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今日から使える異世界ライフハック  作者: 白生荼汰


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労働力と塩漬け肉と大根のシンプルスープ

 帰るなり、エコバッグごとタライで洗剤に漬け込む。

 血液汚れは時間が勝負なのだ。

 一旦洗って乾かしてもそうかは知らないけど。

「なぁ、リサ。薪を移動させると言っていただろ。どこに移動させるんだ?」

「ちょっと待ってて」

 物置の手前から積んである木製パレットを下ろそうとして、意外な重量にてこずる。

「おもっ……え、これ下ろすの無理じゃない?」

 わたしの身長より高く積まれたそれを下ろすには、台かなんかが必要だ。

 途方に暮れていると外から声が掛かった。

「ここ、入ってもいいか?」

「あ、うん。これ、下ろしてもらえる?」

「こいつか?」

 入ってきたブレッドは、木製パレットを確認するみたいにペシペシ叩いて……。

「ちょっと待った。怪我しちゃうからこれ使って」

「……うん? これ手袋か」

「軍手。棘刺したら痛いからね」

「お、滑らなくていいな。コレをどこに運べばいい?」

 とてもじゃないけど持ち上がらないと思ったそれを、ブレッドは何枚も重ねて持ち上げる。

「え、すっご……一旦下ろして、運んでくれるのはとりあえず2枚でいいよ」

 2枚のパレットをガレージに運び込んで、はじに並べてもらう。

「この上に外の薪ラックに並んでる薪を積むつもりなんだ」

「よし、任されよう。ただで飯を食うのも、作ってもらってる間ぼんやりしてるのもどうかと思ってたしな」

「助かる。ってそんなにたいしたものを出せるわけでもないのに悪いね」

 いや、ほんと。

 ブレッドが薪を移動してくれてる間に、わたしは昼食の準備をする。

 大根の残りを薄めの銀杏切りにして、軽く塩をまぶしておく。コレで一本使い切れそうで、ちょっと気持ちいい。それから塩豚2パックを取り出して、ハーブ入りの方はキッチンペーパーを取り替えて巻き直して戻す。塩だけの方を半分に切って、半分は同じくキッチンペーパーを巻き直してしまってから、切り口のところを薄く切って、焼いてみる。

「このくらいなら塩抜きいらないかー」

 大体の塩加減だったけど、それほど外してはいなかったみたい。

 半分は多いような気もするけど、ブレッドがいるし、食べてくれるでしょう。もっとも、あんまり具が多いとスープじゃなくて煮物になってしまう。

 塩豚のブロックは半分の半分程を大きめの一口大に切る。潰して微塵切りにしたニンニクと生姜をごま油で香りを出したところにお肉と筒切りにした長ネギを入れて軽く焦げ目がつくまで炒める。水を入れたら塩揉みした大根の水気をギュッと絞ってから軽く洗ったのを追加して、アクを掬いつつ煮る。味付けは塩豚の塩味があるから、味を見ながらだ。

「本当は椎茸とか昆布入れたかったなー。あと春雨」

 しばらく煮立てる間に、畑から小松菜と白菜を取ってくる。ベロっと広がってたから何かと思えば白菜だったよ。中心の結球したところだけ取ってきたけど、外側も食べられるのかしら。

 小松菜は茹でてスープの青みに、白菜は残った塩豚を薄めに切って炒め合わせる。

 あとは朝出した甘酢漬けの残りを出したら……。

「こんなものかな」

 スープには仕上げにごま油を追加で垂らす。

「ごはん出来たよ」

「待ってました」

 いそいそとテーブルに来たブレッドには、水魔法で手を洗ってもらう。

 水魔法、便利。

「ずっといい匂いがしていてたまらなかった。腹が鳴りっぱなしだった」

 ブレッドはパンを片手に、白菜と塩豚の炒め物を口にする。

「……ん、これ塩漬け肉がこんなに入っているのに塩っ辛くないな」

 氷をふんだんに使える分、普通に売ってる豚肉の塩漬けと比べると、わたしが作った塩豚は塩分は控えめなんだろう。

「スープも美味い。大根と塩漬け肉のスープなんて、こっちでもよくあるのに、リサが作ると一味違うな」

「それは多分ごま油様のおかげかな。ひとたらしで全然風味が変わるよね」

 出汁を追加してないからどうかな、と思ったけど、あっさりめではあるものの、塩豚のおかげかちゃんと美味しい。塩豚にするとアミノ酸が増えるんだっけ。アミノ酸て偉大だな。

