ホットケーキとベーコン
ご飯を炊く間に、水に晒していた里芋の茎を引き上げて干す。
試しに一本齧ってみたら、味は特になく柔らかいのにしゃくしゃくしている。
「へー、こんな感じなんだ」
煮物でも酢の物でも美味しそう。
何本かめんつゆでサッと煮る。
しゃくしゃくの食感が楽しい。
これはまたお酒が進んじゃう。
お通しに小鉢でこういう煮物が出てくると、お、ってなる。
「ぎゃああ、失敗した!」
今日のカップ麺はヤキソバ。
いつも通りの手順で炊き込みご飯にしたはずが、カレーうどん以来の麺が戻り切らない事態が発生した。
ご飯も硬いから、カレーうどんの時と同じく、お酒を振って炊き直す。
今日はブレッドが来る予定だから、久々に二合炊いたけど、こういう日に限って失敗するよな……。
しかし、カレーうどんと違ってとろみがついたスープなわけでもないのに、なんで失敗したんだろう。
味見におむすびを一個もぐもぐしつつ、成分表を確認する。
ご飯が入って薄まったせいか、ジャンク感も少し薄れている。今までの蕎麦やうどんと違って和風じゃないのが少し違和感。比べるとカレーうどんもしっかり和風なんだな。
ヤキソバ味だと思って食べると味が薄いから、ソースとか足したくなる。
「……あ、麺の量が多い」
天ぷらそばの麺量が72g、きつねうどんが74g、対してヤキソバの麺量は90g。
これかー!
麺が吸う分、さらに水を増やさなきゃダメだったのか。
もう一回ぐらい確認してからじゃないと、おむすび屋さんで出すのは難しい。
12インチのダッチオーブンで一升ご飯が炊けるはずだから、おむすび屋さんを始める時はダッチオーブンを使うつもり。はじめは様子を見て五合ぐらいずつからにしようかと思ってる。カップ麺を炊き込むと麺の分容量が多くなる。増やせても六合か七合で限界だろう。おばあちゃんの遺産にある炊き出し用か文化祭の模擬店で使いそうなサイズの鍋は、いくらどんな鍋でもご飯が炊けるとはいえ、薄手だからあんまりご飯を炊くのに使いたいとは思わない。それだけ炊いたら、おむすびにするのも大変そうだし。
カップ麺は一ケース12個入りだから、五合分ずつ2回でちょうどいいと思ってたけど、何度も試作が必要なら、このメーカーのヤキソバは一回でおしまいだ。
端数やバラのカップ麺はどうしようかな。
「……あれ、12個入りじゃない?」
箱を確認して気がついたんだけど、ヤキソバは18個入りだった。他のカップ麺と形が違って余分な空間がない分なのか、たくさん入ってる。
「ってことは……」
うどんやそばじゃない縦型のカップ麺に至っては20個入りだ。
カップ麺180個どころじゃなかった。
限定品なんかのバラを合わせるまでもなく200個以上ある。
毎日食べても一日一個じゃ賞味期限を過ぎちゃうじゃないか。
本当にわたしは何を考えてこんなに買い込んだんだか。
細々と片付けや整理をしていたら、ブレッドがやってきた。
「土支度、やったことがないって割に頑張ってるな」
タープの枠からぶら下がる葉っぱなんかを見渡して、ブレッドは感心している。
単に食べられるものを無駄にしたくなかっただけだけど、そういえば冬支度ってこういうのもあるよね。
「お昼、甘い物にするつもりなんだけど、大丈夫?」
「あぁ。俺だって偶にはりんごくらい食うぞ」
「ならよかった。今から作るね」
グリルを準備し、最後の卵をかき混ぜてそこに溶かしたヤギミルクを入れる。水でもいいんだろうけど、なんとなくミルクが入らないと収まりが悪い気がしちゃう。
粉末のヤギミルクは、温かいのをそのまま飲んだら、かすかな甘みの向こうで、羊が草原をはしゃぎ回ってる味がした。ヤギだけど。
コーヒーと合わせればそこまで気にならなかったから、なんとか消費は出来ると思う。
