豚脂問題
わたしはクーラーボックスを前に、腕を組んでいる。
こちらにきてからごみ処理問題が顕著なので、なるべく残り物が出ないように、ごみを出さないように、気を使って使いまわしをしているつもりなんだけど、それにも限度がある。
中でも持て余し気味なのが、下処理をするときに出た豚の脂だ。
コンポストに油や塩分はよくない、というので掬った脂は腐らないように水分を分離して取っておいているんだけど、使い道がない。
だって結構大量にあるんだよ。
よく、取っておいた脂は炒め物に、なんていうけど、そんなに炒め物することある?
わたしの炒め物頻度と、豚の脂の生成速度が嚙み合わない。
だって、ベーコンを炒める時なんてベーコンから出る脂で十分なんだもの。
さりとて揚げ物をするほどあるわけでもないし……。
ちょっと困ったので、水を加えて煮溶かしてみることにした。
塩分も糖分も水溶性だ。
葱油みたいな香味油があるから、香り成分は脂溶性かもしれない。
でも、お水と一緒に煮立たせたら、残ってる余分な味や香りが水の方に移らないかなーって。
白っぽかった脂が完全に溶けたところで、焦げなんかを濾して取り、氷魔法で冷やす。
固まったラードは溶かす前より、一層白くなった。
気になっていたニンニクやネギの匂いはそんなに残ってない。
もっとも鼻が馬鹿になっててわからないだけかもしれないけども。
「やったことないこと初めてするから、めちゃめちゃ背徳感ある……」
大体コップ一杯分くらいあるラード半分に、同じくらいの量の砂糖を混ぜる。それからホットケーキミックスを一袋混ぜて、おまじない代わりにすりつぶしたクローブをほんの少し。
ホケミは主張強いし、固めた段階で変な匂いはしなかったから大丈夫だとは思うけど、クローブは豚にも合うし、ね。
出来上がった生地を適当な大きさに丸めて、薪ストーブで様子を見ながら焼けば、ちんすこうもどきの出来上がり。
心配していた豚の匂いもしない。
ホットケーキミックスに入っていたバニラの匂いが強くて、全然わからないくらいだ。
手探りで適当に作ったにしてはうまく焼けた……ものの。
「お菓子って自作すると油と砂糖の塊だってよくわかるわー」
計量が大事だと言われるお菓子だけど、クッキーとパウンドケーキはそうでもない。
もちろん毎回ちゃんと同じ仕上がりにしようと持ったら、きちんと計量しなきゃダメだけど、パウンドケーキなら粉と油と砂糖と卵を同量、クッキーなら粉3、油2、砂糖1、卵1でできちゃう。クッキーなんて卵はあってもなくてもまぁいいか、って感じ。
卵が入るとしっとりしっかり、入れなければサクホロで崩れやすくなる。全卵入れたり卵黄だけにしたり、卵白だけにしたりでも変わるが、あとは好みだ。ちんすこうは砂糖とラードと小麦粉だけで出来る。
で、作って……このあからさまなカロリー爆弾の処理をどうするかが問題なわけで。
美味しく焼けて、砂糖も貴重なホットケーキミックスも無駄にならなくてよかったね、とは思うけど、どうすんだ、これ。
要するに砂糖と油脂の塊だよ。
作ってみようかな、で作ったものの、こんなの大量に食べるものじゃなくない?
「……配るか」
包むものがないから、サラシを切って正方形にする。サラシすごいな。まだ一反しか開けてないのに、使っても使っても無くならない気がする。10mもあるんだもん、そりゃそうか。
胸を潰すのに巻いたり、任侠の人がお腹に巻く時って、全部巻くんだろうか。これだけの布を巻いたら、刃物だってそう易々とは通らなそう。
なんとなく対角線に簡単な刺繍を入れる。フレンチノットのミモザとか、バリオンステッチの薔薇だとか、小さくて可愛いヤツ。
3枚作った刺繍サラシにちんすこうを振り分け、刺繍がリボンのところに来るようにして、花結びにする。
実験みたいなことをするのも楽しいけど、こういう女児仕草も心が潤うわー。
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