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ドラゴン幼なじみは、ツンデレすぎて火を吹く。  作者: トムさん


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第3章 「恋愛禁止の校則を破ると、文字通り爆発します。」

 翌朝、教室の空気は妙に張り詰めていた。


 昨日とは違う、もっと根本的な緊張感。

学園都市クロスガーデンの教室は、本来、魔族・精霊・人間が共存するために「開かれた」設計になっている。

 天井は高く、窓は大きく取られ、魔力換気用の風が常に穏やかに流れているはずだった。


 なのに、今朝は空気がよどんでいる気がする。


 ――昨日の、あの視線。


 委員会室で感じた、背筋を這うような冷たい感覚。

 あれが気のせいだとは、どうしても思えなかった。


「ねえミリア、顔色悪いよ? もしかして、昨日の“お説教”が長引いた?」


 隣の席のセリナが、銀髪を揺らしながら心配そうに覗き込んできた。


 そのくせ、瞳の奥は「何か面白いことがあった」と好奇心で輝いている。

 この精霊族の友人あくまは、他人の恋愛沙汰を観察するのが趣味なのだ。


「ううん、別に……ただの再教育プログラムが決まっただけ」

「再教育? あ、もしかして……」


 セリナは何かを察したように目を輝かせ、獲物を見つけた狩人のように意地の悪い笑みを浮かべる。


「もしかして、リオ様と二人きりで?」

「……なんでそうなるのよ」


 図星だった。

 私は慌てて机に突っ伏し、表情を隠す。

 無表情を貼り付ける余裕すらなかった。


 ――やめて、その名前を出さないで。

 ――昨日、あの後、まともに眠れなかったのに。


 指先に残る、彼の掌の感触。

 熱が伝染したみたいに、自分の体温までおかしくなっている。


「ミリア、あんたさあ、ウチの校則、ちゃんと覚えてる?」

「校則?」

「第一条第二項!『恋愛感情は魔力暴走の最大要因であるため、これを厳しく制限する』。……つまり、恋愛禁止よ」


 セリナが教科書の端を指でなぞる。


 「ほら、魔力って感情と共鳴するでしょ? 喜びとか怒りとか。中でも“恋”は一番タチが悪いんだって。感情の制御コントロールが効かなくなって、昔、この学園が半壊しかけたらしいから」


 ――恋愛禁止。


 知ってる。

 馬鹿馬鹿しい校則だと思っていた。

 今までは。


「昨日のミリアの火柱、すごかったもんねー。あれ、もしかして“恋の炎”だったりして?」

「なっ……!」


 ばっと顔を上げる。

 心臓が、嫌な音を立てて跳ねた。


 ――違う、そんなわけない。

 ――でも、もし……もしそうだったら?

 ――リオと手をつないだだけで、あの熱。

 ――これがバレたら、「恋愛禁止」違反で……。


「違反者は魔力暴走の危険因子として、即退学、もしくは魔界へ強制送還」


 セリナが淡々と読み上げる。


「……冗談キツいよ」

「事実よ。だから気をつけなよ? “再教育”」


 セリナの言葉が、重く胸に突き刺さった。


 ちょうどその時、教室の扉が開く。

 リオだった。

 相変わらずの無表情で、昨日と同じ制服の着こなしで、まっすぐこちらを見た。


 目が、合った。


 私は反射的に顔をそむける。

 心臓が早鐘を打つ。

 頬が熱い。


 ――お願い、こっち見ないで。

 ――今、私、絶対「恋愛禁止」違反の顔してる!


