千客万来
「おはようございます」
「んー? こんな時間に山から見ない顔だな。身分証を確認させてもらっていいかい?」
今朝の門番はワフタじゃないもっさり髭の人だった。
ピンクがかった暗赤色の髪ってすごい色をしている。
「はい、お願いします」
こんな時に備えて、商業ギルドの証書は袋に入れて首からぶら下げている。
わたしが若干ドヤ顔で証書を出すと、門番は内容を確認した。
「あー、お嬢ちゃんがメシュミーってのを売ってるお嬢様のお客さんか。調子はどうだい?」
「あ、はい。わたしがおむすび屋のリサです」
メシュミーって何だ。
もはや原型がないじゃないか。
「あ、そうそう、おむしゅび。ちょっとお高いが美味いらしいね。話のタネに俺も一つ欲しいんだが、いいかい?」
「はい。ひとつ銅貨5枚です。おむすび屋の時はこの布を頭に巻いてますんで、どうかご贔屓に」
ちょんちょん、と頭に巻いたさらしを強調すると、ふは、と門番は笑った。
「それはわかりやすくていい。ただね、ちょっと物は相談なんだが……」
声を潜めた門番に耳を傾けると、門番は囁くように言った。
「証書の類はできればバッグに入れてくれないか。胸元から出されると、おいちゃんドキドキしちゃうから」
「ぬぉおお、ひょっとして非常識でした?」
「子どものお使いではたまに見るけど、大人がそこに貴重品を入れてるのはあんまり見ないねえ。用心するのはいいけど、自分の身もしっかり用心しようね。兵士はね、若い連中も多いし、おかしな勘違いがあるとお互いの不幸の元だから」
若くもないのに、いらぬ心配を掛けさせてしまった……恥ずかしい。
「まぁ、おっちゃんなりの老婆心ってやつなんで若い女の子には軽く聞き流してもらえりゃ幸い」
ぱちん、とするウィンクも決まっている。
髪と同じ色の髭を生やしているせいで老けて見えるものの、そこまでおじさんというわけでもなさそうなのに、自称おいちゃんとかおっちゃんなのか。
「あの、ご注意を頂いたところでお恥ずかしいんですが、わたしこれでも結構いってまして……」
「そうなの?」
「遠いところから来たのでこちらの常識には疎いのですが、今年で28になります」
「へぇ、見えないねえ。27くらいかと思った」
ぞ、属性純次のひとだ。
「俺はベアド。何かあったら話を聞くから相談においで。聞くだけだけど」
へらへらと笑って手を振られる。
兵士にもいろんな人がいるもんだ。
「おはようございます」
「お、おはよう。今日も元気がいいねえ」
朝市でブッケに挨拶をすると、ブッケも気さくに返してくれる。
「そういえば、お粥屋さんって毎日出してるんですか?」
「ん? 飯は毎日食うだろう?」
準備をしつつふと気になって聞くと、何とも男前な答えが返ってきた。
「お休みの日はないのかなって」
ブッケの隣でなら安心してお店を開けるけど、まだまだこの世界に慣れた気はしないからなぁ。
「そりゃあ、用事があって粥屋を開けなかったり、店を休むことはあるが、基本的には毎日露店も出すし、店も開けてるねえ」
「ここいらの人はみんなそうなんです? 働き者ですねぇ」
「いやー、どっちかというと俺らみたいなのが珍しいよ。朝市に毎日出てる奴はそういない。普通は食っていければそれでいいからね。俺は料理が好きなんだ」
「ブッケが働き者だったか……」
ブッケの作業を少し手伝ったりもしつつ話をしていると、ブレッドがやってきた。
「おはよう。調子はどうだ?」
「今日はまだだね」
「今日こそ俺が一番か?」
「あ、いや。門のところでベアドさんが買ってくれた」
「……そっか」
なんだかがっかりしてるのはなんで。
「今朝の門番はベアドだったのか。なんか変なことを言われなかったか?」
「28だって言ったら、とても見えない。27くらいかと思った、って」
話を横で聞いていたブッケがふはははと笑い出した。
「アイツはなぁ、適当でいい加減だけど面白くて憎めないんだよなぁ」
「あー、そんな感じでしたね」
やがて、ガヤガヤとゲルキたちがやってきた。
人数が……多い!
「うぉむしゅびひとつ!」
「ばっか、ろみすびーだろ。こっちもひとつ」
「はい。おむすびおひとつですね」
何人かできたけど、全員が買うってわけでもなくて、全部で5つ買ってもらった。
「ちょ、お前大根食いすぎ」
「けちけちすんなよ、大根だろ?」
「リサの大根、妙に美味いんだよ。あぁ! お前くっちまいやんの」
「お、本当だ昨日と味が違う」
「ブレッド、銅貨3枚渡すから半分くれ」
「は? ヤだよ」
先に来たブレッドまで巻き込まれている。
わいわいがやがやとしているとマグもやってきた。
「おいおい、何の騒ぎだ?」
「皆さんおむすびを買いに来てくださって……」
「あー。遅かったか。今日はもう売り切れか?」
「まだ一食分は残ってますけど」
「それはよかった。今日も食べる、ってチビが駄々こねてたからな」
苦笑するマグに売って今日も売り切れだ。
「おむすび売り切れました。ありがとうございました」
「おー、お疲れ」
頭に巻いたサラシをとる。
おむすび一つじゃ足りなかったらしい面々は、ブッケのお粥も食べている。
おむすびを半分ずつで節約しても、その分お粥を食べてたら意味がない気がするけど、それでいいんだろうか。
こうして早々に売り切れてしまうなら、販売数を増やそうかな。
でも目新しい今だけの売り上げだろうか。
現状の限定八食が少ないのは、確かだ。
でもこれ以上持ってくるとなると、ちょっと重い。
一応明日も同じ数にして様子を見ようかな。
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