知らぬマスターの元に飛んで行くこともできない。

 予感だけはしているのだ。もう夜になったら会いたくなる。ただでさえ広いベッドが地平線まで続くくらいに広くなるだろう。穴倉に帰りたい……! あの居心地の良い穴倉でマスターをこの尾にしっかりと巻いて(以下略)。

「いやいやいやいやいやいや!!」

 慌てて頭を振って思考を振り切り、とりあえず王様は一発自分を平手で打った。


 大体、あっちはこっちほど何とも思っていないのだ。今朝なんて目が覚めたらもうあの娘はいなかった。「また遊ぼうね!」と下手くそな字の紙だけ残し、置き去りにされた。あの時のバルトルトの気持ちなんて一生マスターにはわからないだろう。誰にも言わないが、ちょっとだけ……。


 許さん。とにかく、許さん……!


 ◇


 突然冒険者を止めると言い出したヒマリに、クロスもジャスミンも驚いた。

「じゃあ嫁に来るか」

「王都で暮らそうと思って。急いで部屋を借りて仕事を探すわ。色々ありがとう、クロス、ジャスミン! じゃ!!」

 おいおい、ちょっと待てよとクロスが肩を掴もうとしたが、すっ飛んで行ったヒマリにはもう聞こえなかった。ジャスミンが残念でした~!と揶揄ってやる。

「なんで急に王都で暮らすんだ?」

「でも良かったじゃん。猪突猛進な上に神出鬼没だったけど、今度からは王都に来れば会えるんだからさ」

「うあっ、本当だ……!」


 ヒマリは光速で不動産を巡り、郊外にある古い家を借りた。近所にはしなびた老人しかいない。自分と言う存在を出来るだけ隠して暮らす為である。同時に町医者の門戸を叩き、弟子にしてもらった。モンスターも仕事もゲットしてバトルの準備はばっちりだ。


 目下、ヒマリのゴールは週一でルルを呼び出し遊ぶことだった。土日祝が休みの仕事になったので金曜の夜中に呼び出したい。日曜の朝まで遊びまくって一緒に過ごし、あとは先日同様に寝かせたまま消えて日曜を一人ゆっくり過ごすのである。最高。

 ルルがクソ国王などではなかったら、もっと一緒に遊べたのになぁ、とヒマリは残念に思う。どうしてよりによって国王なのだ。もっと他にあっただろう。靴屋とか八百屋とか。さすがの竜使いだって躊躇する。国王にあんなことやこんなことをするのか!?と。

 だけどやっぱり我慢なんて出来なくて、国王という事実を全力スルーの一択と相成った。


 暇ではないだろう。国民の為に不眠不休で働いてもらわねばクロスの妹のような人々が幸せになれないので困る。アレそう言えば週末って王様は休みなのだろうか。休みがないなら仕事の邪魔かも……など色々と考えたが、二人の遊びは回り回って人々を救う魔物バトルだったので寧ろ国益になるはずだった。


 一週間は夢のようだった…だけどちょっと国王には長かったかも。でも慣らし保育は必要だったのだ。加えて有無を言わさず連れ回したのも反省している。だって朝になると手綱が緩み王様に戻っちゃうのだが、なんか言ってくるのがすごく面倒臭かった。口封じもあって竜になるよう命じたのも、後で考えてみれば失礼過ぎて死刑案件。

 バルトルトは言わば赤ちゃんなので気が付いていないのだが、本来は自分の意思でどうにでもなれた。竜の持つエネルギーは凄いのだ。色んなルールを捻じ曲げてしまえるから、犬や猫にだってなれた。質量保存の法則を無視しているチートである。だから心底嫌ならヒマリの命令だっていくらでも無視出来るのだ。でも出来ない。

 ヒマリは気が付いていた。

 チョロいのだ。マスターに夢中なのである。

 こちとら前世から数えれば七十年近く生きてきたプロの人間である。三十半ばの坊やなど取るに足らない。

「ふふふ……」

 可愛かった……! 

 真っ黒な黒目で一生懸命マスターを見て、「伏せ」をしてバトルを待つルル。

 瘴気を前に涎を垂らして「待て」をするルル。

 子守唄にうっとりと目を閉じていくルル。

 不機嫌に振られる尾、丸いお尻のルル!