今日のお昼はホットケーキだ。
一回分ずつの個別パックだから、賞味期限まで一年くらい大丈夫だけど、向こうから持ってきた卵が最後だと思ったら、無性に食べたくなった。時々食べたくなるのに、一回に出来る量が食べきれない。それがわたしにとってのホットケーキ。
向こうで一人暮らしの時は冷凍したり、めんどくさくてそのまま放置したのを食べたりした。作る時はワクワクするのに冷めてるの齧ると妙に侘しいのよね。
だから一緒に食べてくれる人がいる今日作ろうと思ったのだ。
ホットケーキを焼く横で、ゴロゴロっと切ったベーコンとりんごを炒めて焼き上がりに添える。
仕上げにバターを乗せてたっぷりのメープルシロップをかけた。
「お? おぉおお……」
ブレッドは呻き声を上げて固まっている。
「どしたん?」
「おま……それ……なん……この、甘い、匂い……」
「あれ、甘いのやっぱダメだった? この匂い嫌い?」
「いや、ちが……これ、樹蜜だろ?」
ブレッドは特大の溜息をついてから聞いてくる。
「……樹蜜。そうだね、メープルシロップは木からとるね」
「そんな高級品をダバダバ惜しげもなくかけるから驚いたんだよ」
「なるほど。こっちにもメープルシロップみたいな物はあって高級品なのか」
メープルシロップも開封後は冷蔵保存でお早めに、って感じだからな。あんまり輸送とかにも向かなそう。
この瓶を空けるまでは、砂糖の代わりに積極的に使っていこう。
「まぁまぁ、冷めないうちに召し上がれ」
ホットケーキは冷めると哀しいからね。
「有り難く食うけど」
納得いかない顔をしていたものの、ガッと大きく切って頬張るあたり、根性座ってていいと思います。
さて、わたしも食べよっと。
ふんわりカリカリしみしみ、切るところからもう美味しい〜!
お馴染みの味と香りだけど、たっぷりシロップが噛むとじゅわっとする。染みてないとこもふんわりで、それはそれで。
付け合わせにしたベーコンとリンゴがね、甘さでだるくなってきた舌をリフレッシュさせてくれるから、また一口食べられる。
うわ、付け合わせ大正解。
りんごの酸味とベーコンの塩気がいい仕事するわ。
ホットケーキは好きなんだけど、いつもなら一切れ食べると満足しちゃうんだよね。
これなら全然一枚イけちゃう。
「このベーコン、もしかして自分で作ったのか?」
「うん」
「塩っ辛くなくて柔らかくて旨いな、これ。ベーコンなのにバクバク食える」
わたしより先に食べ終えたブレッドは、名残惜しそうにフォークでお皿を撫でている。
「足りなかった?」
「あ、いや」
「おむすび食べる?」
「食べる!」
ヤキソバ炊き込みご飯を二個包んだヤツを差し出すと、ブレッドは嬉々として封を解き、かぶりつく。
「うまっ。これ、あれだな。最初に食べさせてもらったヤキソバに似てる」
わたしもホットケーキを食べ終えて、お茶を飲んでいると、ブレッドは満足そうに溜息をついた。
「あれ、ケーキってヤツだろ? 甘くていい香りがして柔らかくて……子供の頃に蜂蜜で溺れたいと思った夢が叶ったみたいだ」
いつぞやの夢かわ甘味男子を思わせるくらいウットリとしている。
アイスバケツ喰いとかスイカ丸ごととかケーキワンホールとか、子供の夢だよなぁ。
多分それに近い感動だったんだろう。
「この世界にもケーキはあるんだ」
「貴族の集まりでは出てくるらしいぞ。残っても甘いものなんて上級使用人が片付けるから、俺は見たことがないけどな」
この世界のケーキってどんなものなんだろ。
話にしか聞いたことの無いケーキって、のび太くんの『未来のお菓子』っぽさがある。
それは憧れるわ。
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