「リサはそうやって元の世界のおかげだっていうけど、やっぱり料理上手いだろ。どんなにいい材料や調味料があっても、作る人間によって味って変わるぞ」

「またまた、褒めすぎだって」

「遠征に行けばわかる。順繰りに当番で作るんだが、使える材料は似たようなものなのに、作るやつによって食えるものから拷問まで幅広い」

「拷問、て」

「遠征中の食い物は特に貴重だから無理にでも噛んで飲み込むが、たまに喉が飲み込むのを拒否するような代物もある。そこまで行くと毒じゃなくても腹を壊すから、食べなくても許される」

「……それはすごいね」

 兵士は戦闘以外でも過酷な職業のようだ。

「俺はなるべく事故がないように、煮るだけ、余計なものは入れない、火をしっかり通す、を心がけている。難しいことはけしてしない。だから、俺が当番の時は食えると評価されている」

 ブレッドは自慢そうだ。

「それってブレッドこそ料理上手なのでは?」

「いいか、リサ。食える、と美味いの間には高い山があるんだ。残念ながら俺ができる料理は食えるだけだ。それでも、食うタイプの拷問よりは相当マシだけどな」

 食事が済むと、ブレッドは引き続き薪を移動させてくれた。

「ついでだ。他に何か力仕事はあるか?」

「あ、それならここにもパレットを置いてほしい」

 プレハブの玄関前から少しずらしたあたりに2枚パレットを置いてもらう。

「ここに注文した薪を置くのか?」

「ううん。お風呂場にしようと思って」

「風呂!?」

「領主様のとこでお風呂に入らせてもらったけど、やっぱりお風呂はいいよね」

 パレットを囲うようにテントを建てて、サイドシートをぶら下げる。

 中にポータブルバスタブを移動させれば、簡易バスルームの完成だ。

「高い位置の作業をブレッドが手伝ってくれてすごく助かった」

「いや、この程度どうってことないが……」

「そうだ。お礼にもならないかもしれないけど、チョコレートを気に入っていたみたいだから」

 色鮮やかに個包装された丸いチョコレートをひとつかみ、ごそっと渡す。

 やってから我ながらすっごいおばちゃんぽいな、とは思ったけど、やっちゃったものは仕方がない。

 なんか「飴ちゃんあげよか」っていうステレオタイプのおばちゃんぽいことをしてしまった。

「いろんな味があって美味しいんだよ。どの味が気に入ったか教えてくれたら嬉しいな、なんて……あ、そのまま持ってけって言われても困るよね」

 焦って小さな紙袋を探してきたら、ブレッドは受け取ってくれなかった。

「ありがとう。手伝ったのはあくまで飯を食わせてもらった礼だから、気を使わないでくれ。それと、こんな贅沢なものを兵舎に持ち帰ったら喧嘩になる」

「そうなの? じゃあ、ひとりでこっそり食べちゃえば……」

「甘くていい香りがするから、隠し通せるとも思えない。だから、ここで食べていっても構わないか?」

「もちろん。それなら、コーヒーを淹れるから一緒に食べよう?」

「その方が嬉しいな」

 きゅん。

 ……あれ、おかしいな。

 ブレッドが柔らかく笑うものだから、ドキドキしてしまった。

 ブレッド、かっこいいし、可愛いものな。

 会いに行けるアイドルっていうか、会いに来てくれるアイドルって感じ?

 夢かわ甘味男子はぱっと見クール系っぽかったし、ワフタ氏は親しみやすいお兄さん枠、ゲルキくんはやんちゃ弟枠でアイドルユニット組めそう。

 そんなくだらない妄想が止まらなかった。

いつも読んでいただきありがとうございます。

ブックマークや★★★★★、レビュー等で応援してもらえると嬉しいです。


どうぞよろしくお願いします。

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