 全世界どこを探してもあんなに可愛い子はいない。


 だからヒマリは全力でバレる訳にいかないのだ。捕まれば良くて死刑、悪くて死刑だろう。つまり死ぬ。

 それだけのことをやった自覚はある。泣く子も黙る悪王にアレもコレもやらせているのだ。目の前で尿検査までした。そしてヒマリはまだ、やらせたい。

「だってこの為に生まれてきたんだからさぁ……」


 基盤を整えて生活が回り出すと、金曜の夜にヒマリは色んな場所からルルを呼んだ。二人はいつでも再会を喜んで、抱き合った。ルルなど尻尾が千切れそうである。

 そのまま夜明けまで駆け回り、瘴気や魔物が気になる山の巣で眠る。朝になれば瘴気を飲んで魔物とバトルを繰り返した。ヒマリとルルのチームは圧勝を繰り返し、半年も経てば誰の目にも魔物の数が明らかに減っていた。山に調査が入りだすと、巨大な足跡が方々で発見され、竜の巣がどこもピカピカになっていたので、どうやらクメルドに竜が誕生していると国王にも報告書が提出される。

「これ、俺」

 バルトルトはせり出す言葉を飲んだ。そして隣に小さな人の足跡が必ずある……という記載に切ない顔をする。


 一方の小娘に関する進捗報告は半年経っても何もない。騎士団は「ちんちくりんで亜麻色の髪でハキハキと喋り、歩くのがめちゃくちゃ速くて目が深緑で丸い、健康的で実際に会ったらもしかすると可愛いかもと思うかもしれない娘」を探しているが、見つからなかった。

 王はたまに薄っすらと笑い、思い出したようにスーッと静まる様子を見せた。長年使えているバーガスは見るたびに動揺する。女がいるなら早めに王妃に迎えたかったが、主はどういう訳か全く口を割ろうとしない。相手はプロなのかもしれないと最初に思ったが、男色に目覚めた線もあったし、あるいはどこかの爵位のある男の妻という可能性もあった。

 道ならぬ恋にハマる暴君を諫められる程、バーガスの心臓は強くない。他国からの賓客が献上してきた贅沢品のワインを手に、進捗伺いにいく程度である。

「陛下、こちら地中海のマレーナからの献上品でございます。大変珍しいワインだそうですよ。いかがですか」

「ああ、良いな。貰おうか」

 バルトルトは普通に返して飲み始める。旨いな。もう二本持ってこいとか言いながら。

 以前だったら、

「賓客とは誰なんだ!? なぜ俺に挨拶に来ない!?」

 と怒鳴り散らしていただろう。正直、腑抜けと言って差し支えない。


 クメルドの国政はその実権を貴族どもが握っていた。

 国の富をほぼ掌握している彼らは身の回りを維持するために政治を行っている。貴族は長らく王家を軽んじてきた。特に先代は気が弱く、酒池肉林を好む宰相に遊ばれていたと言って良い。そんな父を見ていたバルトルトは、即位した日に一言の言い訳もきかず宰相を斬った。これが悪王と言われる所以である。しかし、斬ったからと言って不思議と内政に目を向ける訳でもなく、ただただ暴れ回っていたのだ。バーガスからすれば意味不明な王だった。


 バルトルトは争いがあれば好んで出兵し、赴くままに剣を振るってきた。実際強く俊敏で、王と言うより歴戦の猛者の方がしっくりくる。いつも不機嫌な顔で出て行って、血みどろで城に帰った。その異様な雰囲気に、内心貴族たちは震えあがっていたのだ。内政に興味はないとしながらも、宰相のように突然殺されるかもしれないと。

 良い王になれば良いのか、と言うとこれが難しい。

 貴族共を問答無用に蹴散らせば、国政を担う者は空になる。国が傾いてしまう。バルトルトが暴君である事実は、非常に厄介な均衡を保っていたのだった。


 ◇


「ルールーたん、あーそーぼ!」

 金曜夜、テラスでスタンバイしていたバルトルトは、声が聞こえるやいなやスイッチが入り羽ばたいた。今日は土産を持参してある。美味しかった地中海ワインだ。早くマスターに渡したくてうずうずしていた。

 南の山まで呼ばれたルルが鉤爪の先にぶら下げた二本のボトルを見せると、歓声を上げる。

「なにこれ。めっちゃ高そうで美味しそう!」

 ありがと~! 後で飲もう~! と喜んで、空中散歩の後でマスターはワインを開けた。

「んん!? 凄っ、美味しい!!」

 芳醇な香りと濃厚な渋み。ヒマリは大満足でワインを飲んだ。そうだろう、美味いだろうとルルも頷く。


 いいなぁ。俺も一緒に飲みたい。


 友だちなんかいないから、気楽に誰かと酒を飲んだこともなかった。いつもイライラしていたから、酒は苛立ちから逃げる為のもので、その美味しさに気が付いたのは最近である。

「ルール、ルール。ルルも一緒に飲めたらいいねぇ!」

 半分ほどをチビチビと飲んでいたヒマリは酔っぱらい始め、そのせいで眠っているのと同じくらいに意識が低下した。無意識状態である。手綱が緩んで、バルトルトが繰り返し羨んだ結果、ぽん!とルルはバルトルトになった。

「おっと!? へーかじゃないれすか」

「おおっ。戻った!! お前……酒に弱いんだな」

「まぁね。いつも、みんなで飲んれも、ねちゃうしね」

「みんなで? みんなって誰だ」

「竜の巣を~、探すぱーてぃー!」

 そう言えば、最初にずっと自分を探していたと言っていた。バルトルトは嬉しくなる。

「ずっと探してくれていたんだよな……ありがとう、マスター」

「いいの、いいの! わらすは、竜使いになりたくってきらのら」

「どっから?」

「てんごくからら」

 なのに、だーれもしんじない。絶対ルルはいるのに、だーれもしんじないから!!

