かけはぎと継ぎあて
予想していた通り、今朝は朝から雨が降った。
干していた大根なんかをしまったわたしグッジョブ。うっかり米をプレハブに持ち込まなかったわたしバッジョブ。昨日のうちに薪をガレージに移しておいてよかった。
一応食べるものはプレハブにもあるんだけどさ。
仕方がないから雨の中物置きに行って、まだ食べたことのないお米を二合持ってきた。
微塵切りにした長ネギの白いとことニンニクと塩とごま油で作ったネギ塩ダレを茹で塩豚に乗せる。
そして3種類目のお米様、甘くてもちもちしてる。さすがはブランド米、食べ比べると全然違う個性で、どれも美味しい、よーな気がする。知ってたけど、わたしあんまり舌が肥えてないな。全部いっぺんに炊いて食べ比べたら違いがわかるかもしれないけど、どれも美味しいことしかわからない。
汁物を一人分用意するのが面倒で、フリーズドライのお味噌汁にした。揚げナスのお味噌汁美味しい。あんまり賞味期限気にしないで、長期保存食もガンガン消費しちゃってるけど、いつどうなるかわからないし、それでもいいかな。
長期保存食の賞味期限である三年後、五年後には、向こうに帰れてるか、こっちに馴染んでるか、どっちかであってほしい。
ネギ塩豚は美味しいけどちょっとしょっぱい。
朝からビールが欲しくなるじゃんか。
昨日もブレッドとごはんを食べたせいか、目測を見誤って塩豚ちょっと切りすぎた。
食べきれなかった分はお昼に回そう。
朝食を済ませて、昨日着た服の洗濯をしてしまう。
室内で洗濯が完結するのはほんと神。
めちゃくちゃ便利だけど、あとは放置しても洗濯できるようになればなー。
で、だ。
すっかりルーチンと化した作業を済ませ、わたしは昨日買ったパンツとハギレと裁縫セットを並べた。
フィーダでも結構ツギハギの服を着た人は見かけたし、上からスカートを履いちゃうから、そんなにこだわる必要はないのかもしれないけど、ただ継ぎをあてるだけじゃつまんない。
せっかく時間もあるし、お直しもこだわってみたいよね。
二本あるパンツのどちらも裾上げはかなりしなくちゃいけなくて、ちょっと凹んだ。いいんだ。擦り切れた裾を処理できたから、見た目を綺麗にできたし。
ゲルキくん、まだまだ成長期なのか小柄だったのに、足は長いのね。
一本は薄くなったおしりに継ぎをあてた上からポケットをつけたり、膝にはワザと色が目立つ当て布をして、周囲を刺繍糸でかがってみた。
わたしが履くにはちょっと可愛すぎたかもしれない。わたしの感覚的に膝あてがつくと幼児服っぽく見えてしまう。
まぁ、いいか。
噛み跡が残ってる方はもう一本と違って薄くなったから破れたのではなく、転んだせいで破けたみたいで、周辺の生地が弱っていない。なので、パンツを裾上げしたハギレをほぐし、ほぐしたハギレの糸を使って繕うことにした。
縦糸を張るようにして破れを塞ぎ、横糸で織るように縫い進めていくのがダーニングという手法だ。かけはぎに近いけれど、縫い付けながら織る分、伸縮に対しての強度は高い。本当はダーニングマッシュルームっていう専用の台があるとやりやすいんだけど、ようは縫ってる時にずれないように布を固定できればいいんだから、代用品はなんとでもなる。
金平糖が入ってる可愛いビンに輪ゴムで固定して、布がひきつれないようにする。こちらの生地は機械製の布と違って糸にも布にもムラがあるから目立ちにくく補正できた。
で、脛にポツポツ穴が空いてる方は、その穴の空き方を活かして、刺繍で穴を塞ごうと思います。
小さい穴は星型に中心に向かって穴を埋めるように糸を重ねる。牙なのか大きな穴は周辺をかがってから、糸を編むように丸く縫う。大きな穴は裂けていたから、両端を寄せつつ、その糸に絡めて三つ編みをして縫い目を太くする。裂け目を隠すために太くなった縫い目を、枝と見なして葉っぱを足す。かがった穴が大きな花となるわけだ。ついでに小さな花も散らすと、噛み跡は花冠みたいになった。
「……できた! 完璧じゃない?」
全体にバランスを見つつ、噛み跡以外にも花や星を散らしたので、こちらもやたらにファンシーな仕上がりになってしまった。
「大丈夫、ここは異世界……」
向こうで年甲斐もなくやたらに可愛い系な格好をすると、逆にオバ見えしてしまう。でも、ここは異世界だし、オバ見えとか若見えとか気にしなきゃいけない相手はいないんだ。
どんな格好をしてたって、いい歳してみっともないとか、無理して若作りしちゃって、とか、アドバイスぶってバカにしてくる人たちはいない。
「……でもコレは可愛すぎたな」
久しぶりの手芸で、わたしの女児心が火を吹いた。
可愛すぎて履きにくいな、と思ってる一方で、持ってきたビーズつけたらもっと可愛いかも、とか考えちゃってる。いやいや。ビーズなんか付けたら、ゴロゴロして物理的にも履きにくくなるわ。
プリーズ、わたしに女児をプリーズ。
わたしが目一杯可愛く仕上げたお洋服を代わりに着てくれる女児が今だけ欲しい。いや、コレを女児に着せようと思ったら相当縫い縮めなきゃならなくて、そしたら刺繍も何も途中でぶったぎらなきゃならなくなるから、都合のいい女児が現れてもどうにもならんのだけど。
「あー、コレも売れないかな」
古着屋で仕入れてリフォームしたのに、手間賃を掛けて売る。もしくはお直しの注文を受けてもいい。
ゲルキが繕うので銅貨10枚と言っていたのを思い出す。その繕い方がどんなものかは知らないけど、需要はありそうだ。
だけど。わたしの洗濯も向こうから持ってきた洗剤その他ありきのものだ。
わたしからするとかなり匂うこちらの古着は、しっかり洗濯してからじゃなきゃ加工する気にもならない。
こちらで商売にするなら、石鹸や灰汁といったこちらにもあるものでどれくらい代替になるかを確かめてからにした方がいいかもしれない。綺麗に洗濯する手間を考えたら割に合わないことになるかもしれないし。
考え込んでいると強い空腹を感じた。
「あ、もうこんな時間」
そういえば、昼の鐘が鳴った時に「あとここだけ仕上げちゃお」なんて考えた記憶はある。それからも、刺繍を付け足したりなんだりして……昔から、夢中になると時間を忘れがちなんだよね。
時間はもはや、お昼どころか早めの夕食ぐらいの時間だ。
「お腹減った……」
朝食べた物は残ってるけど、目先を変えたい。
チャーシューを作った時ももったいないと思っていたから、臭み取りに使ったネギと生姜を取り出して水気を切って細かく刻む。朝の残りのネギ塩豚も細かく刻んで混ぜてお米と一緒に炒めて、ほりにしで味を整える。ほりにし、万能なやつだ。
「卵欲しかったなー」
香味野菜と豚だけのシンプルなチャーハンに薄めためんつゆに塩漬けの大根の葉をちょっと加えただけのスープを添えて、だいぶ遅い昼食にする。
この時間にこれだけ食べたら、晩ご飯はいらないな。
といっても、いつも晩酌で夕飯代わりにしちゃってるけども。
小腹が空いたらビール飲んで、缶詰めでもつまんでおこう。
雨の中、トイレも外に行かなきゃいけないのだけが億劫だ。
渡り廊下でもつけられたらいいのに。
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