 私は再び机に突っ伏した。

 内面のパニックとは裏腹に、背中は必死に「なんでもない」フリを続けていた。


 * * *


 そして、放課後。

 私は、旧校舎の奥にある「第三魔法制御訓練室」の前に立っていた。


 重々しい鉄の扉。

 ここは、委員会室よりもさらに古く、魔力の痕跡が染み付いた場所だ。


 扉を開けると、ひんやりとした空気が肌を撫でた。


 部屋の中は、夕陽の赤色だけで満たされていた。

 横長の窓から差し込む光が、床に積もった埃を金色に照らし出し、まるで古代の遺跡に迷い込んだかのようだった。

 空気には、古い羊皮紙の匂いと、微かなオゾンの匂い――魔力が放電した後の匂いが混じっている。

 壁一面には魔力を吸収・計測するための複雑な魔法陣が刻まれ、床には暴走時の衝撃を逃がすための亀裂が、あえてそのまま残されていた。

 部屋の隅には、水晶球がはめ込まれた「感情魔力測定器」が、不気味に鎮座している。


 先に着いていたリオが、窓辺に立って外を見ていた。

 夕陽が彼の横顔を照らし、そのシルエットをくっきりと浮かび上がらせる。


「……遅い」

「ご、ごめん。日誌、提出してたから」


 嘘だ。

 本当は、この部屋に来るのが怖くて、廊下で十分もためらっていた。


「始めるぞ」

「……うん」


 私は鞄を床に置き、覚悟を決める。

 昨日と同じ。ただ、手をつなぐだけ。


 ――違う。

 ――これは“訓練”。“業務”。

 ――校則違反じゃない。退学回避のため。

 ――私は今、無。無の境地。


 必死に自分に言い聞かせ、完璧な無表情を貼り付ける。


 リオが、ゆっくりと手を差し出してきた。

 昨日よりもためらいのない、まっすぐな手。


 私は息を止め、震えそうになる指先を叱咤して、その手に自分の指を重ねた。


 触れた瞬間、パチ、と静電気が弾けたような感覚。


 ――熱い。


 昨日より、ずっと熱い。

 いや、熱いのは私だ。

 彼の手はむしろ、少しひんやりしているくらいなのに。


 熱が、指先から腕を伝い、心臓に直接流れ込んでくる。

 ドクン、ドクン、と鼓動がうるさい。


 ――だめ、落ち着け。

 ――「恋愛禁止」!

 ――爆発する!文字通り爆発する!!ほんとうに爆発する!!!


 私が内面で絶叫していると、リオがわずかに眉を寄せた。

「……ミリア」

「な、なに」

「お前、熱でもあるのか」


「ない!」

 即答した。

 声が裏返ったことに、自分でも驚く。


「……そうか」

 リオは納得していない顔で、視線を部屋の隅に向けた。


 そこにある「感情魔力測定器」。

 その水晶球が、私たちの魔力に反応して、淡いピンク色の光を放ち始めていた。


 ――やばい!


 あの光は、魔力の属性を示している。

 ピンクは、確か……「好意」とか「興奮」とか、そういう……!


「……体調が悪いなら、無理するな」

「だ、大丈夫! ちょっと、昨日焦げた芝生の匂いがまだ鼻に残ってて、くしゃみが出そうなだけ!」


 我ながら、意味不明な言い訳。


「……そうか」

 リオはそれ以上何も言わず、私の手をぎゅっと握り直した。


「ひゃっ……!」


 思わず変な声が出た。

 その瞬間、測定器の水晶球が、カッ!と音を立てて真紅に輝いた。


 ――真紅!

 ――それって、「恋愛感情」の最大レベルじゃ……!


「……ミリア」

「ご、ごめん! 今のは、その、足がつった!」


 私は勢いよく手を振りほどき、その場にしゃがみ込む。

 顔が燃えるように熱い。

 もうダメだ。火を吹く。


「……やっぱり、お前、制御できてないな」

 昨日と同じセリフ。

 でも、今日は声に呆れだけじゃなく、ほんの少し、困ったような響きが混じっていた。


「う、うるさい! あんたが急に握るから!」

「……訓練だ」


 彼はそう言うと、ふい、と窓の外に顔を向けた。

 夕陽のせいか、それとも気のせいか。

 その耳が、少しだけ赤く見えた。


 ……あれ?


 私がその横顔に見とれていると、訓練室の扉が、ギイ、と小さく鳴った。


 ――風?


 でも、この部屋の窓は閉まっている。

 昨日の、あの「視線」の感覚が蘇る。


 リオも何かを感じたのか、鋭い視線で扉を睨んだ。

「……今日は、ここまでだ」

「え?」

「測定器が不安定だ。これ以上は危険だ」


 そう言って、彼は私に背を向け、さっさと鞄を掴んだ。

 部屋を出る間際、リオがもう一度、誰もいないはずの廊下を睨みつける。


 一人残された訓練室。

 測定器の真紅の光は、まだ消えていなかった。


 私はその場に座り込んだまま、燃えそうな頬を押さえた。


 ――どうしよう。

 ――“恋愛感情”が、魔力の鍵になってる……?


 もしそうだとしたら、この「ペア訓練」、退学どころか、毎日が爆発(炎上)寸前じゃない。


 夕闇が迫る訓練室で、私は頭を抱えた。


(第3章・完)

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