 急に悲しそうになった女はワンワン泣いた。バルトルトまで妙にしょんぼりする。

「泣くなよ。もう会えたんだから良いじゃないか」

「そらね……うう……」

「パーティーはずっと同じ所に所属していたのか」

 ヒマリはルルに会いたくて、色んなパーティを渡り歩いて巣を巡っていたと説明した。

「そうか。苦労をかけた」

「そうよ。あんら、苦労かけれるら。あんたがしっかりしてないからぁ、クメルドは貴族の国ら。貴族しか幸せになれないのら。あんたがちゃんと見ていたら、クロスの妹だって、入院できたのに!」

「んん? 待て待て、何の話だ。クロス?」

「そーら。クロスは勇者ら」

 勇者だと? バルトルトはムッとする。

「男か!?」

「おこと~…? あー、嫁に貰うってやつ。あーあー、あら冗談ら」

「なっ……!」

 だが、とにかく!! とヒマリは突然怒り出す。

「もっろ、いーおーさまになんの! みんなごはんたーべーて、ぐっすりねーて、しんどかったら入院れきる、にっこにこのルルたん!! みんな、できないの!! いい、わかた!?」

 わからん。

「……わかった」


 満たされない食事も、ぐっすり眠れないつらさも、イラついてどうにもならない日常も、バルトルトはもう知っていた。今ならわかる。自分ではどうにも出来ない日々だった。それがどれだけ虚しくて、淋しいか。得て初めて知る不完全は彼を素直にしてくれた。


「ぬあ~! ちょ、ぐるじ……」

「俺は心を入れ替える。詫びよう」

 ルルみたいな顔をしたバルトルトがヒマリに抱き着く。別に主人に謝罪したって意味なんかないのだが、怒ってくれる人なんてどこにもいなかったから。

「なぁ、マスター。教えてくれ、名前を……ずっと側にいてくれないか……マスター……マスター?」


 ちょっと力を込め過ぎて、マスターは気絶していた。


 ◇


 ポカポカ陽気の昼休み、ヒマリは新聞を手にコーヒーを飲む。

「ヒマリちゃん、ちょっと、昼寝をしてくるよ」

「かしこまりました! 行ってらっしゃいませ~!」

 自宅になっている二階へ上がる老医師を見送ると、改めて見出しを眺める。


『ノイトミヤン山の魔物も一掃! 竜の大活躍』

『バルトルト王 悪の枢軸の更迭完了』


 ルル、前に出て! なんて言わなくても、今日も出まくっている。

 どっちも中の人は同じなんだよ、と知っているのは本人とヒマリだけだ。

 明日はようやく金曜日。最近はバトル相手に困っている。最後は他国の竜とバトルするしかないかもしれない。どこも悩みは同じなはずだ。次は何して遊ぼっかな~。


 そう言えば、ヒマリは昨日顔色の悪いジャスミンと会ったことを思い出した。王都に付いた途端、クロスが衛兵に連れ去られたと言っていたが、あれからどうなったのだろう。家にもまだ来ていない。

「………止まれ!」

 馬車やら蹄の音や、人の声が聞こえてきた。

 いつもは静かな午後の診療が始まるまでの外が、なにやら騒々しい。

 急患かな。

 新聞を畳んで、立ち上がる。



 診療所の前で止まった馬車の扉を開いたバーガスが、主人に花束を手渡した。

「大丈夫でございますよ、(今の)陛下なら」

「………」

 看板のかかった白い入り口の前で深呼吸を繰り返し、バルトルトはノックした。












最後まで読んでいただきありがとうございました!

後書き書くの忘れてた。

ご評価、ありがとうございます。

ハイかローかわからんファンタジー分けで、ローだと読者層少なそうでハイにしました。本当はローかな。


また⭐︎で、どうだったか教えて下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
面白かったです。 もう少し陛下のルーツを読みたかったり(遺伝子どうなってるの?) ハッピーエンドまで読みたいです。 ジャンル、ハイファンタジーであっているのではと思います。 小説家になろうヘルプセン…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